英雄誕生記~少年、騎士を目指して旅に出る~

鶉 優

プロローグ

『人間ほど、恐ろしい生物はいない。』


 はて、誰が言った言葉だったか……。もう思い出すことは出来ない。

 しかし、言葉は今もこうして覚えている。そして、実感している。

 今日こんにちまで幾数千年、同じ戦いを繰り返し、幾人もの人間が憎み合った。地界と魔界、二つの世界同士で殺し合う現代。の自分には、そんな無意味な戦いを終わらせる力は無かった。

 自らの神を絶対とし、神によって支配されていた神代。その悍ましくも心地よいは、神々の居なくなった現代でも複雑に絡み合っている。

 私は目の前に居る人物に問い掛ける。


 何故ここに居る、と―――。


 目の前の人物は答える。


 お前を殺しに来た、と―———。


 私はこのやり取りが何十回、何百回と繰り返されて来たと思うと、悲しく感じる。

 目の前の人物は、私に語り掛ける。


 お前を殺せば、世界が平和になる、と―――。


 本当にそうなら喜んでこの命を差し出そう。しかし、そうならないから今も彼と、彼と戦っている。


 それから少しの間、目の前の人物と会話をした。どうやら彼もまた、今の状況に疑問を感じているようだ。

 だが、世の中には儘ならない事もある。自分の意思だけではどうする事も出来ない事がある。だから彼は剣を抜き、私に刃を向けている。

 そう。一人では今を変える事は出来ない。……。

 私は、遅すぎる心友に手を差し伸べて、こう言った。


「勇者よ。共に世界を変えよう。」


 * * *


『世界ヲ分ケ隔テル事ヲ望マヌ。蒔イタ種ハ、私ノ知ラナイ花ヲ咲カス。』———ミーティオル神典 序章<モルゼホークの言葉>より―――



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