3.はじまり

 目の前に色とりどりの銀河があった。宇宙。その只中に俺はいた。最新鋭の薄く動きやすい宇宙服とも違う、これは――本物の服だ。

「明晰夢というやつか」

 俺がどんなハチャメチャな出生にせよ、さすがに生身で宇宙空間にいて無事ということはありえない。まるで翼があるかのように自在に飛び回れる感覚を物書きに活かせるといいなぁ。

 高速で飛んでくるネジなどの宇宙デブリを避けるだけの逆シューティングゲームを満喫したあと、このゴミを清掃する事業を立ち上げようか、などと甘い夢想に浸る。

「夢の中で夢を想像するのも滑稽だよな」

 バカバカしさに耐えきれなくなって笑ったところで俺が吠えた。轟音が耳をつんざく。

「うおぁっ!?」

 急に落ちるような感覚、そしてまばゆい白で埋め尽くされる視界に涙が滲んだ。おぉ、起きた。背中と尻が痛い。床に転がっていたらしい。

「正樹、大丈夫か。ずいぶんうなされていたぞ」

「にゃー」

 心配かけて悪いが吐き気でそれどころじゃあない。

 まだ少し……いや本当に痛いな。なんだこれ。下になにか「いてっ」あぁ……これは。

 片手でまさぐった背中と尻に純血の地球人ではありえない感触があった。背中で硬質化したソレを無理矢理に引きちぎる。

「〜〜ッ!!」

「おい正樹!?」

 悲鳴をなんとか飲みこむ。鮮血に塗れてなお様々な色に輝く物――竜の鱗――を天井の明かりにかざした。

「夢じゃないか……」

「これはなんの病気だ」

「病気じゃないさ。生まれ持った遺伝子」

「親が異種族というやつか。それにしても」

「珍しいだろ。なにせ虹色の竜だからな」

 魔法で洗浄や手当を手早く済ませ、上半身だけ起き上がる。

「竜族の親戚曰く、幼年期は鱗の硬質化から始まるんだと」

 いつもは饒舌なエゼットが押し黙っている。その目は俺の心中を覗き見ているようだ。

「おいおい、そんな顔するなって。別に死ぬわけじゃないんだから」

 このどうしようもない空気を和ませるかのように、ヴァリューが鳴いた。

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