ドイツとウィーン2022ミュージカル観劇旅行記~失敗だらけ狂騒曲

紙屋ねこ(かみやねこ)

第1話 はじまりはグランツール開幕とともに

「そろそろ日本から脱出したい」

そう思ったきっかけは2022年5月に始まったグランツールシーズン(ヨーロッパにおける自転車の三大ロードレースのこと)だった 


ジロ・デ・イタリアはイタリア(伊)

ツール・ド・フランスはフランス(仏)

ブエルタ・ア・エスパーニャはスペイン(西)


でそれぞれ約1ヶ月弱開催されるヨーロッパ自転車競技の一大イベントである 


コロナ禍で数々のスポーツイベントが中止になり、当然のように自転車ロードレースもまた中止が相次いでいた

なにせロードレースというのは、路上で行われ、観客と選手との間にほとんど境目がない。観客を制御できないし、過去には悪質な嫌がらせがされたこともある

大規模なグランツールは注目もされるし、その分、テロに標的にされやすい側面もある

欧州のプライドをかけてと言うべきか

2020年でさえ、グランツールは延期の上、開幕地が変更や短縮開催といった変更の中で開催された

 

それぞれ国の名前が付いて自転車レースだが、近年は開幕を他の国でやることが、ある種の流行になっており、オランダやベルギー、イギリスといった場所で始まり、途中からその国に移動して開催することが続いていた


しかし、コロナ禍での2021年、

オリンピック直前に開かれたジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、

そしてオリンピック後に開かれたブエルタ・ア・エスパーニャはすべて当事国スタート、国内のみの走行となっていた 


ところが、 2022年ジロ・デ・イタリアはハンガリー・ブダペストで開催でスタートするという情報が流れてきた


時系列で整理するなら、 2022年1月、ヨーロッパは変異株による感染者数が拡大していたのだが、そのあと、経済復興のために規制緩和に舵を切っていた 


その当時はまだビジネス関係者でも、渡航の際にPCR検査などの陰性証明書が必要で、日本の場合、さらに隔離期間が必要だった (と記憶している)


そして、5月6日

ジロ・デ・イタリアは中止されることもなく、延期されることもなく、本当にブダペストで始まった


正直に言えば、


「まさか本当にブタベスト開幕地でやるとは思わなかった」


と言う感じだった

自転車ロードレースは、路上でのレースだけに、観客から選手に感染する危険もあるスポーツだったからだ


日本はほぼ鎖国状態で、あまりヨーロッパの詳しいニュースが入ってこない中だったが、ジロ・デ・イタリアが他国開幕すると言うことは、おそらくヨーロッパは、もう後戻りしないだろうと漠然と思った


そして、その予感は正しかった


一度経済優先に舵を切ったヨーロッパはその後、ロックダウンはなく、ジロ・デ・イタリアの後、ツール・ド・フランスも、ブエルタ・ア・エスパーニャも、ヨーロッパの他の国で開幕を迎え、21日間、フルでの開催を完遂したのだった


一方で、五輪開催以降の日本のコロナ禍対応は、基本的に数ヶ月遅れでヨーロッパに追随しているように見えた

つまり、ヨーロッパが規制緩和するなら、おそかれはやかれ、日本にも規制緩和が来るだろうと私は考えた


そんな中、偶然、2021年にドイツで中止になっていた

ミュージカル・ロビンフッドが再開されるのを知ったのだった


主演はMark Siebert[マーク・ザイバード]

ミュージカル・エリザベートのトート役で知られる人気ミュージカル俳優だ


「行きたい……」


とふつふつと思った


おりしも宝塚オタクの友達が、自分の推しの引退でダウっていた後だった


「いつまでも推しが舞台に立っているとは限らない」


「舞台の上に立っているMark Siebert[マーク・ザイバード]が見たい」


それはコロナかで鬱屈とした生活から脱却したいという気持ちと重なって、ほとんど執念だった


しかし、5月の時点では日本でも何かあれば、すぐに舞台のチケットが飛んでしまう日々が続いており、

ロビンフットが無事に上演されるのかどうかもわからない


これはもう完全な賭けだった


私は考えた


この時点ではまだヨーロッパでさえ、入国制限があり、情報はほとんどなく、日本はさらに厳しい入国制限があり、隔離期間が設定されていた


――おそらく日本の規制緩和が来るとしたら、9月だろう


その時点で購入できるチケットも9月までだったので、そこは最大限譲歩した日程だった


ところで、

ドイツ語がさっぱりわからないので機械翻訳に頼りながらつたない解読したところによると

主役のロビンフットはトリプルキャストである


トリプルキャスト!


ヨーロッパは日本とは違い、アンダー・スタディーが付いていて、平日の昼間などはスター俳優さんに当たらないこともある……というのは、前回ドイツに来た時に知っていた

※昔友達に教えられた豆知識その1


いいキャストが来るとしたら土日だろう

と考えて、ひとまず土日で、行けそうな日程を抑えてから考えよう

などと安易に考えた

まずは9月のミュージカルのチケットを確保する

このときの解読ミスが後に大変な悲劇になることなど知る由もない……


この時点で、Mark Siebert[マーク・ザイバード]のFacebookには6月の予定しか書いていなかったため、あとでもう一度、 Facebookを確認して、Mark Siebert[マーク・ザイバード]が入ってそうな日程を付け加えよう

とその時は思ったのだった

そして実際には、さっくりそんな事は忘れてしまい、悲劇が起きるわけだが、その時点の自分に知る由はない


とりあえずミュージカルチケットを確保した後で、5月末に、航空チケットも押さえた


もう後戻りはできない

不退転の覚悟である


なにがなんでもドイツに行かなくてはならない!


そう固く決意をした後で、

今度はウィーンでミュージカル・レベッカをやるという情報が入ってきたのである!!!


「レベッカ!!! 観たい!!!」


と私は思った

ミュージカル・レベッカはミュージカル・エリザベートと同じくミハエル・クンツェ&シルベスター・リーヴァイが作ったミュージカルで、私はとても好きな演目だった


ウィーンのライムント・シアターで上演されるのはなんと15年ぶり!

次にいつ見られるかわからない


しかし、既に確保した航空チケットでは、

レベッカが開幕するときには日本に帰っている


「翌年また、渡欧するか? レベッカのために?」


私は悩んだ


何せ航空チケットが大変高いのである


数々のトラブルに見舞われた経験から私は学んでいた


「こういうときには格安チケットは絶対にダメだ。正規のチケットに限る。何かとんでもない事態が起きて全てをキャンセルする可能性もあり得る」


「できれば羽田空港発のフランクフルト直行便がいい」


ドイツ国内は何とか電車で移動しよう


などという大変な見切り発車で、その時点で確保できる中では比較的安くしかし大変お高いルフトハンザ航空のチケットを押さえていた


ここは重要ポイントである


『ルフトハンザ航空』


かつてドイツに来た時にお世話になった航空会社である


このルフトハンザ航空がのちに悲劇を生むことになるとは知る由もなく……


悩みに悩んだ私は、レベッカのチケットがとれるギリギリの日程に航空チケットを変更したのだった


「ドイツに入国し、オーストリアで出国すればいいのよ!」


「ドイツからウィーンまでは陸路で移動しよう」


などという大変な見切り発車である


わりとあとから盛大に突っ込まれたのだけれど、大都市から大都市の移動を想定していたのには

当時ならではの切実な理由がありました


それは帰国時のPCR検査である


チケットを取った時点で、シェンゲン協定国内への入国は確か48時間以内の陰性証明書が必要だった

※シェンゲン協定――ヨーロッパにおいて、国境検査なしに行き来できるという協定のこと〔Wiki https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%AE%9A 〕

おそらくシェンゲン協定国内は自由に行き来ができるのではないか

と思ったけれど、

問題は日本への帰国である

72時間以内にPCR検査をして陰性証明書が必要だった


この一定時間内の、それもPCR検査の陰性証明書を言葉もわからない異国で準備しなければいけない

という大変なミッションが想定される


外務省が出しているドイツ国内でPCR検査をやっている医療機関は

おそらく日本人居住者が多いフランクフルトやデュッセルドルフで

地方都市はほとんど書いていない


これは難易度が高そうだと思って、帰国の一日前に大都市に戻れるように日程を考えていたのだった


シェンゲン協定内への入国時に隔離されたときのことを想定し

ある程度余裕を持って移動しなくてはいけない


5月の時点では、そのぐらいヨーロッパへの海外旅行というのは難易度が高かったのである


さすがに情報を入手した時点でレベッカのプレビュー初日のチケットが売り切れていて

プレビュー2日目のチケットだったが、まぁまぁいい席が残っていたので

清水の舞台から飛び降りる覚悟でチケットをとる


一応念のために書いておくと、ヨーロッパにおけるプレビューというのは

本当にプレビューで、上演しないこともある

そのため、初日や2日目と言うのは延期される可能性も高かったりする

※昔友達に教えられた豆知識その2


しかし、もうチケットを取ってしまったし、航空チケットも変更してしまった


「行くしかない」


改めて不退転の覚悟を決めたそこから、また狂騒曲がはじまるのだった……


(つづく)

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