第6話 席替え

「席替えしまーす!」


 翌日の朝のHRにて。

 陽キャ軍団の一声により、急遽席替えが行われることとなった。


 簡易的に作られたくじを、端の席の奴らから順に引いていく。

 俺の元へくじが回ってくると、適当に紙切れを一枚箱の中から拾い上げる。

 紙に書かれている番号を確認すると、十九番という微妙な数字が書かれていた。

 黒板に書かれている座席の番号と照らし合わせて確認してみると――


「まさかの位置固定かよ」


 俺が引き当てた十九番の席は、今俺が座っている場所だった。


 またよろしくな、同じ景色よ。

 きっと次の席替えは夏休み明けになるだろうから、約二か月間はこの場所で過ごすことになるのだろう。

 まあでも、座席的には廊下側から二列目の最後尾ということで、授業中も先生から目立たない位置だし悪くはない。

 後は、周りのメンツがどうなるかだけである。


「それじゃあ、各自席移動してくれ」


 全員がくじを引き終えて、各々机の荷物をまとめて、新しい席へと移動していく。

 俺は異動がないので、暇を持て余すことになり、ポケーっと頬杖を突きながら新しい席へと移動するクラスメイト達の様子を眺めていた。


「あれっ……もしかして、隣初木なの?」


 聞き覚えのある声がして、右隣を見れば、教科書を抱えた星川がこちらを覗き込んでいた。


「お、おう……よろしく」

「うん、これからよろしくね!」


 いつも通りぴかぴかスマイルを向けてくる星川。

 まあ、当たりくじを引いたと思っておこう。


「あれっ? もしかして隣初木なの?」


 すると、もう一つ聞き馴染みのある声が、今度は左隣から聞こえてきた。

 見れば、隣の席に荷物を置いたのは、古瀬だった。


「よろしくー」

「お、おう、よろしく……」


 おいおい待ってくれよ、なんで左右隣を美少女二人に囲まれにゃならんのだ。

 しかもよりによって、俺が内密にかかわっている二人とか、色々気まずいんですけど……。


「あれー? 景加と夏奈そこなの⁉ うちらめっちゃ席近い!」


 そして俺の前には、二人と仲が良く、クラスのドンと呼ばれている、須田百合子すだゆりこさんが陣取った。


 三方向を、クラスの陽キャ女子軍団に囲まれてしまうという絶望。

 まさに俺は今、海上をイージス艦に囲まれ護衛されている座礁船のような息心地だ。

 全然いい空気を吸うことが出来ない。

 こうして、見事に形成されてしまった陽キャトライアングル。


 俺は出来るだけ悪目立ちしないよう、ひっそり影を潜めていようと、心に誓うのであった。



 ◇◇◇



 早速、新しい席で授業が行われる。

 今は現代文の授業中。

 先生は教科書に書かれている筆者の意図を解説していた。


 俺が頬杖を突きながら先生の解説を聞いていると、右隣に座る星川が、机をトントンと叩いてくる。

 俺が視線を向けると、星川が何かをこちらへ手渡そうと手を伸ばしてきた。

 手を差し出すと、星川は俺の手に紙切れを渡してくる。

 それを受け取り、星川はキランとウインクをしてきた。


 古瀬に回せということだろうか?


 俺は星川に向かって、古瀬の方を小さく指差して確認する。

 しかし彼女は、ふるふると首を横に振った。


 今度は自分のことを指差してみると、星川はコクリと縦に振ってみせる。

 何だろうと思いつつ、俺は星川から手渡された紙切れを開くと、そこには可愛らしい丸文字で、『今日の放課後、一緒にアニメイトへ行かない?』と書かれていた。


 俺は近くにあったシャーペンを手に持ち、『いいよ。どこで待ち合わせする?』と、紙切れに返信を書き足して、再び星川へと紙切れを返す。


 それから、待ち合わせ場所や時間などを決めて、何往復かやり取りを交わしたところで、星川は納得した様子で頷き、視線を前へと戻した。


 星川とのこっそりやり取りを終えて、俺も視線を前に向けようとしたところで、左隣から気配を感じた。

 ちらりと見れば、古瀬がジトリとした目で、こちらを見据えてきている。


 俺が首を傾げると、古瀬が口パクで『何してるの?』と尋ねてきた。


 星川との関係をバラすわけにはいかないので、俺は何でもないといった様子で、肩を竦めてみせる。

 古瀬は少し拗ねたような表情を見せてから、視線を前へと向けてしまう。


 少々心苦しさを覚えつつ、もう一度星川の方を見て見ると、彼女の横顔は、朗らかで、とても美しかった。

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