起【バイバイ、日本！】

　日本某県（ぼうけん）に位置し、海沿いに在る都市……心桃（しんとう）市（し）。この都市の最大の特徴は、都市の大部分を占める巨大な台地です。

　心桃市の基幹（きかん）道路として、一番車の往き来が多い県道を中心に沢山の様々な家がそれを取り巻く様に並ぶ町の全景が広がります。そして県道は左に眺めが広がる海に沿い、並んで走ります。

　県道は途中で二股に分かれており、一方はそのまま海沿いに、そしてもう一方は巨大な台地を螺（ら）旋（せん）に上ります。

　その二股の付け根には、心桃市の『教育特化地域』が広がって居て。この地域には、市立中学校と市立高校が隣接してます。

　嘗て（かつて）『もんすたぁチルドレン事件』と云う、ニュースにも大体的に取り上げられた有名な怪事件に巻き込まれた当時校……海皇（かいおう）高校です。

　教育に特化する為の“テストケース”として建てられた、所謂（いわゆる）『中高一貫校』の進学校らしいです。この海皇高校から、東大生を輩出してるとかしてないとか……

　この巨大な台地を上り切ると眼下に、海沿いにハート型の湖……ピンクラグーンが見えます。

　その名は、心桃湖（しんとうこ）。水面がピンク色に見えるのは、赤い色素を含んだプランクトン、そのプランクトンを餌とする心桃エビが棲息（せいそく）してるから。

　早朝の数時間だけ、朝日に輝く水面（みなも）を目指してプランクトンが浮かび上がり、心桃エビもそれを追う事で短い間だけ湖がピンクに染まる……奇跡の光景がお目にかかれるんです。

　その奇跡の光景見たさに、まだ夜明けなのにも関わらず主にカップル達が心桃市に聖地巡礼（せいちじゅんれい）に訪れて「恋のパワースポット」と化してるんです。

　でも、カップル達が心桃市に集結する理由は、ただ湖がピンクのハートになるのを見たいからだけでは有りません。

　いえ、実際には見た目の通り、ただ湖がピンクのハートになるだけなんです。

　ですがひと度SNSでこの湖が恋愛事と結び付いてしまうと、何時の間にかこの事実が恋愛成就と（　れんあいじょうじゅ　）直結してしまったんです。

【カップルで心桃湖のピンクラグーンを見ると、恋愛成就出来る！】

【年に数回、心桃湖のピンクラグーンの湖面で天（てん）女の舞（にょのまい）が見れるらしい！】

【いや、あれは天女では無く座敷わらしじゃね？　運良く見れたら幸せになれるぞ！】

　とまぁ、SNSで拡散される度にどんどん噂に尾ヒレや背ヒレが付いてしまったらしくて……

　そんな心桃湖に、今年もハロウィンで沢山のカップルがごった返してます。そう、人の群れでぎゅうぎゅうです。でもまさか、この日に限って。

　あんな悲劇（・・）が、起きようだなんて……

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