JK、拾ってみた。

第1話：プロローグ

「ううぇ、気持ちわりぃ……」

１２月末、年の瀬も近づいてきて、クリスマスカラーが慌ただしく年の瀬色に切り替わり、師走の名前通り人々が忙しく動き回る中、俺は人通りの少ない路地裏を壁に手を突き、ふらつく足取りを何とか支えていた。

「何でオッサンの愚痴を肴にしながら酒飲まなきゃいけないんだよ……」

思い起こされるは1時間前の社内飲み会でのおっさんの聞くに堪えない出世話と苦労話と不健康自慢。ああ、人が足りないから来てくれなんて頼まれ方をした時点で気づけばよかった…。しっかし何よりきつかったのが……

「あの結婚の話だよ……」

～～～

「なぁ、新田君はまだ結婚はしてないんだっけ？」

「え、ええそうなんですよ。」

俺だって好きで３０代独身やってんじゃないんだよ！ほっとけ！と言いたいところをビールで飲み下して無理やり笑顔を作る。さっきまで隣に座っていたはずの後輩女子は早々に取引先から興味を失せさせることに成功し、一人呑気に飲んでいる。

「そうかそうか、でもやっぱり結婚すると自由が減るからなぁ、やっぱり若いうちは

独身が一番だよ。私も若い頃に結婚してしまったからね、結婚生活は楽しかったが、中々今で良かったのかと後悔することも多くてねぇ。」

「なるほどぉ、そうなんですかぁ。」

自分でも気持ち悪くなるほどに語尾を伸ばし、興味を持っている風を装う。

「イヤーでもやっぱり、結婚は良くないね、所詮恋愛くらいで止めとくのが一番いいんだよ、そうだ、新田君、恋人はいるんだろ？」

「いえ、それがいませんでして…」

「あらま！それは意外だ……、まあでも、君ぐらいのいい男なら恋人位すぐにできるんじゃないのか！どうだい、うちの部署の子は！かわいい子も多いだろう！」

「あはは、そうですね…」

～～～

今のご時世ではセクハラ一歩手前みたいな発言をしてくる上司はどこか満足気な風であった。ああ、思い出すだけでムカついてきた。

「恋人なんか出来るならとうの昔につくってるっつーの。」

お前にごちゃごちゃ言われなくても彼女くらい作るわ！と、言いたくはなるが…悲しいかな、恋人何てここ何年も縁のない言葉だ。家に帰ったところでお帰りを言ってくれる人もいないし、上司に対する愚痴を聞いてくれる相手もいない。

「あーあ、寂しいもんだな、俺の人生。」

そんなことを考えたところで足のふらつきは治りはしない。ああ、このままじゃ二日酔い確定だな、コンビニでウコンでも買ってから帰るか…。

「いやーまじ、それな、ぱねぇっしょ。」

私と入れ違いになるようにいかにもチャラそうな二人組が店を出ていく。顔は酔って赤くなっているが、手に持っているのは若者に人気のチューハイの缶だ。

「いらっしゃーせぇ」

やる気のなさげなコンビニ店員の青年の声が聞こえる。人の目がある場所に来たからなのかさっきまでよりは比較的意識と足取りははっきりしてくる。先ほどの青年たちの顔を思い出し、これが若さかと思いながら、一本だけウコンの瓶を手に取り、そのままレジへと向かう。

「ありゃあーしゃーっしたぁ。」

最早原形をとどめていない挨拶を聞きながら店を出ると、何やらは言った時とは様子が違う。

「ああ？何言ってんだてめぇ。」

「だから……」

「何だよ、俺らだって暇じゃねぇんだよ。」

見ると何やらさっきすれ違ったヤンキー二人が何かもめているようであるが…声的に誰かもう一人いるように感じる。他二人ほど声がはっきり聞こえるわけではないが、若い女の子のようだ。店内にはいなかったが、たぶん連れか？

「もう知らねぇからな！」

「あ。ちょっと！」

「うるせぇ、これ以上関わってくるようなら警察呼ぶからな！」

何とはなしにぼうっと連中を見ていると突然男たちが立ち去ってしまう。ひょっとして道にでも迷っていたのかもしれない。しかし道案内を見るからに酔っ払いの奴に聞くとは見る目がない。どれ、ここは俺が一つ手助けをしてやろう。と思って俺はその子の方に近づいた。

「どうした、何かトラブル？」

するとその少女は初めて俺に気づいたようにくるっとこちらを向き、そこの近くを丁度車が通ったことにより、俺は彼女の全貌を初めて見ることとなった。

しかしアルコールが回っていた俺は二つ大きな見落としをしていた。一つは時間、こんな時間に女の子が一人で迷子なんてありえないし、第一スマホも持っているだろう。

それともう一つは、格好だ。彼女はそもそもどこかの制服を着ていたし、—————

「おじさん、私を拾ってくれない？」

———————首から、段ボールにマジックで書いた「拾ってください」という大きなプラカードを掛けていた……。