3-3.「言説」

3-3-1.説の分類

📖この節では、次の項目について説明する。

  【せつ

   🖈説の属性

   🖈説の形態

   🖈説の分類についての補足

   🖈本についての補足



      †



📕【せつ

 〈意についての見解を言語化したもの〉〈意を示したものの総称〉の意。

 [けん]と書いて同義。


 なお[せつ]は、しばしば「theoryセオリー」と英訳される。

 しかし、この英単語の対訳としては、〈学説〉〈原理〉〈常識〉などがわしいように思われる。

 〈意見〉転じて〈発言〉〈講釈〉を字義とする〔説〕の対訳は、「opinionオピニオン」がとうなのではないだろうか。


   📍説の属性


 人の心に生じるだけで成立するオピニオンとしては、次のような類型が存在する。


  • ものがたりstoryストーリー):何らかの出来事を述べるオピニオン

   ◦じつdocumentドキュメント):現実の出来事のみを克明に語る物語ストーリー

    ‣ かんそうimpressionインプレッション):何かに対して感じた事を述べる事実ドキュメント

    ‣ ろくdataデータ):日常で与えられた瞬間的な事実ドキュメント

     ⁃ ねんmemoryメモリー):ある人にとっての特別な時録データ

   ◦すじがきplotプロット):⦅期待やにより⦆未来を仮定する物語ストーリー

   ◦たんtaleテール):⦅娯楽目的の⦆創作された物語ストーリー

    ‣ しゃじつdocumentaryドキュメンタリー):現実の出来事になぞらえた綺譚テール

    ‣ ぐうfableフェーブル):⦅教訓目的の⦆たとえ話的な綺譚テール


  • ろんじゅつthesisテーゼ):物事の機序や考え方について述べるオピニオン

   ◦かいせつexplainエクスプレイン):事柄をぶんせきする論述テーゼ

    ‣ ちゅうnoteノート):事柄の要所個々についての解説エクスプレイン

    ‣ はんろんobjectionオブジェクション):既存の論述テーゼを指摘する解説エクスプレイン

    ‣ ひょうろんreviewレビュー):既存の説を評価する解説エクスプレイン


  • instructionインストラクション):そうれという要求を述べるオピニオン

   ◦めいれいcommandコマンド):条件の達成を要求する指示インストラクション

   ◦ごうれいorderオーダー):決まった動作を要求する指示インストラクション

   ◦ようせいrequestリクエスト):被要求者にきょ権のある指示インストラクション

    ‣ がんぼうwishウィッシュ):正式な要請行為をともなわない要請リクエスト

    ‣ よくぼうdesireデザイア):自身の欲求から課される要請リクエスト

   ◦はんcodeコード):論述テーゼをともなう指示インストラクション

    ‣ ほうてんlawcodeローコード):取るべき行動を説く規範コード

    ‣ きょうてんscriptureスクリプチャー):積むべき徳(品性)を説く規範コード

    ‣ てんdictionalyディクショナリー):遣うべきことばを説く規範コード

    ‣ だいthemeテーマ):語るべき話題を説く規範コード

    ‣ とりあつかいせつめいmanualマニュアル):辿たどるべき手順を説く規範コード


   📍説の形態


 オピニオンを心の外へ発露させたときに生じる形態としては、次のような類型が存在する。


  • でんぶんreportレポート):人から伝達される説の総称

   ◦しんぶんnewsニューズ):即時的にもたらされる新たな事実ドキュメント伝聞レポート

   ◦うわさhearsayヒアセイ):確認なしに伝達された根拠あいまいな伝聞レポート

    ‣ でんせつlegendレジェンド):時間や距離をまたいで伝承されるヒアセイ

     ⁃ ていせつtheoryセオリー):正しいものとして一般に流通している論述テーゼ伝説レジェンド


  • しょliteralリテラル):説を書きあらわした文面の総称

   ◦ろくlogueログ):選別せずに時録データつづリテラル

    ‣ しゅうけいjournalジャーナル):一定のまとめ処理を施してつづ記録ログ

     ⁃ もくろくcatalogueカタログ):分類ごとにまとめた集計ジャーナル

      ・ さくいんindexインデックス):目的のリテラルを探し当てる補助をする目録カタログ

   ◦ずいひつessayエッセイ):自説を随時しるリテラル

    ‣ おぼえがきmemorandumメモランダム):雑多な事の備忘録としてしる随筆エッセイ

    ‣ にっdialyダイアリー):毎日きまってしる随筆エッセイ

   ◦しゅうcomplieコンパイル):幾つかの説を寄せ集めたリテラル

    ‣ しゅうmagazineマガジン):同傾向の説を取りまとめたコンパイル

     ⁃ しゅうanthologyアンソロジー):すぐれた詩を取りまとめた誌集マガジン

    ‣ たいぜんcompleteコンプリート):ある事柄に関連する説を漏れなく集めたコンパイル

   ◦だいほんscenarioシナリオ):筋書プロットをしっかりとした形としてあらわしたリテラル

   ◦ノベル(novelノベル):綺譚テールをしっかりとした形としてあらわしたリテラル


 ここに紹介したものに限らず、人のする話はすべてオピニオンと呼ぶ。

 注目されたいのは定説セオリーの位置づけで、日本では「じょうしき」とも呼ばれるが、これは少なくともぼくの解釈ではヒアセイの部類であり、実際にとう性に欠ける〝定説セオリー()〟が世にあふれているので気を付けられたい。


 なおこれらは、属性としてずいするものであって種別ではないため、どれか1つだけに属するというわけではない。

 たとえば綺譚テールと呼ばれるオピニオンの中にも、事実ドキュメント論述テーゼが含まれる余地はおおいに有る。

 要するにその境目はあいまいで、「ジャンル分け」というものも目安でしかなく、むやみに分類しようとしても混乱をきたすだけなので、厳密性は期待しないほうが良い。

 ここにれつしたのは単に、そのような要素が少なくともある、という事を参考までに示したにすぎないものである。


 ちなみに今書いているこの文章は、強いて分類するなら教典スクリプチャーに該当する。


   📍説の分類についての補足


 事実ドキュメントはラテン語〔documentumドクメントゥーマしょう〉〕に由来するもので、〈ぶんしょ〉もまたdocumentドキュメントと呼ぶのは、一般に文書によって事実についての証拠を残すためである。


 「註意ノート」を「ちゅうbeingビーイング carefulケアフル:気を付ける〉」とうのは、そもそも誤り。

 あまつさえ〝「ちゅうい」してやる〟と言うが、その割にはみんな「号令オーダー」しかやっておらず、しかしそれで人の成長が促される事はほぼ無い。


 記録ログが「recordレコード」と呼ばれる場合が多々ある。

 しかしそれは、本来ならば時録データであるはずで、recordレコードは〈おぼえさせるもの〉転じて〈何かをおぼえさせたもの〉の意、つまり道具やばいたいを指すものだ。

 ただ実際の運用としては、recordレコードが名詞として機能するときには意が転じ、〈媒体レコードに記録された時録データ〉を指すようではある。

 ほか、笛を鳥の調教に用いたのが「recorderリコーダー」の語源とされるが、正直そんな方法で鳥の調教ができるとは思えないので、〝なんかできそうな気がする〟という話に尾ひれがついたのでは、と想像する。

 なお、〈時録データのこそうとする行為〉および〈日付〉を「dateデート」とい、dataデータとともにラテン語〔datumダトゥーマ〈与えられたもの〉〕に由来する。


 一般にう「メモ」は記念メモリーではなく覚書メモランダムを指すもの。

 また「ノート」は、本来〈註意ノートしるす冊子〉の意の「notebookノートブック」であるが、これは註意ノートを内容とした覚書メモランダムしるばいたいであり、オピニオンとは異なる。

 コンピュータのメモリ(一時記憶装置)は覚書メモランダムに該当しそうに思えるが、基本的に忘却という概念が無く、扱うための特別な時録データを保持する装置てせもある。

 よって記念メモリーという解釈でも、不整合はとりあえず無いと言えるだろう。


 どういうわけか誌集マガジンを指して「アンソロジー」と呼ぶ事があるが、「anthologyアンソロジー」は〈せんしゅう〉転じて〈しゅう〉である。

 これは「アンソロ」と略されることがあり、そこから「un-soloアン・ソロ(不単独)」が想起され、合同誌のことだと誤解に至ったのではないかと想像される。

 しかしそういう事なら、「アンソロジー」ではなく「アンソロ」と呼ぶべきだろう。

 またその「poemポエム)」について、詩文として書こうが平文として書こうが、念としては差が無い。

 つまりこれは文体の一種で、すなわち「語」に属するものあり、オピニオンの種別ではない。


 そして『ぬののふく』は、〝勇者が旅立つときに王様からたまわる〟とわれる、ゆいしょ正しき「でんせつよろい」である(

 あと見てのとおり、例の目録カタログでも索引インデックスでもなく大全コンプリートなんだけど、きっと彼女をそう命名した登場人物のだれがしかがそこらへんわかってなかったって事だよねそうだよねニヤニヤ(


   📍本についての補足


 ほか、「ほん」は〈どころとされる物〉転じて〈原本〉〈原典〉〈⦅原典である事を誇示するために⦆しっかりとしたそうていのされたリテラル〉。

 「さっ」は、〈小規模な本〉。

 「しょせき」は、〈本の存在に対する公的な登録〉転じて〈公的な登録の有る本〉。

 これらはどれも「bookブック」とい、かつて「beechビーチ〈ブナの木〉」の皮に物を記したことからくる派生語ではあるが、つまりばいたいを指して呼ぶものであり、オピニオンとは異なる。

 「台本シナリオ」や「ノベル」はこれに近いが、必ずしも物理ばいたいを指すものではなく、「しっかりとした」とは内容の構成と提示の有様に関してうもの。


 なお「書(literalリテラル)」は本を直接指すわけではなく、〈文字(letterレター)であらわされる物〉の意すなわち〈記述された文の総称〉であり、また〈記述にたづさわるための最低限のわきまえ〉を「literacyリテラシー」とう。

 ISBNアイエスビーエヌInternationalインタナショナル Standardスタンダード Bookブック Numberナンバーこくさいひょうじゅんしょばんごう)とよばれる番号が世界共通の公的登録番号であり、ISBNを持たないリテラルは書籍とはされない。

 書店で何か探していると、店員から〝本をお探しですか、雑誌をお探しですか〟とたずねられるのはこのため、雑誌は本には該当しないためであり、つまり書店と本屋は厳密には別物。

 あ、べつに何も探してなくてもたずねられるから冷やかしはダメだぞ(

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