景色は変わる

@mia

第1話

 西暦2000年(平成12年)〇〇月〇〇日 天気晴れ


 僕はひとりで、武蔵野の雑木林の中を歩く。雑木林の中と言っても、ちゃんと舗装された車1台通れるくらいの道を歩いている。

 林の中を歩きたいが、道の両端に打たれた杭に縄が張られ、立ち入り禁止の札が所々にぶら下がっている。

 立ち止まり空を見上げると、道に沿った細長い青空が木々の合間に見える。細長い青空は職場の近くでも見えるが、あちらはビルの合間の直線的な青空だ。今の青空は木々で、でこぼこした青空になっている。

 林の中も木々の合間に日が落ちて気持ち良さそう。


 しばらく歩いているとアナウンスが聞こえた。

「もうすぐ昼休みですので終了してください」

 その声に従い端末を操作すると、今まで歩いていた雑木林は消えた。

  VRバーチャルリアリティー室から出て自分の研究室へ戻ると、同僚は既に昼食を食べ始めていた。彼が僕に声をかけてくる。

「どうだった?」

 僕も昼食の用意をしながら答える。

「やっぱり資料通り、2000年がいいと思う。雑木林の間の道路も舗装されているし、雑木林もいい感じだし。木と木の間に監視ロボットを巡回させるスペースがあるからね。その 100年前だと、道路が舗装されてないのがな。人力だと舗装されていない道路の移動は不便だよな。


 人口減少が進み人の居住地が管理されると同時に、人が住まなくなった地域を元の姿に戻そうという「自然再生計画」が、僕の働く国土管理局で持ち上がっている。僕たちの班は武蔵野担当だ。

「でもさー」同僚が声をひそめて続ける。

「上の方の考えだともっと密集した木々が生えたのを想像しているらしいよ」

 僕も食べながら答える。

「里山より原生林を望むのか。木々の間に適当なスペースがないと、ロボットを使えない。ロボット搭載の AI で異常を感知しないと、もしもの時どうするんだろう」

 食べながら考える。この流れだとやっぱり原野はなしか。ススキや萩や秋の草花に覆われている原野。風景を詠む脳トレによさそうなのに。

 でも、元の姿ってなんだろう。


 武蔵野を原生林にできるのかは、分からない。

 まず、空き家の撤去費用の見積もり次第で、自然再生の予算が変わってくる。

 金額で姿や広さが変わるなんて、武蔵野もいい迷惑だよな。

 どんな姿がいいか〇〇3784年現在の武蔵野に問いかけたら、何と答えるのだろうか。

 

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