最初のハーレム要員となってしまった銀髪猫耳少女の行く末〜いや待って、私別にこいつのこと好きじゃないんだけど〜

乃崎かるた

本編


「二人とも良い連携だったよ。セリティアは短剣の動きがますます良くなってるし、シーナも攻撃のタイミングが僕と合うようになってきたね」

 

 私たちのパーティーリーダーは和やかに笑い、私とシーナの頭を撫でる。


 私は顔が引き攣るのをどうにか堪えたが、いつも無表情なはずのシーナは大きなフードの下で一瞬露骨に嫌そうな顔をした。

 そんな彼女の様子に私は笑ってしまいそうになる。

 


 ――シーナは多分、私の唯一の仲間だ。

 


「ちょっと、セリティアとシーナだけずるいのです!」

「あたしのことも労いなさいよ!」

「むむぅ〜」


 私たちは六人パーティーだけど、そのうち男はリーダーのテロル一人。

 

 私とシーナ以外の三人はテロルのことが大好きなのだ。

 そしてパーティー内では何故か、メンバー全員がリーダーに惚れていることを当たり前とする空気がある。


 シーナのように顔を顰める勇気もない私は当たり前にテロルのことが好きだと思われてるし、多分シーナでさえただの恥ずかしがり屋って扱いになってる。


 こんな状況絶対におかしいと思ってたけど、最近はもはや私とシーナの方がおかしいんじゃないかという気もしてきた。

 ……私ももう、病気かもしれない。


 自分の精神状態にいささかの不安を覚えながら、リーダーの方に目を向ける。


 

 息を飲むほどのイケメンって訳ではないけどそこそこ精悍な顔つきで、黒髪が良く似合ってる。

 笑顔がちょっと可愛いこともまあ、認めざるをえない。

 

 それに私の加護魔法をかけた結果ではあるけど、風で無数の刃を形成するテロルの攻撃魔法はとても華やか。

 あの魔法には確かに人の心を奪う魅力がある。



 ――でもそれだけ。

 少なくとも、彼に頭を撫でられたいとは思わない。


 自慢の銀髪が乱れるし、チャームポイントの大きな猫耳の毛並みも悪くなる。

 撫でられたくはないどころか、切実にやめて欲しい。


 でも私より度胸のあるシーナでさえはっきりとは言い出せていないのだ、この空気には誰も抗えない。


 

 ちゃっかり自分たちも褒めてもらってご満悦な様子のパーティーメンバーたちを眺めながら、私はシーナと手を繋ぐ。


「街まではまだ結構距離があるよね。今夜は野宿かなぁ」

「……ん」


 彼女は私よりいくつか年下で、小さな体をぶかぶかの服で包んだ姿は庇護欲をそそる。

 フードから覗く紺色の長髪は艶やかで、氷を思わせる水色の瞳はその無表情に美しさを加えている。


 ……癪な話ではあるけど、女の子ばかりを仲間に引き入れるテロルの審美眼は本物なのだ。


「グルァァアアア!!!」

「はぁっ!」


 時たま現れる小型の魔物は中距離魔法が得意なメンバーが楽々と倒していった。


 私たちのパーティーはちょっと価値観がおかしいながら実力はしっかり本物の子達が集まっていて、このあたりでは最強と言われている。

 その辺の魔物にやられてしまうことはない。



 ☆

 


「……暗くなってきたわね。さすがに今夜の野営は避けられないかしら」

「そうだね。みんなで協力して準備をしよう」


 視界が悪い中で歩くのはさすがに危険なので、潔くみんなで天蓋を張る。


 その後は小さな火を囲んで食材を焼いた。


「食べ物もそろそろ無くなりそうだね」


 テロルが、随分軽くなった麻袋を覗く。


「でも街が近いので大丈夫なのです。んふふ、今日を凌げば明日はふかふかのベッド……最後の夜番は誰がしますか?」

「……わたしがやる」


 シーナが即座に名乗り出た。


「最近ちょっと多いよね、大丈夫? シーナなら安心だけど……」


 テロルが気遣う様子を見せるが、シーナはしっかりと頷いた。


「……そっか。ありがとう、よろしくね」


 テロルはにっこりと笑い、またもやシーナの頭に手を置く。

 シーナは再び眉をひそめた。


 私たち五人が寝袋を取り出している間に、シーナは持ち武器である双剣を研いで夜番の準備を整える。


 小さいながらも頼もしい様子に、私は思わず顔を綻ばせた。



 ――シーナと出会ったのはほぼ一年前。

 彼女は誘拐犯に襲われていた。


 今でも無口な彼女は当時も声を上げることが出来なかったようで、私たちが駆けつけたときも静かに尻もちをついていただけだった。


 私たちがたまたまそこに居合わせたお陰で奇跡的に助けることができて、その時私はほっとしながら紺色の髪の少女を抱きしめた。


『あなたが怖がるようなことは誰にもさせない。私が必ず守ってあげる』


 そう声をかけたのを、今でも覚えている。

 まあシーナは誘拐されそうになった時に驚いて何も出来なかっただけで、本当は私なんかよりよっぽど強かったんだけど。

 

 ――それでも、あの時の決意は変わっていない。



 ‪☆



 ――目を開くと、辺りはまだ真っ暗だった。

 周りのメンバーたちもすやすやと寝ている。


 疲れているはずなのに目が覚めてしまったらしい。

 ……寝る前に珍しく感傷に浸ってしまったせいかな。


 直ぐに寝付ける気もしなかったから、私はみんなを起こしてしまわないよう静かに天幕を出た。


 夜風が髪を浮かすのを感じながら頭を上げる。


 

 ――すると、予想もしていなかった光景が目に飛び込んできた。


 背筋がゾワリとし、思わず口が開いた。

 


 ――目の前に、背の高い男が立っている。


「きゃ…………――――んんんっ!!!」


 大きな手が私の口を封じ、叫び声が途切れる。


「――っ、静かにしろ!」


 そう小声で訴えてきた彼は、一瞬でシーナの姿になった。


「……へ?」


 もがくのを辞めたことで放してもらえた私は、呆けた声を出す。


「はぁ……少し離れたところで話すぞ」


 ……小さな女の子の姿と口調が全く合っていない。


 シーナは私の手を取り、もう一方の手に魔法で火を灯しながら歩き出した。


 天蓋が見える範囲で出来るだけみんなから遠ざかり、その辺の木の下に並んで腰掛ける。


 ……その間、私の頭の中では疑問がぐるぐると渦巻いていた。


 ――シーナは男だったの?

 それとも、男にもなれる女の子?

 男だったら、私のしてきた行動はやばい?

 いや、考えるまでもなくやばいな……。

 

 隣のシーナは諦めたような顔をして、再び男の姿になった。


 短くはなったけど紺色の髪はそのままで、少し切れ長になった目も水色のまま。

 

「やっぱりシーナだ……」

「本名はシルフェスだがな」

「う、全然違う……」


 シー……シルフェスはため息をついた。


 どちらかというと華奢だけど、背が高いからあんまり貧相には見えない。

 女の子のときも綺麗だっただけあって、少し不機嫌な表情も絵になっている。


「俺は擬態魔法が使えるんだ。住んでた村で幼い少女の誘拐が多発してな。村長に何とかして欲しいと頼まれたんだよ」

「まさかあの時、誘拐犯を誘き出す囮だったの……?」

「そういう事だ。それをお前らが割り込んできて、俺は少女として助けられてしまった。親がいないと答えたのは俺のミスだったな、まさかパーティーに誘われるとは思わなかった」

「ふふっ。仲間になってからは毎日テロルになでなでされて……」


 シルフェスの心境を想像して、思わず笑ってしまった。

 

「言うな、思い出しただけで貴重な食材を戻しそうになる……」

「ごめん、ごめん。――ていうか、本当は女の子じゃなかったなら仲間になる前に言えば良かったのに」

「……お前に抱きしめられて、顔面を胸に沈められた直後に言うのか? 実は男でしたって?」

「……っ!」


 顔が急激に熱を帯びる。

 出来る限り動揺を悟られないよう気をつけながら口を開いた。


「……本当に、すみませんでした」

「別に謝ることじゃないが――」

 


 シルフェスの腕が、私の身体をふわりと包み込む。

 


「――これでお相子あいこにしてやる」


 ――その体温が全身に伝わる間もなく、彼は私を放した。

 再び夜風に晒された私は、思わず自分の身体を抱きしめる。


 ――心臓がうるさい。


 いいやダメだ、落ち着け私。

 普段周りに男がテロルしかいないせいで慣れてないだけだ。

 色々なものを振り払うようにして口を開く。


「……その、テロルのことがそんなに嫌なら、パーティーに入ってからでも理由をつけて抜けることは出来たんじゃない? 別に男だって明かさなくても……」

 

「それは……こっちにも事情があるんだよ」


 一瞬の沈黙のあと、シルフェスはそう言って目を逸らした。


「……そっか」


 理由は言いたくなさそうだったから聞かないでおく。


「まあ、このパーティーでは学べることも多いからな。あいつのやり方をあまり肯定したくはないが、俺以外の全員がリーダーに惚れてることが連携って面でその真価を発揮してるんだろうな」

「……は?」

「ん?」

「いや、私は別にテロルの事好きじゃないよ?」

「……え、そうだったのか」

「うん」


 シルフェスは信じられないというような顔をする。


 ――あ。

 よく考えたら私、今までテロルに触れられて嫌な顔をしたことがなかった。

 まあ何も言い出せなかっただけなんだけど。


 だからシルフェスもみんなと同じ勘違いをしていた。


 ……じゃあ、シーナを仲間だと思ってたのは私だけだったんだ。


 ちょっと悲しくなってきた。


「……恋愛的に好きだったことはないけど、テロルは本当にすごい人だったんだよ。生まれつき一番弱い風魔法しか使えなくて、昔はすごくイジメられてたの。でもやっぱり冒険者になるのは諦められないからって剣術の訓練を毎日続けて少しずつ強くなっていった。それで気づいたら、小型の魔物は倒せるようになってた。でもやっぱり相当なセンスがないと魔法なしでの戦闘は厳しくて。だから私は、一生懸命な彼を支えたくてペンダントを渡したの」


 私の話を静かに聞いていたシルフェスが、ここで口を開く。

 

「お前の力は、魔力を込めたペンダントを持った人間の力を少しずつ上昇させることだったな」

 

 私の加護で、テロルは恒常的に体力や筋力が底上げされている。

 また、私が念じることで魔力もかなり増幅できる。

 これがテロルの風魔法の源だ。


「うん。まあ魔力補助だけは制御が難しくて、結構手こずったけどね」

「そうか。お前みたいな能力の持ち主が近くにいて、あいつも運が良かったな。――というかお前、冒険者になる前のあいつを知ってるってことは一人目の女だったのか」

「いや、まあそうだけど言い方! 私は好きじゃないって言ったよね?!」


 全力の反論に、シルフェスはただ愉快そうに笑う。


 ――また沈黙が訪れると、私は小さく息をついた。


「……でも、テロルはちょっと変わっちゃった」

「ただの色ボケだもんなぁ」


 テロルから受けた精神的な被害が断トツで大きいシルフェスの明け透けな物言いに、私はくすりと笑ってしまう。

 

「まあ、それもそうだけど。あんまり努力しなくなっちゃったの。良くも悪くも魔法で多くのことが片付くようになったからね。剣を使った近接でのミスが増えてきて、カバーを私やシーナ……シルフェスに頼ることも一度や二度じゃなくなった」

「そういえば動きが大雑把になってきてるな。俺がシゴいてやってもいいが」


 シルフェスは少し気だるげな表情で腰に下げていた双剣の一本を抜き、隙のない動きでくるりと回した。

 白銀色の刃が、私たちの前に灯された炎を反射して煌めく。


「……年下の女の子にボコボコにされて、新しい扉が開いちゃったらどうするの」

「げっ……」

 

 その惨状を想像してしまったのか、シルフェスは渋面を作る。

 くすくすと笑う私を横目に、彼はふあっと欠伸をした。


「眠いの?」

「……まあな。たまには本来の姿で動きたいから夜番は嫌いじゃないんだが……」

「だからよく引き受けようとするんだ。今日はちょっと寝なよ。代わってあげる」

「いや、それはさすがに……」

「どうせ今更寝れないから大丈夫だよ」

「……じゃあ頼む。ありがとう」


 彼は一瞬だけ集中した顔をしてシーナの姿に戻った。

 服はいつも通りぶかぶかになり、目線は私より頭一つ下がる。


「もう隠さなくてもいいんじゃ……」

「――いや、慣れたからこのままでいい。俺らのリーダーは男の存在を許さないだろうしな」


 声も何トーンか高くなっているのに、口調だけが変わらないのがやっぱりちょっと面白い。


「ふふっ、許さないだろうね」

「あいつ本当にヤバいからな……あぁ、お前は特に気をつけた方がいいと思うぞ……あいつの見る目が微妙に違う気がする……」

「そうかな? テロルは『みんなを平等に愛してるよ!』って言うタイプじゃない?」

「んー、まあ確かに……気のせいかもな……」


 シーナは目が半分閉じた状態でそんなことを言い、私の膝を枕にして眠ってしまった。


 そのあどけない寝顔からは、実は男だなんて想像もつかない。


 ――あれ、男だと思うとこの状況、ちょっとまずいんじゃ?

 あとここ完全に地面だし。

 明日身体がバキバキになったりしないのかな。


 色々心配になってきたけど、また起こすのも可哀想だったからそのままにした。



 ☆



「――わぁ、目の前に街なのです!」


 メンバーの一人が嬉しそうに声を上げる。

 

 夕方に差し掛かった時間帯。

 朝から歩いてようやくたどり着いた。


 何日も木しか見ていなかったので、活気づいた街に自然と心が躍る。


 ちなみに今朝、シーナは無言のまま回復ポーションをガブ飲みしていた。

 

 ……地面はやっぱり固かったらしい。

 起こさなかったことを小声で謝っておいた。


 

「あたしは武器の手入れに行きたいわ。テロル、宿で待っていてもらえるかしら?」

「あ、ボクも行きたぁい」

「じゃあその間に私は食材を買ってくるのです!」

「……ポーション買い足してくる」


 私とテロル以外の四人はそれぞれ別の場所に寄ることになった。


「じゃあ、僕とセリティアで荷物を持って宿に向かうね」

「えぇ、セリティアだけテロルとデートですか?! ずるいのです!」

「うーん……じゃあレネッタ、明日デートしよっか」

「やったーなのです!」

「ちょっと、あたしともしなさいよ!」

「ボクもするぅ」

「仕方ないなぁ。シーナもする?」

「……いい」


 一人キッパリと断るシーナ。

 私は笑いを堪えるのに苦労した。


 他のメンバーがいなくなり、私たちは手分けして荷物を背負う。


「――ってことで、今日はセリティアの番だね」

 

 それからテロルはふわりと笑って私の手を取った。

 翡翠色のペンダントが、彼の鎖骨あたりでゆらゆらと揺れている。

 

 今日手を繋ぐのはテロルが初めてだ。

 

 ……シーナについては真実を知ってからだと緊張してしまって、いつものように一緒には歩けなかった。

 少しだけ寂しそうな顔をしていたのは、きっと気のせいだ。


「二年前は、こんな所まで来れると思ってなかったな」


 笑い合う街の人々を眺めながら、私は何気なく呟く。


「そうだね。冒険者を始めた頃は君と僕だけだったのに、レネッタやアリス、ルイエラ、シーナと出会えた……全部君のおかげだよ」

「……」


 その言葉にどう返すべきか悩んでいると、近くで女性の叫び声が聞こえた。


「――ひったくりよ! 誰か捕まえて!!!」


 振り向くと、黒ずくめの男が高級そうな皮のバッグを持って走ってきた。

 

「っ、セリティア! 荷物を見ていて!」

 

 テロルは即座に荷物を下ろし、全速力で男を追いかける。


 私の加護で身体能力が人よりかなり高くなっているテロルは、難なく男を捕まえた。

 

 遠くてよく見えないけど、男はどこかに連れていかれているようだ。

 誰かが見張りを呼んで来てくれたのだろう。


 バッグの持ち主らしい女性は遅れて私の前を通った。

 ……胸大きいな。

 

 彼女はテロルにバッグを渡され、勢いのままにそれを抱きしめる。


 とても喜んでくれているようで、見ていた私まで頬が緩んだ。



 ……しかし、テロルは女性と談笑している様子で一向に帰ってこようとしない。

 

 あんの色ボケめ。

 

 大量の荷物に囲まれて立ち尽くしているのもちょっと目立ってきたから、申し訳ないと思いながらもチャームポイントの猫耳をフル活用させてもらう事にした。


 ――目を閉じ、テロルたちの会話だけを取り込めるよう意識する。


『助けて下さったのがテロル様だったなんて! この街にいらしていたのですね!』


 テロル様、か……。

 あの人、うちのリーダーのファンだったんだ。

 まあ私たちのパーティーは結構有名だから、そんなに珍しくもないけど。


『うん。僕のことを知っていてくれたなんて嬉しいよ』

『もちろん存じています! フレスカの町を苦しめていたエンシェント・ドラゴンを倒したと聞いた時には驚いてしまいましたが、あれだけ足が速くて腕っ節の強い方なら納得です!』

『ありがとう。でも、一般市民のみんなを守るために日々鍛錬するのは当然のことだよ』


 

 ……え?


 日々鍛錬するのは当然?

 私の加護を、自分の努力の結果ってことにするんだ。

 さっき「全部君のおかげだよ」って言ったばっかりなのに。


 ――目の前が真っ暗になったような気がした。



「……セリティア? どうしたの?」


 ボーッと立ってたら、テロルが帰ってきていた。

 不思議そうな顔をしている。


「テロル。加護を、自分の力ってことにしてるの?」

「……耳を使ったんだね」

「ごめん」

「……加護はもちろん君の力だよ。でも、初対面の人に加護の説明をするのは大変でしょ?」

「そっか」


 それ以上何も言う気になれなかった私は自分の分の荷物を背負い、テロルと肩を並べて宿に向かった。

 

 この街唯一の宿は、木造建築の綺麗な建物だった。

 私たちは冒険者用の大部屋を一つ借りて、とりあえず全ての荷物を床におく。


 私はひったくり事件を終えてから初めて口を開く。


「……他のみんなは部屋番号を知らないから、下の受付で待ってた方がいいよね」


 部屋を出ようと、ドアに手をかけた。

 けど足を踏み出す前に、テロルが私の手を掴む。


「――待って。少しだけ話をしようよ」


 彼は少し気まずそうな顔をしながら引き止める。


「何の話?」

「さっきのこと、謝らせて欲しい」

「……」


 テロルは手を放す気がないようだったから、仕方なく部屋の中に戻ってベッドの上に腰掛ける。


 数日ぶりのふかふかなベッドだ。

 気分は全然上がらないけど。


「さっきは加護について、彼女にちゃんと話すべきだったよ。ごめんね」

「うん」

「これからは気をつけるから、許して貰えないかな?」

「うん」

「ありがとう。でもパーティーとしての名声も大事だから、そういう時だけは話さなくてもいいかな……?」


 ……可愛い子が相手の時はカッコつけさせろってことね。


「……いいよ」


 なんだかどうでも良くなってしまった私は、全てを受け入れた。

 返事聞き、テロルはほっとした顔で私の手に触れる。


「本当に、感謝するよ。僕はメンバーみんなのことを愛してるけど、どうしようもなかった僕に戦う力をくれたセリティアはやっぱり特別なんだ。君だけは失いたくない」

「……」

 

 その言葉に、私は昨日の夜中のことを思い出した。

 シルフェスが言ってたテロルにとって私が特別っていうの、あれ合ってたってことかな。


 ……ああ、メンバー全員に言ってる線もあるか。


 そんなことをぼんやりと考えている間、テロルは私が渡した翡翠色のペンダントを愛おしそうに撫でていた。


 ……うーん、それはちょっと気持ち悪いかなぁ。


 なんとなく顔を顰めていると、いきなり両肩に手をあてられ、ベッドの上に押し倒される。



 ――あれ? ちょっ、これやばい?


 口角を上げたテロルと目が合った瞬間、私は一気に我に返った。


「待って、ダメだよ、放して!」

「どうして? 恥ずかしがらなくていいんだよ?」

「違う違う違う、どうしてじゃないから!」

「セリティアは昔から僕のことが好きでしょ? 僕のことを認めて、一つしかない加護のペンダントだってくれた」

「……っ!」


 ――あああくそっ、筋力上昇はヤバい!

 誰だよこの男の力を底上げした大バカは!!!


 どうにかしてペンダントを外したいところだけど、腕がピクリとも動かない。


 焦りが募る中、一か八か大声を出すことを検討していると部屋のドアがバタンと開く音がした。


 ――瞬間、テロルの全身が氷の鎖に縛られる。


 紺色の髪の男が現れ、その手がテロルの首にかかったペンダントを外した。


「シ、シルフェス……?」

「誰だっ! 僕のセリティアに何をするつも……ひぃっ!」


 身動きが取れない中で喚いていたテロルは、シルフェスの底冷えのする視線に怯む。


「セリティア、大丈夫か?」

「何とか……あ、あれ、そういえば攻撃魔法なんて使えてたっけ?」

「使えてない。シーナになるだけで魔力を使い切ってしまうからな」

「はぁ、なるほど……」


 思わず気の抜けた返事をしてしまった。

 少しだけ乱れてしまった服を整え、シルフェスの手の中にあるペンダントに目を向ける。


 その視線に気づいたシルフェスが口を開いた。


「あー、これ」

「――あなたにあげる」

「はぁ?! セリティア、何言ってるの? 嘘だよね?」


 シルフェスに鎖を解いてもらえないまま呆けた顔で私たちを眺めていたテロルが、私の決断を聞いたところで声を荒らげる。


「……テロル。私はもう、間違えたくない」

「セリティア……!」


「――おい、ちょっと待て」


 今度はシルフェスが口を挟み、私の目の前まで歩を進める。

 シルフェスが手を緩めると、掴まれていたペンダントがきらりと光った。


「――舐めるな。こんなもの、俺には必要ない」


「え? ……あ、私と一緒に行動するのが嫌? えっと、私がいなくてもある程度の効果は出るから、無いよりはあった方が……」


「……そんなことは言ってない」


 シルフェスはペンダントのチェーンを両手に持ち、私の肩に腕を回して留め具を繋げた。

 ペンダントのひんやりとした感触が身体を伝う。


「これは、自分の身を守るために使え」

「…………うん」


 真剣な様子の彼に、私は思わず頷いてしまう。



 

「――あと、お前は俺に着いてこないといけないのを忘れたのか? お前が俺を必ず守ってくれるって約束だったはずだ」


 シルフェスはいたずらっぽく笑い、私の一年前のセリフをなぞる。


 


 



 







 

 

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