婆娑羅を夢見る武士の戦記・真~性格真逆の幼馴染二人組が、戦国に似た異世界で天下統一目指します!?~
長月そら葉
第1章 荒くれ者たちの世界へ
呼び声
第1話 始まりの夢
ここ最近、眠る度に見える景色がある。
朧げに見えるのは、土煙。たまに多くの人々の息遣いと、金属が打ち合う音。そして嗅ぎ慣れない、むせ返るような血のにおい。
苦しくなって意識が現実へと引き戻される直前、いつも一人の少女がこちらへ手を伸ばす。
彼女は何か言っているのか、口火が動く。しかしおれはそれを音として聞くことが出来ず、唇の動きを読むことも出来ず、そのまま目覚めてしまうのだ。
目覚めた後、寝汗をかいている。そして、いつも夢の内容は忘れてしまう。
閉館時間の午後五時まで、残り三時間。
期末テストの近付いた土曜日。
しかし今、
「バサラ、起きて」
「む~……あと五分」
「そう言って、寝てから十分は経ってるよ。今日中に試験範囲終わらせるんだろう?」
「……あと二分」
「二分って」
駄々をこねて机に突っ伏すバサラに呆れ、
対するバサラは勉強はそれ程得意ではないが、運動神経が良い。加えて容姿端麗なため、
しかし、それと期末試験の勉強は別問題だ。
「お……終わった……」
「お疲れ、バサラ。いつもこれくらいやる気を出してくれたら、おれも楽なんだけど?」
「言うなよ。普段勉強が苦手ってことくらい、
「そうだけどね」
死にそうな声を出して机に伏したバサラを労い、
「ねえ、バサラ。ここで寝てて良いから、おれの荷物も見といてくれないか?」
「良いけど……。まぁた、戦国時代か?」
「そういうこと」
行って来いよ。バサラの言葉に背中を押され、
(ここに来ると、いつもわくわくする)
幼い頃から何度も訪れて来た地域の図書館。しかし専門書が並ぶ本棚をつぶさに見るようになったのは、
ゲームやマンガ、小説等でも注目される織田信長は、戦国の覇者としても名高い。本能寺の変で倒れなければ、もしかしたら今の日本の形は違っていたかも、というタラレバ話がある程だ。
織田信長をきっかけに、
「バサラはあんまり興味なさそうだけど。……あ、これ読んだことないな」
いつも眠そうに自分の話を聞くバサラを思い出し、
その時、傍にいた誰かとぶつかった。
「わっ、すみません!」
「こっちこそ。ってか、そんなに急ぐことかよ」
「バサラか。驚かさないでくれ」
「急に振り向いたのはそっちだろ」
悪びれずにやっと笑ったバサラは、先程まで
「興味出たの?」
「あれだけ毎日戦国時代のことを聞いてたらな。……
「ん~、じゃあこれとか」
手渡された本をパラパラとめくり、バサラは頷く。
「これなら、イラストも多いし読みやすそう。オレも借りてく」
「本当か!? ありがとう、バサラ」
「ま、いつも勉強に付き合わせてるしな」
嬉々として背中を押す
「やべっ。そろそろ帰ろうぜ、
「うん。明日は学校だし、早く帰ろう」
「腹減った」
「じゃあ、また明日な。
「うん、また明日。遅刻するなよ?」
「大丈夫。お前が起こしに来てくれるだろ?」
「毎度毎度、朝からお前の家に上がり込むおれの身にもなれ。おばさんも慣れちゃったじゃないか」
調子の良いバサラに呆れつつ、
⚔
その日の夜、
本の著者は著名な日本史学者で、わかりやすい文体が読者に人気だ。彼の長年の研究に基づいた詳細な論文を数冊読んだことがある武士にとって、新たな研究成果について書かれた本を読むのはとても楽しい。
「……バサラも、面白いと思ってくれてれば良いけど」
勉強が苦手な幼馴染を思い出し、
同じ頃、バサラもベッドの上で借りて来た本を読んでいた。普段ならば途中で放り出すのだが、何となく今回は読み進められている。
(
自分でも頭が良いとは口が裂けても言えないバサラは、勉強について
「もしもオレたちが戦国時代に生まれてたら、どんな風に過ごしてたんだろうな」
タラレバはない。それでも、想像すると楽しくなる。きっとバサラは武士として力を振るい、
バサラは新書の四分の一程の文量を読んでから、部屋の電気を消した。
ほぼ同時に眠りについた
いや、二人共何度も夢の中で逢っている。毎回忘れてしまうからこそ、違和感と共に対峙した。
美しい黒髪をなびかせた和装の少女は、懸命に二人の少年たちに呼び掛ける。
――どうか、我が国を助けて下さい!
彼女の言葉の意味を問う前に、二人の意識は夢の向こう側へと消えていった。
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