異世界転生させられそうだったので、抗ってみた。
@tottttti111
依存とトラウマ
第1話 あなたを異世界転生させ……え?
いつもの日課で街を一望できる高台に登り、何を思うでもなく佇んでいた俺の前に、冷たい風と共に白いワンピースを着た女性が現れた。
「佐藤錦さん。あなたを異世界転生させます。いいですね?」
俺の前に突然現れた真っ白なワンピースを着た綺麗な女性が言った。
その姿は神々しく、後光がさしていると錯覚してしまうほどのものだった。
顔を見てみれば、とても腹立たしい表情でこちらを見下げているように感じた。
「…………えぇっと、突然そんなこと言われましても。え、俺、死んだんですか?」
「いいえ?」
「………………」
ん?
ちょっと待って?
なんか、色々と違くない?
普通、異世界転生ってこういう女神みたいな人がいる場合って、大体死んだあととかだよね?
異世界召喚とかなら、多少強引なのは知ってるけどさ……。
と、とにかく、もう少し話し合いをしてみよう。もしかしたら、それ相応の理由があるのかもしれない。
俺はなるだけ自分の動揺が相手に見えないように、笑顔を浮かべた。いや、どちらかというと、無理やり口角をあげたと言った方が良いのかもしれない。
「あ、あの……。何か理由があるんですか? その……、例えば、異世界がピンチだとか……」
「いいえ? 全く。それどころか、あなたの望むような世界が待っています。まぁ、多少の苦難や乗り越えるべき壁なども注文していただければ……」
俺の前に地面すれすれで浮遊する彼女は、つらつらと説明をつづけた。
俺がその話に耳を傾けている間、俺のいる公園の少し遠くではビルなんかがギラギラと光を放っていた。
「……つまり、なんでも手に入って、好きなこといちゃラブできるみたいな世界に行けて、しかもある程度のスパイスも用意できると?」
「究極そうです! さぁ、行きましょう! 最上の幸せが、あなたを待っていますよ!!」
「嫌だ」
「へ?」
俺の声は、夜風に吹かれてうまく耳に届かなかったのか、天使みたいな人は拍子抜けた声で聞き返した。
「嫌です……。すいません」
「え、ちょ……。ん? あれ? お、おぉん? え?」
滅茶苦茶動揺してるし……。
天使みたいな人は顔の横で手をあたふたとさせて、しばらく頭の中で整理していたらしかった。
「え、嫌って言った?」
「はいそうです」
「なんで?」
「いや、そもそもこっちのセリフですよそれ。なんで異世界に転生しなくちゃいけないんですか? 言っときますけど、俺ってそんなに善行を行ったわけでも、何か神様に特別なことをしたことも無いですからね?」
そう言うと、天使みたいな人は手をポンと打ち付けて、何かを納得したらしい。
そして、咳ばらいを一つすると、俺の方に指さした。
「ずばり言います! あなたに、幸せになってほしいからです!!」
「うん。だからなんで?」
「…………誰かに幸せになってほしいって願いに、理由なんているわけないじゃな」
「いや、いるでしょ。だって、わざわざ異世界に転生させて、願いをかなえてくれて……。そんなの、都合よすぎでしょ」
そう言うと、天使みたいな人は石のように固まって、絶句してしまっていた。
ちょっと生意気なことを言ってしまっただろうか?
でも、当然の疑問だと思うのだが……。なんせ俺は、理不尽に死んだわけでも、神やら女神やらを見染めるような魅力もない。
「わ、私たちにとって、そんなに大したことじゃないのよ? それって……。それに、ここにいても幸せじゃないでしょ?」
「はい? 何言ってんすか!?」
「え、違うの?」
「違いますよ!!」
俺は自分の右側でさんさんと煌めく蜃気楼に視線を向けて、こう叫んだ。
「俺は、超、幸せだからぁ!!!!!」
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