もっかい! 魔法と革命のための討伐物語
青野ハマナツ
捻じ曲げられた歴史
第1話 目覚め
パッ、と目が覚めた。
スズメ、だろうか?チュンチュンというさえずりが絶え間なく聞こえる。私は、まぶたを擦り上げながら昨晩脱ぎ捨てた着替えの服を探す。部屋着の白いTシャツで良いならこれで行ってしまいたいが、世間はこれを良しとはしてくれない。別にいいじゃん。なんで服の種類で本気度とか決めちゃうわけ?ちゃんとした服装とかなんで存在するのかな?まあ良いけどさ。いまさらごちゃごちゃ言っても何も変わらないし。
憂鬱を通り越して涙が溢れ出る。いや、それだけならまだ良かった。すっからかんの胃が何かを戻そうと
そういえば、昨晩はどうやって家に帰ったのだろうか?普段であれば終電に何とか乗って家に帰るのだが、昨日は二時を回っても仕事をしていたように感じる。会社に置いてあったエナドリを数本一気飲みして……なんとか意識を持たせていたような……思い出しきれない。
だけど、こうして家のベッドで朝を迎えたんだからなんの問題もないよね。
――あれ?ここ……家か?目が冴えると同時に周りの風景に違和感を覚える。頭痛と吐き気と違和感で体がぐちゃぐちゃだ。
私は「うぇっ」と
いや、違う……何もかもが違う。扉は木製だし、キッチンは消滅してるし……
私は抱いた違和感を抱きながら扉を開ける。
そこには、いつもの鉄筋コンクリート造りの柱が何本も立っているだけの寂しいアパートの風景ではなく、明治時代に建てられた洋館のような風貌の廊下が広がっていた。
「なんだここ!?!?」
思わず声が出る。私は何故ここにいる!?家を間違えたのだろうか!?
私は困惑しながら部屋の扉をバタンと閉める。どうなっているんだこれ!?
扉をもう一度開けて確認してみようか……そう思った矢先、木製の扉をコツコツと叩く音が耳に飛び込む。
「失礼しまーす……あー、やっぱり起きてらしたんですね……良かったです」
扉の先に居たのはゴスロリ風の衣装に身を包んだツインテールの少女。
少女とは言ったものの、顔立ちが幼いだけで身長は私をゆうに越しており、胸もかなり大きい。どちらかと言うと私の方が少女なのかもしれない……それはないな。私も一応社会人だし。
私はその少女に今の状況を質問する。
「えっと……ここはどこ?あなたは誰?」
「……端的でいい質問ですね。ここはトードの市街地。そこに建つ旅館の一室です。そして私はヒナカモエと言いまして、炎魔法使いの十七歳です」
「モエちゃんか……よろしくね。私は
「――『再び立つ』……?名前に漢字が入っているのですか?珍しいですね」
「え?そんなことなくない?モエちゃんは漢字じゃないの?」
「ええ……カタカナですよ」
私がおかしいのだろうか?名前に漢字を使うのが珍しいだなんて……それに、モエちゃんの肩書き。「炎魔法使い」?一体何を言っているんだろうか?
「えっと、再立さん。お体の方は大丈夫でしょうか?」
モエが部屋の中に入りながら聞いた。私もそれについて行くように部屋に入りながら答える。
「ん?全然元気〜……って訳でもないや」
よく分からない状況に置かれて気分の悪さは吹き飛んでいたが、それとは別に体の節々の軋みが痛覚を刺激する。
「ですよね――あんな状況で倒れてしまったら、元気になんてなりませんよね……」
「えっ!?私、倒れてたの!?」
「あ、えっと……ええ。お医者様は熱中症だとおっしゃっていましたが、入院とかは必要ないそうです」
熱中症かぁ〜……確かに昨日は暑かったような気がするしなぁ……気をつけなきゃ。
って、いやいや!なんかおかしい!漢字と魔法だけじゃない!トードってなに!?東京じゃなくて!?それにゴスロリツインテの17歳って!!よくよく考えたら凄い珍しいな!?
「ね、ねぇ、トードってどこ?」
「えっ?ご存知ないんですか?まさか記憶が……?えっと、トードはこの国の首都なんですが……」
「東京じゃないの?」
「ト、トーキョー?そちらの方がよく分かりません……元々この土地は『エド』という名前だったんです。それを現在の政治体制になると同時にトードに改称した、という訳です」
江戸……じゃあここは間違いなく日本なのか?いや、ハッタリかもしれないし……あーもうよく分からん!
「モエちゃん!ここは日本だよね!?」
「え、ええ。ここはニホン国そのものですが……」
「じゃ、じゃあ魔法って何?」
「えっ、ええ??魔法ですか?今からおよそ200年前から急速に発達した特殊な技術……だと私は教わりましたが……」
やはりなにかがおかしい。ううん、なにかで片付けられるものじゃない。本質から違うんだ。この国は「ニホン」であって『日本』じゃない。どこか別の国だ。
「ね、ねぇモエちゃん。さっきから質問ばかりで申し訳ないんだけど、この国の歴史について、聞いてもいいかな。その……江戸時代以降について」
モエは、私の質問に訝しんだ表情を浮かべながらも、しっかりと回答し始めた。
「――その昔、エドという街は、平和な娯楽都市でした。しかし、ある日突然政治に関わる人間の九割が暗殺されるという事件が起こりました。重要人物だけではなく、そこまでの力はない者まで、ほぼ全員。当然、街はとてつもなく混乱しました。頭の良い人々が、一日もしないうちに消え去ったのですから。そんな中、混乱を落ち着ける手段を持った男が現れたのです。現在の実権を持つ……通称『誰も名を知らぬ王』」
「だ、ダレモナヲシラヌオー?またこりゃ随分と長い名前だね……」
「――ええ、まあ、これは通称ですから。本名はあるのか無いのかすらハッキリとわかりませんし、顔も知っている人はほぼいません。誰も名を知らぬ王……長いのでこれからは王と呼びますが、その王は、魔法という未知の力を用いて民を脅し、従わせ、不都合な人間は片っ端から殺していきました。重税はもちろん、見せしめによる処刑、他国との貿易の断交など、とにかく独裁に不要なものは排除されていきました。しかし、民衆たちの『人海革命』によって、王はトードでの政治を行えなくなってしまいました。人海というのは人間を海の如く大量に使うことで制圧を図る、という作戦のことですね。相手は魔法とかいう理解不能な力を使っている訳ですし」
「えっ、それならトードが首都なのも、現在の統治者が王なのもおかしくない?」
「ええ。本来ならこれで平和が訪れておしまいです。しかし、革命後の政治はわずか三年で崩壊しました。理由は簡単、人材不足です。政治に関わる人間がほとんど殺された街に、革命を主導し、人々を統治できる才能を持った人間など五、六人ほどしか存在しなかったのです。結局、王が政治に返り咲き、王府というものを設置することでまた独裁を始めました。そして、王は一時的でも自分が統治者の地位から離れることを恐れ、首都をトードに置きながらも、実際の政治は別の場所で行っていると言われています」
えげつない。ざっくりとした説明なのに、とてつもない嫌悪感だけが残る……
「そして、王は人海革命で負けたという反省と、人々を恐怖に陥れるため、生物を都合のいいように改造し、増やすことで数の力に負けないようにしました。それが、改められた物――『改物』です」
「カイブツ……?それはどんな生き物なの?」
「――まあ、具体的な説明はここではしません。恐らく見た方が早いです。いや、凶暴なので見ないに超したことはないんですけどね」
改物……一体どんな生物なのだろうか。想像しやすいドラゴン的な存在か、はたまた別のなにかか。そもそも私の想像力の範疇に収まっているのかすら分からない。
「話を歴史に戻しますね。王は改物や魔法を用いて民を従わせていた、と言いました。しかし、民衆も黙ってはいません。王から魔法の使い方を極秘に盗み出し、独自に発展させていったのです。それにより、ついに王の魔法や改物に対抗する手段が生まれました。ですが、魔法はエネルギーを消費する性質上、覚える属性数を増やせば増やすほど体に多大な負荷をかけるため、覚えられるのは多くて三属性くらいまでです。私は炎だけですが……まあ、この話は難しいので、おいおい話すとしますか」
気になることは山ほどあるけど、その中でも一番気になるのは……
「――ねぇ、その王サマを倒せば、全て解決する?」
「ええ。全てとは行かなくても、現在の問題の八割は解決するでしょう」
「じゃあさ、私たちで倒そうよ!王サマをさ!」
「はぁ!?ふざけているのですか!?逆らえば謀反罪で殺されるかもしれないのですよ!?それにあなたの戦闘力もよく分かりませんし!」
「大丈夫だって!多分私にはつよーい力がある!だからやろっ!ねっ!」
こういう王とかってやつは、倒されるために存在しているはず。ここが元いた日本じゃないってことは、ゲームの中か、はたまたアニメの中か。それなら王にだって弱点はあるはず!それに、もしそうなら私にも何かしらの能力があると思うし!
モエは気だるそうに頭を搔いているけど……やるしかないでしょ!
「はぁ……まあ、やってみるだけやって見ます?捕まりそうになったら私を逃がすっていう約束ならいいですよ」
「やったー!」
よーし!王を倒しちゃうぞー!!
――その時、私は突然、社会人レベルから中学生レベルまで知能やらテンションやらが変化した。昨日飲んだエナジードリンクが頭をおかしくしていたのかもしれない。でも、なんとなくワクワクしたのだ。この状況や、設定に。夢なのかゲームなのかは知らないけれど、楽しめるだけ楽しんで損はないだろう!
しかし、そんなワクワクの合間から、一筋の不安要素が顔をのぞかせる。
――あれ?元いた日本には帰れるのかな……?お母さんには会えるのかな!?えっ!大丈夫かな!!??
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