第17話 文芸部
「ちょっと錦! あんなところに閉じ込めた挙句謝罪の言葉もないなんて人としてどうなの? というか、私天使なんだけど? もっと敬われるべき存在なんだけど?」
「ならもっと天使らしく振舞ってくれ。ところどころお前は強引なところがあるんだよ! てか、この前の店員さんへの暴言もお前のせいじゃないだろうな!?」
「あ、あれは悪魔のせいで……」
「悪魔?」
首を傾げたその時、零華さんが背後からやってきて、俺の背中をポンと軽く叩いた。
驚いて振り返ると、ジトっとした目を向けながら言った。
「今日は一緒に帰る?」
おいおいおいおいおい!?
こんなん嬉し過ぎて涙出てくるぞ!?
思わず叫びだしそうになったのをぐっとこらえて、首を横に振った。
「めっちゃ苦しそうだけどどした?」
「……今日はちょっと行かなくちゃいけないところがあって」
「そっか……。じゃ、気を付けて」
「そっちも気を付けて! ありがとう!」
俺はリュックを背負い踵を返してその行くべき場所に向かった。
その背後で、俺のことを疑念の目で見つめる零華さんがいた。天使はそんな零華さんに不思議そうに首を傾げた。
俺は少し駆け足で今朝渡された紙に書かれていた場所に向かった。
そこは、二階の殆ど使われていない化学準備室。何故使われていないのかというと、新しく作られた校舎に化学室がたてられたからだ。
昔に作られた教室だから、やはり扉も古臭くて、下部分には落書きなんかも書かれていた。
そんな部屋の中から、なにやら楽し気な声が聞こえてくる。
「今日は来てくれてありがとうございます! 早速この部活の活動について説明します!」
はきはきとやる気のある声……。きっと今朝紙を配っていた人の声だろう。
少し遅れたと思って、慌てて扉に手をかけたその時、なにやら奇妙なことが起こった。
「あの、質問いいですか?」「はい、何ですか?」「活動日って曜日で決まってるんですか?」「そうですね。まぁでも、来たい方はいつでも来てくれて構いません!」
なんでだろう?
な~んか全員おんなじ声……。いやでも、似てる声なんて別に普通だしね。まさかね……。
俺は恐る恐る扉を開いていく。がたが来ているためか、中々に手こずった。
何かがつっかえたのか、僅かに開いた地点で扉は止まってしまい、渾身の力を込めて一気にスライドされた。
「でね……!」
「………………あー」
中に居たのは、今朝の人一人だけだった。
「…………っは!? わ!」
「えぇっと、ここでいいんすか? 文芸同好会って」
「よ、よよよよ、ようこそ! こ、こちらの席に掛けてもらって……」
そう示したのは、綿の出たパイプ椅子。
ぎこちなくその席に座ると、オレンジ髪の人は硬い表情で、先ほどまでとは打って変わって噛み噛みで話始めた。
「あ、あのですね……。……そ、それでは、か、かつぢょう、ぬ、活動内容については、話していき……ます!」
オレンジ髪の人は胸の横で両手をグーにして気合を入れなおした。
可愛らしい人だが、先輩なのだろうか?
それとも同学年?
「……質問いいですか?」
「あ、……はい。どうぞ……」
オレンジ髪の人は、口端をピクピクと震わせて、額から汗を流していた。
「活動日って曜日で決まってるんですか?」
「うわああああああ!!!!」
「うわ! ちょ……」
オレンジ髪の人は勢いよく俺の肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。
「聞いてたんですか!? 聞いてたんですかあああああ!?」
「きいぃてえぇまぁぁしたああぁぁ!」
「うわあああああん!! その心笑ってますよねええええ!!」
オレンジ髪の人はさらに揺れを大きくして、俺の三半規管を壊していく。きっとこれで少しでも俺の記憶を消去しようとしているということなのだろう。
「だ、大丈夫ですから! 笑ってないですから!!」
「ほ、本当に……ですか?」
オレンジの髪の人は、不安げに眉を寄せてウルウルとした目でこちらを見つめてくる。
「笑えないですよ、あんなの……」
「一番傷つくんだけど!?」
「い、いえ、そう言う意味ではなくて、俺も家で壁に話しかけたりしてるんで……」
「は! そうなんですね……。よかった、仲間だぁ~……」
ほっと胸をなでおろしたこの人は、夕焼けに照らされて、妙に切ない感じがした。
落ち着いて辺りを見てみると、もはや部屋の機能をなしているのか、埃っぽい床に立てかけられた椅子がいくつか……。その他、使われたいない埃まみれのビーカーやらが散見された。
「それで、ここではどんな活動をするんですか?」
「まぁ……、文芸に関することとか、って言うのは建前で、まぁ、そういうの無しで、普通に青春謳歌~的な……」
「大学のテニサーじゃないですか!?」
ついつい大きな声を出してしまった。
「ごめんなさい……」
左右の手の指先をつんつんと合わせながらしょぼんとする。
「……すいません。……でも、そういうことなら入部はやめておきますね」
「えぇ!? なんで! 楽しいですよきっと!」
「いや、文芸同好会だと思ってきたんで……」
「じゃ、じゃあ文芸部です!」
どんと腰に手を当てて胸を張る彼女は、目はウルウルと震えていて相当焦っている感じだった。
正直、可哀そうだから入ってあげたいけど……。零華さんと一緒に帰れる可能性が出てきたし、あんまりなぁ……。
文芸部ならいいんだけど……。
と、そんな時だった、何者かが部室に入ってきてこういった。
「御用だ御用だああああ!!」
「ぬぬぬ!?」
今度は一体何なんだ……。
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