第39話 貴族主義の国
「でも田安中佐は鳥居曹長のことは認めてらっしゃるんでしょ?聞いた話じゃ鳥居さんの家って相当貧乏みたいじゃないですか」
誠はそう切り出してみた。
「鳥居は士族です」
「でも貧しいわよね……あそこの武家は『武士は食わねど高楊枝』だから」
麗子に向かってアメリアはそう言った。
「武家にはプライドがあります」
「アタシは公家だから関係ねえな……公家だって貧しいのはいるぞ……官位が低いと一生下級役人で食うか食わずの暮らしだ」
麗子に向かってかなめはそう言って笑いかけた。
「身分とは便利なものだな。偉ければ色々言えるが低い身分では何もできない」
「カウラ、嫌味かそれは」
「別に……」
かなめは口を出してきたカウラをそう言ってにらみつけた。
「そう言えば公家ってなんです?武家は軍人や警察官ってのは分かるんですが……」
社会常識ゼロの男、誠はそう言って首をひねった。
「おいおいおい、公務員は全員軍人と警察官か?文民のキャリア官僚はどうするんだよ。そこが公家の仕事場だ……ってまあ一応上級職の官僚には試験があるが……どこの試験にだって裏口がある……それに上級職の官僚試験を受けようとすると大学を出るだけじゃなくて専門の予備校に言って勉強しなきゃ受からねえ……予備校に行かせるような金があるのは貴族だけ……それと一部の金持ちの平民位だ」
「かなめちゃんは軍人よね、公家なのに」
アメリアは烏龍茶を飲みながらそう言った。
「『違法軍人』ですわ」
麗子は不器用に鶏腿串を口に運びながらそう言った。
「なんです?それ」
麗子の聞き慣れない言葉に誠はそう言った。
「本来公家は軍人になれねえんだ。それをアタシの伯父……アタシの親父の兄貴で本来は西園寺家の惣領に当たる人だ。その人が軍人に無理やりなったのが初めだ……西園寺家は公家の最高の家だからな……公家の模範にならなきゃならねえところを無理を通したんだ。それまでも一代公爵家クラスなら軍人の公家もあったが四大公家でも軍人を出して良いってことになった。だからアタシは軍人になった……強くなりたかったからな……こんな体だから」
かなめはそう言って納得できない表情の誠を説得した。
「身分制って面倒なのね」
アメリアは珍しくかなめに同情するようにそう言った。
「そうだな。何もかも前例前例って……面倒なんだ」
「それは伝統を大事にするってことでは無くて?」
かなめのぼやきに麗子はそう言って反論する。
「ものは言いようだな」
「そうとも言えますわね」
麗子はカウラのツッコミにそう答えるとビールを飲んだ。
「でも大変なんですね……西園寺さんは」
「同情してくれるか?神前」
誠のフォローにかなめは泣き顔を浮かべる。
「そんな顔をしても何にもならないわよ」
「うっせえ」
アメリアが言うのにかなめがムキになってそう返した。
「それより……島田君ピッチ早すぎ」
アメリアは黙ってサワーを飲んでいる島田とサラに目を向けた。
「いやあ、あんまり話すことが無いんで」
「貴族様の偉い人の話題には私達はついていけないわ」
島田とサラはそう言って愛想笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます