第20話 何だか寒気が……

「逆に聞いてみたいんだけど、君は学校でどんなことしてるの?」


 将棋が始まってしばらくして。盤上を見つめたまま、テンちゃんが僕に尋ねました。


「どんなことと言われましても。普通に授業受けてますよ。昼休みとかは読書して過ごしてます」


「へー。部活とかは?」


「入ってませんねー。やりたいこともなかったですし。将棋部とかあれば入ってたかもですけど」


 中学のころから帰宅部だった僕。母には何度も「せっかくなんだし何かやってみたら?」と言われました。ですが、結局今日までどこにも入らずじまいです。まあ、別にそれで後悔しているというわけではないので構いませんが。


「そうなんだ。ということは、あれだ」


 盤上に駒を打ち下し、顔を上げるテンちゃん。その顔には、ニヨニヨとした笑みが浮かんでいました。


「放課後は、彼女とデート三昧ってわけだ」


「……はい?」


 急に何言ってるんでしょうかね? この人は。


 テンちゃんの言葉に固まる僕。そんな僕の態度を不思議に思ったのでしょう。テンちゃんは、頭の上にはてなマークを浮かべながら首を傾げていました。


「え? 彼女、いるんでしょ? あの人からの手紙にも書いてたよ。『蒼空そら君はすごくモテるんだ』って」


「いや、いるわけないじゃないですか。そもそも、僕、今まで女の子とお付き合いなんてしたことありませんし。それに、友達の数だってそんなに多くありませんよ」


 そう。僕という人間は、それほど人付き合いというのが得意ではないのです。これまでの人生の中で、自信をもって友達と呼べる人は何人いるでしょうか。一人、二人、三人…………うん。数えるのはやめておきましょう。


「なん……だと……。あ、で、でも、お昼一緒に食べる人くらいは……」


「入学してからずっと一人で食べてますよ」


 一人飯最高!


 …………


 …………


 ……虚しい。


 って、ダメダメ。


 小さく首を振り、僕は盤上に視線を移しました。数秒考えた後、陣形を整える一手を指します。局面はまだ序盤戦。ここで無理矢理攻めても返り討ちに合うだけです。相手は、僕より棋力が上のテンちゃんですしね。慎重に、慎重に。


「これは……どうすれば……」


 不意に、盤上の向かい側から聞こえた声。見ると、テンちゃんが顎に手を当てながら「うーん」と唸っていました。その視線は盤上に向けられています。ですが、テンちゃんの様子は、次の一手を考えているというようには見えませんでした。


「テンちゃん?」


「私が……じゃあ、あの時間に……」


「お、おーい」


 僕が呼びかけても、テンちゃんは全く反応してくれません。何かブツブツと呟きながら、考え事をしています。といいますか、対局ほったらかしなんですが。


「よし!」


 数十秒後。どうやら考えがまとまったようです。ガッツポーズをするテンちゃんがそこにいました。


「テンちゃん。何考えてたんですか?」


「ふふふのふ。それは明日になれば分かるよー」


 あれ? 何だか寒気が……。


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