020・逃走と大金
僕と速水は下水道を駆け抜けていた。
匂いが気になるところだが、冴島の追っ手が来るのを避ける為であれば我慢できる範囲内だ。
「やった。これで僕は大金持ちだ」
「喜ぶのはまだ早いです。いつ最悪な事態になるか分かりません。一時も油断は大敵です」
「大丈夫だろ。ここまで追って来られないさ」
「分かりませんよ。出口に先回りされて出た瞬間、確保なんてことも考えられる」
「怖いこと言うなよ」
「でも、まぁ、まさか下水道に逃げているとは思わないでしょう。今頃地上を走り回っているに違いありません」
「で、これからどうする?」
「臭いので適当なところで地上に出ましょう。勿論、人気のない場所を狙って」
マンホールの蓋を開けて周囲を警戒しながら僕と速水は地上に出た。
出た先はゴミ捨て場の前だ。出た先も匂いがきつい場所だが、人の目は避けられた。
「こうなるとこの金庫が邪魔だな。移動するときは重いし目立つ」
「まずは金庫を開口しましょうか」
「でもどうやって?」
「既に考えてあります」
速水と向かった先は町の小さな鉄工所である。
鍵が壊れているのか、シャッターには鍵は掛かっていない。
「ガス切断をしましょう。中にあるガス溶接機を借りて金庫を開けます」
「でも、僕は資格を持っていない」
「それくらいネットで検索すれば出来ますよ」
ガス切断の作業は速水が一人で行ってしまう。
危ない器具を慎重になりながら手際よく行う。
雑に金庫を開口して中から現金が飛び出した。
五億円が出てくると思ったが、思いのほか少なく見える。
あって二、三億くらいか?
「まぁ、同じ場所に五億なんて入れていないわよね」
「え? じゃ、残りは冴島がどこかに隠しているってこと?」
「分からない。とにかく今はある分だけでも鞄に詰めてホテルに直行しましょう」
「了解」
鉄工所の滞納時間はわずか十五分。
目的を果たせばすぐに退散だ。ここまで全てがうまくことが運んでいた。
逃げるように僕たちはホテルにチェックインしてようやく緊張の意図が途切れた。
ホテルに戻ってからいくら入っているか手分けをして数えた。
「ふぅ。二億二千五百万。飛んで三十二万円か」
「やっぱり五億円もないじゃないか」
「いえ、充分よ。欲張っても仕方がない。今はこれで満足するしかない」
「で、でも」
「安心して。最後は必ず全部取り返すから」
「取り返すってまたあいつらのアジトに乗り込むつもりか? 危険すぎる」
「いや、あいつらのアジトじゃない」
「どういうことだ?」
「おそらく無くなったお金はどこか別の場所に移動させていたんじゃなく使った金かもしれない」
「使った? 何に?」
「まぁ、闇金の使い道を追ったら命がいくつあっても足りない。お金に変わるものを奪い取ればなんとかなるでしょ」
「お金に変わるもの? 速水はさっきから何を言っているんだ」
「説明はまた今度。はい。これが保高さんの取り分ね」
そう言って速水は俺に百万円の束を渡した。
「百万円って一億くれるんじゃないのか? これじゃ数ヶ月暮らすのが精一杯じゃないか」
「いきなり一億もあげたら保高さん私から離れちゃうでしょ」
「そんなことはしないよ」
「私が信用したら一億あげる」
「信用って僕はまだ信用されていないのかよ」
「していないわけじゃない。ただ、もう少しだけ様子を見させて」
「分かったよ。とりあえずこの金はもらっておく」
俺は百万円をポケットに突っ込んだ。
「で、速水。これからどうする?」
「とりあえずお風呂に入りたいかな」
「そうじゃなくてこの先だよ。まだまだ逃亡生活が続くんだろ? だったら次の作戦を考えなくていいのか?」
「あぁ、勿論考えているわよ。とりあえず一週間くらい好きに過ごしてもらって結構よ」
「なんだよ、それ」
「勿論、追われている身ってことを自覚しての行動よ。変に目立たなければ何をしてもオッケー。別行動を取ってもいいけど、連絡は取り合える環境であることは忘れないように」
「そ、そっか。お前がそう言うなら好きにさせてもらうよ」
翌朝、俺は休暇の意味を込めて好きに過ごすことになった。
勿論、速水も同じように好きに過ごす。俺たちはパートナーを組んで初めて別行動を取ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます