全てを失ったダメ人間の僕は犯罪者系美少女の人質として逃亡生活を送ることになってしまう。だが、逃亡生活の末に愛が芽生えて満足です。

タキテル

000・誠実と絶望


 誠実。

 真面目な印象を与える言葉で僕の両親は特に好きな言葉の一つだった。

 そのことで僕の名前は『誠也せいや』と名付けられた。

 保高家ほだかけの長男として生まれた僕は両親から期待の存在だった。

 父親は商社の係長をしており、母親は銀行員の受付をしている。

 曲がった事が嫌いな両親から生まれたことにより、僕の人生は教育に関して力を入れられていた。幼少期の頃から英会話や塾に通わされ、殆ど友達と遊ぶことはなかった。

 それに娯楽のものは近づけさせまいと漫画やゲームなんかは見たこともしたこともない。おまけにテレビではニュースや情報番組しか許されず、アニメや映画なんか見ていたら必要以上に叱られた記憶しかない。

 自分は勉強をする為に生まれてきたのかと錯覚する。

 学校で良い点数を取れば両親から褒められて愛情を感じさせてくれる。

 しかし、悪い点数を取った日には両親は豹変する。特に父親は凄い剣幕で僕を攻め立てた。


「どうしてこんな点数しか取れないんだ!」


「ご、ごめんなさい。次は頑張るから」


「次じゃ意味ないんだよ。結果が全て。一度落ちれば二度と這い上がれないんだぞ。分かっているのか」


 成績が悪い日は父親から暴力を振るわれてご飯も抜きにされる。

 その恐怖から僕は父親の顔を窺いながら過ごすようになっていた。

 結果さえ良ければ父親は父親らしく良く接してくれる。

 そんな風に育った僕は高校では進学校に進み、不自由のない人生を歩んでいた。

 だが、両親の期待を大きく裏切ったのは大学受験の時である。

 僕は第一志望を滑った。その事実は本人の僕以上に両親は悲しんだ。


「親の顔に泥を塗りやがって」


 父親からのその言葉が僕の心を突き刺した。

 どんなに謝罪をしても父親は一向に許してくれない。

 浪人なんていうプライドが許せなかった両親は僕に第三志望の三流大学に行くことを進める。当然、僕もショックは大きい。あれだけ勉強した結果、進学したのが滑り止めで受けた学校なのだから。

 僕は逃げるように一人暮らしをすることになり、両親からの期待は完全になくなった。

 僕は期待外れ。

 両親の期待は次男の誠二せいじに受け継がれることになった。

 誠二は僕よりも偏差値の高い高校に通っており、学年ではトップクラスの成績を誇る。

 両親の期待は誠二に奪われ、僕は保高家では完全にお荷物である。

 その衰えは右肩下がりで勉強にも身が入らず、僕は大学を中退してしまう。

 当然、両親に報告出来ず、何もしない日々が続く。

 人は一度、足を踏み外せばどこまでも堕ちていく。今の僕を表しているみたいに。

 いつアパートを追い出されるか、怯える日々を送る毎日である。

 資金は尽き、いよいよ食べるものがなくなった。

 冷蔵庫の中は調味料しか入っていない。

 今まで勉強しかしてこなかった僕にいきなり働くなんて出来ない。

 第一、他人とまともにコミュニケーションが取れない僕に働くところなんてあるのだろうか。一層、勉強したらお金が貰えないだろうか。

 いや、そんなことあるはずもない。

 それに僕は勉強ですら満足に出来ないほど、やる気をなくしている。

 何もかもどうでもいいとさえ思う。

 逃げ出したい。

 両親からも勉強からも働くことからも全てに対して逃げ出したい。

 それでも僕は生きている。

 失うものは失った。

 学歴も親からの期待もお金も何もかも。

 絶望。僕が一体何をしたと言うのだろうか。


ーーーーーー

新作です。

人気なければ打ち切ります。

どうか★★★をよろしくお願いします。

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