第11話 来館証

「おい、何探してんだ?」


 かなめは麗子に向けてそう言った。誠達が麗子に追いついて本部棟に入った時、麗子と鳥居はきょろきょろと周りを見回していた。


「ここには……来館証はありませんの?」


 麗子はそう言うと近くのテーブルに誠も以前書いた『来館証』の綴りを見つけて手を伸ばした。


「そういう所はきっちりしてるんだな……まあ監査なんてのはそんなもんか」


 かなめは呆れつつきょろきょろと周りを見回す麗子に向けてそう言った。


「監査と言うお仕事はこういう細かいことに気が回る人間にだけ務まりますの……大雑把な誰かさんには務まらないお仕事ですのよ」


「誰が大雑把だ!余計なお世話だ!」


 来館証に記入しながら麗子はそう言ってかなめを一瞥した。


「あのー……田安中佐は監査に来たんですから関係者ですよね。それは出入りの業者用の来館証ですよ」


 誠はそう言って奥の戸棚から本局勤務者用の来館証の用紙を取り出して麗子に手渡した。


 麗子は耳の当たりが真っ赤になって誠を見つめる。


「な……なんですか?」


 威圧するようなその視線におびえながら誠は恐る恐る麗子の顔をのぞきこむ。その視線にひるんだ誠の固い表情を確認すると麗子の緊張は一気に緩んだ。


「よく気の付く下男ですわね。かなめさん、少し見直しましてよ」


 麗子はそう言うと誠から受け取った関係者向けの来館証に記入を開始した。誠は思わず息をのみながらその様子をじっと眺めていた。


「本当に大丈夫なのこの人」


「だから私に聞くな」


 誠の後ろで様子をうかがっていたアメリアとカウラがそうささやきあっている。


「ではこれをかなめさんにお渡しすればよろしいのですわね」


「ああ、よろしいんじゃねえの?」


 来館証などには全く関心の無いかなめはそう言うと麗子と鳥居から来館証を受取った。


「じゃあ後でちっちゃい副隊長にハンコ貰っとくわ」


 かなめはそう言うと二人から受け取った来館証を乱暴にスカートのポケットにねじ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る