第10話
土日を経て、また月曜。もう、いい加減このサイクルに飽きたけど、35年以上はこの生活なんだろう。本当にため息が出る。
今日も出社し、気づけば11時56分。午前中、何をしたかも分からない。仕事をしていたはずだが、記憶もなく、仕事も終わっていないまま、昼休みに突入した。
今日は野田さんとお昼ご飯を食べる。野田さんとはいつも行く定食屋さんがあり、野田さんはネギトロ定食、私は角煮定食を頼んだ。料理が来るのを待っている間、野田さんが
「そう言えば、街コンに行くの?」と改めて聞いてきた。
「あ、行きますよ。来週行く予定なんです」
「へぇーー、本当に行くんだ」
何故か興味のない返事をする野田さん。
「私自身、街コンってあまりよくないイメージなんだよね。だから、少し心配というか気になって」
と野田さんが呟くように言った。
野田さんは学生恋愛を経て結婚し、子どもいる。世に言う順当な人生だからか街コンというものに違和感があるのかなとか勝手に思ってみたりした。
「私の周りに行った友だちとか知り合いとかいるんだけど、あまりいい話を聞かなくてさ」
空になったコップにお冷やを入れながら野田さんが話を進めた。
「結局、行った意味がなかったりとか変な人多いっての話も聞くし」
「野田さん、大丈夫ですよ。私は見学に行くだけですし。まぁついでに出会いとかあればいいなぁとは思ってますけど」
笑いながら、心配する野田さんに返した。
「そうね……。はるは、心配ないね」
と私につられて野田さんも笑顔で返事をしてくれた。
「中には街コンきっかけで結婚している人もいるし……ね。いい出会いがあるといいよね。何が正解か分からないし……」
そう話ている間に注文していたネギトロ定食と角煮定食が来た。
「でもさ、うらやましいよ。私、今世間的にも個人的にも幸せだとは思うんだけどさ。結婚して子どもも生まれて。でも、仕事と家のことしてたら1日が終わっちゃう……。私の時間がないのよね。私何のために生活してるのか分からなくなるというか、人のために人生使ってると思うと漠然と、私の人生これでいいのかなって」
ネギトロをご飯に乗せ、醤油にわさびをときながら野田さんは話す。
「長期休みも子どもが家にいるから子どもの世話をしたり、家事をして。なんならお互いの実家に帰ったりするし。私の趣味とか何が好きだったとかすぐに思い出せない」
ネギトロに醤油をかけながら話す。
「まぁ、思い出したところで趣味をする時間もないんだけどね」
野田さんからのこんな話を聞くとは思わなかった。私からしたら野田さんは私よりも人生を充実させていて羨ましいと思っていた。だけど、野田さんは私に対して羨ましいと思っていた。
私はなんとなく、目の前の人が今までの自分から変わろうとしていたりするともやもやしてしまう。自分は同じ生活を繰り返しているのに目の前の相手は変わろうとしている。それはどの感情なのか当てはめることはできないけれど、とりあえずマイナスの感情なんだと思って誰にも言うことができなかった。私からしたら野田さんは羨ましいと思う対象であり、野田さんからしたら私の方が羨ましい。本当は気にせず生きていければ楽なのはみんな分かっているのに、世間は比べるものをいくらでも用意し比べることが普通かのように比べさせようとする。もしかしたら、私自身が勝手にしている事なのかもしれない。でも、優劣をつければつけるほどマイナスの感情が濃くなることだけは知っている。
「あーあ、本当はもっと明るい話をする予定だったのに。私のストレスが出ちゃった。ごめんよ」
「いいですよ。誰にでもありますし」
「いや、これは私が悪い。今日はおごらせて」
愚痴くらい、いつでも聞くのに……。と思ったが口には出さなかった。
「ありがとうございます。また、お願いします」
と、笑いながら言った。
「こちらこそありがとう。もう、奢らないよ」
「そんなつもりではないですよ」
とお互い笑った。
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