BOY MEETS GHOST! 幽霊部員とコレオプシス

蒼舵

Prologue アナーキー・イン・ザ・祥継

1 一年前:中庭

「お集まりの紳士淑女の皆様! 学園祭、いかがお過ごしでしょうか!」


 祥継しょうけい高校中庭に響き渡る、拡声機の歪んだフル・ボリューム。


 学園祭二日目。

 学外からの一般客も多く往来するメインストリートに、突如現れた人集ひとだかり。

 謎の群衆に気を惹かれた人々もまた、意図せずその一部になっていく。


「突き抜けんばかりの晴天、まさにハレの日! 此度こたびの祭りが無事迎えられること、これは一重ひとえに、人類のたゆまぬ努力の結果、平和の象徴なのであります!」


 集団の先頭には、プラカードを掲げた生徒たち。

『俺たちを追いやるな!』

『全ての学内活動に自由を!』

『部活動差別をなくせ!』

 ――彼らの視線の先には、三人の男子高校生。


 それぞれが拡声機、ギター、ベースをたずさえている。

 背後にはアンプが三台。ふたつの弦楽器と音楽プレイヤーに繋がれている。


「ですが皆様ご存知でしょうか! 祭り華やかな祥継高校、実は此処に、平穏を脅かす陰が存在するのです。その陰に涙を飲み、激しい怒りを抱く人々がいます」


 抑揚の効いた声は途切れることなく、人々の注目を誘う。


「そうです、実績のない部活動への弾圧であります! を排し、おとしめ、より優れた人たちこそが学園を作り上げる――これが我が校の歴史であり、お上様の価値観なのでございます!」


 拡声機が伝播でんぱする熱情に、ハウリング・ノイズが重なる――ギターを抱えた少年は大きく振り被って、全弦開放のディストーション・サウンドを放った。

 音の割れたバス・ドラムの拍動に、グルーヴの効いたベースの重低音が唸り出す。


「先日、卓球部の活動場所が縮小されるとの通達がなされました! 部への事前報告、協議等は一切ありません! 当然部員たちは異議申し立てを行いましたが、嘆願は棄却! なんという不合理! これ即ち、理不尽の極み!」


 少年の演説は、放送室から密かに延ばされたマイクに拾われ、学校中に拡散される。

 彼らの目論見通り、騒ぎの発信源を一目見ようと、校内から人々が流れ出す。


「そう! この学校は、思い描く〝理想の学園〟のため、時に生徒を抑圧するのです! 『芳しい結果を残していないから』――そんな理由で、我々の限りある青春が弄ばれていいのでしょうか! 我々は断固として、この圧政には抵抗しなければならない! さぁ今! 今こそ立ち上がる時! 不条理に屈するな! 拳を突き上げろ、学徒たち!」


 その煽動に、最前列に群がる生徒たちは声を張り上げる。

 校舎の窓から中庭を覗き込む、たくさんの顔。

 半ばすし詰め状態の見物人はさらに数を増し、場のヴォルテージは高まっていく。


 爆音――賑やかな平穏に、突如現れた異物。


「本日我々THE SKY、この祥継高校中庭に、デモを起こしにやって参りました! それでは皆様お聴きください――アナーキー・イン・ザ・祥継」


 叫びを上げる群衆を貫く、エレクトリックな轟音――

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