第15話 機体

 誠達は05式特機が並ぶハンガーへとたどり着いた。


「これが05式特機ですのね……ずいぶん恰幅が良いというか……デブですわね」


 麗子は感心しながら周りを見回す。その奥には『武悪』や『方天画戟』が並んでいるが、とりあえず麗子にはそこには関心が無いようだった。


「なんだよ……そんなに珍しいのか?資料はさんざん見てるはずだぞ……監査に来たんだろ?それのこいつが太って見えるのは重装甲だからだ」


 かなめはそう言いながら機体を見上げる麗子に声をかけた。


 そこに整備を仕切っていた島田が顔を出した。茶髪のでかい態度の彼にそれまで澄んでいた麗子の瞳は一気に濁ったものに変わった。


「またお客さんですか……あの二機が来てからずいぶんになりますが……全く」


 整備班長の島田正人准尉はそう言いながら照れ笑いを浮かべている。


「調子はどうだ?」


 麗子の扱いに疲れてきたのかかなめはそう言って島田に笑顔を向ける。


「どうだってねえ……『武悪』の扱いの難しさを知ってうちの兵隊がビビっちゃって……あんなの本当に現場に出すんですか?」


 愚痴る島田を横に見ながら麗子はただ茫然と前を見つめていた。となりで鳥居が大きすぎるカメラで機体の写真を撮っている。


「それにしても今度のお客さんは突然のことですよね」


 島田はそう言いながら鳥居が撮っている誠の05式乙型を見上げた。


「まあな……監査と言うかなんと言うか……」


 そう言いながらかなめはそのまま奥に鎮座している『武悪』に足を向けようとする麗子の襟首をつかんだ。


「何をなさるの!」


「そっちは立ち入り禁止だ。法術関連兵器は下手に関わると痛い目見るぞ」


「分かってるわよ」


 かなめにたしなめられて麗子は不機嫌そうにそう言ってカウラの電子戦専用機体に足を向ける。


「お客さんですか……大丈夫なんですか?」


 島田がいぶかしげな表情でかなめを見つめる。


「一応関係者だ。大丈夫だろ?」


 鳥居が次々と連写する様を見つめながらかなめはそうつぶやいた。


「まあ写真くらいは良いですがね……『武悪』とかの機動データをくれとか言われると問題ですが」


 島田はそう言いながら頭を掻いた。


「あれはやっぱりヤバいのか?」


 かなめはそう何気なく尋ねる。


「別にヤバいってわけじゃねえですけど……隊長の能力とか上に知られると結構問題になりそうなんで」


「隊長の能力を知られるとどうなるんだ?」


 そう尋ねるカウラの表情は硬かった。


「隊長は法術適性が無いってことで上には通してるんで……まあ、不死身なのは上も承知してますからそれが嘘だってことは分かってるとは思うんですがね」


 島田はそう言いながらランの深紅の05式先行試作型を見上げている麗子に目をやった。


「叔父貴が法術適性無し?そんな嘘が通用するのか?」


 そう言いながらかなめは島田に目をやる。


「そう言いますがね……部隊長が法術師なんて言う部隊は他にねえんですよ……遼帝国とかはあるかも知れませんが少なくとも東和には一つとしてそんな部隊ありませんよ」


 島田はめんどくさそうにそう言うと『武悪』に手をふれようとしている麗子に向けて走っていった。


「やめてくださいよ!触るとやけどしますよ!」


「熱いんですの?」


「そうじゃなくって!」


 麗子と島田のやり取りを見ながら誠は大きくため息をついた。


「でもこれが監査だとは思えないんですけど……」


 麗子達のドタバタを眺めているかなめに誠はそう言った。


「そうだろうな、こんなもん書類のやり取りだけで済む話だ。まあ麗子はすることもないから回されてきたんだろ?」


「本当に問題児なのね」


 アメリアはそう言ってため息をつく。


「しかし、放置しておくわけにもいかないだろ?うちにも本局に報告されると面倒なこともいくつかある」


 カウラは珍しく部隊の秘密についてそう語った。


「そう言うこった。書類で済む話だけならいいが面倒なことに顔を突っ込まれるとうちとしても困るんだ。そこのところをいい具合にやれってことだ……叔父貴も面倒なことを押し付けてきやがる」


 そう言うとかなめは島田と揉めていた麗子に手を振る。


「麗子!遊びに来てるわけじゃねえんだぞ!」


「分かってますわよ……ささ、鳥居。写真をしっかり撮るんですわよ」


 かなめの声掛けに麗子はカメラで連写する鳥居に声をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る