第36話
「そんな顔するなよ。ママだって息子を守りたいのさ」
スコープを覗く慈は、はるか遠くの息子に肩をすくめた。
変身した慈の手元には対物ライフルが、揺れる紫煙と共にその凶弾を撃ち込む先を探している。
「充くん、立派に育ってしまったわね。翔真そっくり」
「強情なところがな」
響子に返事をしながら、弾を入れ替え照準を定める。
「生まれた頃はちっちぇえライフルよりも軽くってよ、即NICU行きだったからな」
引き金を引いた。十三ミリの弾丸が連射され、かなたの人形が粉々になる。
息子たちの進む先の障害を除いてやる。
「小さすぎて、触れなかったよ。オレなんかが抱いたら、壊れちまいそうでさ」
大きくなってしまった息子は、成長と共にそんな繊細さはなくなってしまった。
「今じゃ、オレに啖呵切るほどしたたかだ」
ヘルメットのシールドを少し上げ、隙間から煙草をくゆらせる。くつくつと乾いた笑いを漏らしながらライフルを連射した。
攻撃に、巨大人型は慈たちに気づいたらしい。取り込んだアトラクションの残骸を射出する。
「あなたは昔から変わらないわよね」
「そうさな、変わらねえ、変わることができなかったさ、愚かで臆病なまま」
「あなたも湊も、ガジェットをいじらせてくれなかったわ」
撃ち落とされたジェットコースターがあらぬ方向へ着地する。
しかし、攻撃は雨あられのように、ゴンドラやコーヒーカップが弾丸のように飛来してきた。
あわやと思われた瞬間、釘バッドがすべてを破壊する。
「おうおうおうおうおう!後輩らには負けてられんな!」
「遅いわよ湊」
「ガジェットを取り返すのに手間取ってな!」
スケ番長に変身した湊が飛来物に暴力の限りを尽くす。
「やっぱりガジェット返すんじゃなかった……」
山田さん殺されそうだ。と少し離れたアゲハは白い目でそれを見た。
若干ボロボロなのは、熱田から取り上げていたガジェットを奪い返されたからだろう。
「だから人間は信用ならん」
ビリッとアゲハの脳神経から電波が発せられる。
それに反応するように蟲たちが集まった。空から大地から集合するその様子はまるで黒い竜巻のようだ。
アゲハから発生される指令に応えるように、蟲たちは巨大人型に襲い掛かる。
「妹の路を開けるのは兄にこそふさわしい!」
蟲の集合体は飛び交うコンクリ、金属をからめとり投げ返す。
なおそこにはゴキブリはいない。不衛生はさておき命令を正しく聞かない蟲は不要なためである。
「コドク……ちょっと湊!怪人がそこにいるわよ!」
「今はこっちが優先だ!」
槍のように投げられたフリーフォールの本体が迫る。
「チッだったら飛来物全部敷地外に出すんじゃないわよ!慈は逃げた動物の対処もなさい!コドク!あんたもよ!」
「相変わらず指示が多い」
「人間が命令するな!」
「おうよ!鎖骨割!」
スケバン長の手刀がフリーフォール本体を竹のように割る。
その上を駆ける慈。風を受け煙草が赤く燃える。
紫煙を置いてけぼりにしながら二丁の対物ライフルを両手に引き金を引く。熱を帯びた薬莢が空中に放出された。弾はスケバン長が打ち漏らした飛来物を砕き落とす。それらは決して人や動物の直上に落ちることはない。
さらに弾丸の網を縫うように上空を飛行していた蟲たちは、空から黒い滝のように地上へとなだれ込み、市街地へと迷い込んだ動物を元の敷地内へとせっつく。
飛来した弾丸により気絶した動物の回収も忘れない。
「俺をこき使いやがって!」
妹のお願いでも居候させるんじゃなかった、と叫ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます