第27話
崩壊した都庁から発見された人物は、怪獣怪人に変化した人間であることに間違いはなかった。
怪人王ファントムを名乗る怪しい男は、その宣言ののち姿を消し、消息はつかめていない。
「怪人王の目的はイドの回収。恐らくあの状態では、イド・ロゴスになる前に倒されると踏んだのでしょうね」
博士は要、柚希、充を連れ、都内の大病院にいた。
怪人対策室御用達のこの病院には柚希たちもお世話になったことがあるが、彼らがいるフロアはまだ訪れたことのない場所だった。
「証拠隠滅なんてことせずさっさと消えてくれてよかったわ。おかげで解析がはかどったもの」
白いリノリウムの床に博士のヒールが響く。
「怪人ゴッキー総督、怪人ユリブター、怪人リアジュウバクハツシロ、怪人フジョッシー、そして仮称怪獣怪人。怪人化した人間に残された痕跡から、全て同じ加工がされたイドを利用したものだった。あの怪人王、あるいはその仲間が人為的にイドを埋め込んだと考えて相違ないでしょうね。奴はもう、目の前にいる」
がらりと博士は一つの病室に入る。
「イド・ロゴス、第一号。怪人王ファントム。ようやく尻尾を出したというのね」
「はい。柴田室長」
博士が頭を下げるそこには、ベッドに横たわった老婦人と、そばにたたずむ柴田アスカがいた。
個室らしいこの病室は、金がかかっていると一目でわかるほど内装にも凝っている。
老婦人の利用するベッドも、通常の量産的なものと異なり高級感が、素人の目から見てもはっきりわかった。
「室長だなんてやめてちょうだい。いまは響子ちゃんの肩書でしょう」
「申し訳ありません。昔の癖が抜けず」
博士は普段から纏うピリリとした空気が抜けている。
柴田室長と呼ばれた老婦人はくすくすと笑う。芯の通った声は若々しい雰囲気があった。
それに反し、顔色は悪く、腕は骨のように細い。黒に近い紫色の血管が浮き上がっていた。
明らかに病に巣食われながらも、放たれる存在感は、元々怪人対策室の室長の席に座っていたからなのだろうか。
博士へ軽く会釈したアスカは、柴田婦人に要たちを紹介する。
「おばあさま。彼女がボクを助けてくださった椎名要さんです」
「孫がお世話になったようで」
「うっす!」
差し出された手を要は元気に握り返す。折ってしまわないか、柚希たちは心配した。
「お話は伺っているわ。孫が倒せなかった怪人を、討伐寸前まで追い詰めるなんてさすが響子ちゃんが集めた人材。これなら怪人対策室設立以来の悲願、怪人王の打破も叶いそうね」
「はい!怪人王って、ナンスか?!」
要は手を挙げる。
「前に話しただろ?イド・ロゴスだよ」
「タマちゃんと同じやつか!」
「あれと同じにするな」
ひょこりとタマちゃんが要の肩に乗る。
「まあ!四号を使いこなしているのね!」
「誰が使いこなされていると?」
「タマちゃんどうどう」
柴田夫人に今にも襲い掛からんとするタマちゃんを要は止める。
「響子ちゃん」
「はい」
「やっぱりあなたに室長を任せた私の目に狂いはなかったようね」
その言葉に、博士は褒められた子供のようにうれしそうな空気を出した。
「怪人対策室に、情報を任せてもよさそうだわ。アスカ、あれを出して」
「はい」
柴田夫人に呼ばれたアスカはノートパソコンを差し出す。
「私は怪人対策室を病気を理由に引退した際、もうこれきりかかわろうとは思わなかったの。孫と二人で、余生を過ごそうと。復讐も、なにもせず」
でもね、と柴田夫人はノートパソコンを起動させる。
「彼女を見つけてしまったとき、私はその思いをすぐに捨てた。孫に戦う力を与えてまで。私は、許せなかったの。彼女が人間に紛れ、幸福に、一般的な家庭を持つことを」
充と柚希は映し出された画像に目を丸くする。
「彼女こそが、怪人王ファントム、その側近にして、イドを操り怪人を生み出す張本人、イド・ロゴス第二号、怪人リリス——そして」
映し出される女性の顔写真。それを指さし、要は叫ぶ。
「母ちゃんだ!」
柴田夫人は冷たく笑った。
「そう。要ちゃん、あなたのお母さんよ」
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