志耀伝(続:ある転生から始まる三国志後記)
満月光
天才の萌芽
第1話 潘誕の店
「今戻ったぞぅ‼︎ 今朝は大漁だ。 これで店の客にがっかりの思いをさせずに済む。」
その大声を耳にして、店の奥から
「大声はやめて下さいね。
女将に続いて、
女の子は、入口に主人の姿を認めると、顔一杯に笑顔を輝かせた。
「父様、お帰りなさい。今日は、お魚一杯獲れたの?」
胸に飛びつく女の子を高々と宙に抱き上げた男は、満面の笑みを返した。
「おうともさ。耀春が昨晩お祈りしてくれたお陰だ。明日は、一杯お魚が
二人の姿を観ながら
「本当ね。今朝の魚は、太ってるし
「ところがそうは行かないのだ。これ程の大魚となれば、臭みを抜くのにも時間が掛かる。煮付が出せるのは、明日だな。」
「そうなの?もう三日通い詰めて、煮付けを楽しみにしてる人達が居るのに。でもそれじゃぁ、仕方ないですね。」
その時、店の扉を叩く音が響いた。
主人が扉を開けると、入口に鹿皮の
「
その言葉を聞いた華鳥が、笑い声を挙げた。
「また王宮を抜け出して来られたのですね。今頃は、また大騒ぎになっているのではありませんか?」
「そうは言ってもなぁ...。王宮の飯など、冷めた料理ばかりで、とても喰えたものではない。まぁ、余りに文句を言うと、毒味役の者達が失業する。しかし、たまには熱い
耀春が直ぐに、その
「耀おじさま。おはよう御座います。」
そんな耀春の姿に、潘誕は苦笑いした。
「全く....。志耀様に対して、こうも
その言葉に志耀は笑いを返した。
「良いではありませんか。耀春、お前は本当に可愛いなぁ。大きくなったら母様と同じく、飛び切りの美人になるぞ。そうなった時には、私の元に嫁に来るか?」
そう言って頭を
その様子を観た華鳥が、思わず笑った。
「さては、また
志耀は、いかにも
「持ち込まれる縁談と言うのは、
それを聞いた潘誕が、興味深げな顔で志耀に尋ねた。
「ふうん。それじゃぁ志耀様が求める
その問いに、志耀は潘誕の顔を
「実はな。華鳥の
志燿の言葉に、潘誕は思わず手にした
それを観て志耀は大笑いした。
「分かり易い方ですね、貴方は。うっかり冗談も言えませんね。」
頭を
その時、店の扉の
皆がその音に振り向くと、
「あんた、何を言ってる!! 母者の華鳥様を嫁にし
少年の
それに構わず、少年は更に言葉を荒げた。
「大体、あんた何者なんだい?
少年の剣幕に、潘誕が
「
すると志耀は笑いを
「
志耀の言葉に、炎翔と呼ばれた少年は思わず言葉を詰まらせた。
「そ、そう言う意味じゃないさ。
それを聞いた潘誕が、少年に怒鳴った。
「いい加減にしないか。この方は、大切なお客様なのだ。ほら、さっさと
潘誕の
「此れは....潘誕殿以上に分かりやすい奴だ。しかし耀春に対してもう
腹を
「しかし...あの少年は誰ですか?確か前に来た時も、ここで姿を見た記憶がある。大人相手に大した度胸だ。それに、
志耀の言葉に、華鳥が含み笑いをした。
「かなり以前にも、志耀様は炎翔に出会ってますよ。」
そう言われた志耀は首を
「はて?
「呉の
華鳥にそう言われた志耀は、思い当たった様子で
「おぉ、あの少年か。しかし、
「三ケ月程前に、司馬炎様から頼まれたのです。
「それで....どうなったのです?」
すると志耀の
「炎翔兄さま、みんなからボコボコにされたんだけど、何度も立ち上がって、あたしの前に立つのよ....。そしたら、
「ほぅ。つまり耀春は、炎翔兄さまと露摸に助けて
耀春はその問いにこくりと
「耀春、ちょっと炎翔の様子を見てきて。」
そう言って
「あれ以来、耀春は炎翔にべったりです。炎翔という名前、司馬炎様が名付けられたのです。司馬炎様は母親に頼み込んで、あの子を司馬の養子に入れたのですよ。」
「そう言えば司馬炎殿は
しんみりとした様子になった志耀を見ながら、華鳥が言葉を続けた。
「
それを聞いた志耀が、ほぅっと息を吐いた。
「そいつは
その横で、潘誕が申し訳なさそうな顔を作った。
「炎翔には、志耀様が
「それで良いのです。身内同然とは言え、私の正体が知れてしまうと、私も
指を立てて口に当てる志燿に、潘誕も華鳥も笑って
すると扉の陰から、一頭の大きな
それは、見事な純白の毛並みを全身に
「噂をすれば、何とやらだな。耀春の恩人がまた登場だな。」
そう言った志耀にちらりと眼を
その狼の
「ご飯の時間ね。今すぐにあげるからね。」
器に盛られた肉を食べる
「しかし、最初にこの露摸を眼にした時は、
「この仔は、二代目なのです。初代の露摸がこの仔を連れて、三年前に突然店にやって来ました。その時は、この仔はまだ子供でした。初代の露摸は、この仔を私達の元に預けに来たようです。この仔を店に連れて来た後、初代の露摸はすぐに姿を消しました。もう歳でしたからね。一人で静かに息を引き取る場所に向かったのでしょうね。」
「その初代の露摸を華鳥の姉様が治療をして救った話は、以前に聞きました。しかし
志耀から問いを受けた華鳥は、露摸の白い毛並みに眼を落とした。
「白い毛並みというのは、狼の中では
「しかし、露摸のこの
「そう言えば、露摸の姿を見て手を合わせている人を見かける事が時々あります。露摸がいてくれるお陰で、怪しい
「ねぇ、炎翔兄さまは、耀おじさまが嫌いなの?」
すると炎翔は、包丁の動きを 止めて、耀春の
「耀おじさま? 耀春は、あの人の事が好きなのかい?」
「うん。だって
炎翔は、包丁の刃先を見詰めながら耀春に尋ねた。
「あの人が、どういう人なのか耀春は知ってるのか?」
「知らない...。でも母さまが、私の名前を付けてくれたのは、耀おじさまだって言ってたわ。」
「ふうん...すると耀春の耀というのは、あの人の名前から一字を
座り込んだまま、ぶつぶつと
「ねぇ、炎翔兄さま...。」
耀春に
「さっきは、何を怒ってたの? あたしの事がどうとかって言ってなかった?」
「な、何でもないよ。」
炎翔は、
「いや...いつも店が開いてもいない時に突然来るから、
炎翔の言葉に、耀春は
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