第26話 邪神を追って異世界へ
晴翔が春香とその内に宿る女神と対談をしている頃、アキトは自らをパパと呼ぶ少女の出現に戸惑いを見せていた。
「俺はまだ十五歳なんだ。いや、もう秋だからそろそろ十六歳か。とにかく愛佳ちゃんみたいな年齢の子供がいる年齢じゃないんだ」
「愛佳は未来から来たんだよ! 過去にタイムリープした晴翔を連れ戻しに来たんだ」
話を聞くと俺と春香の間に生まれた双子の子供で、先ほどの少年は天界に戻ってしまった女神様恋しさに過去に来たらしい。
「そうなのか。それで君はそんなに春香に似ているんだな……」
「もう! 君なんて他人行儀だよ! 私のことは愛佳って呼んで!」
「わ、わかった。それで晴翔はどこに行ったんだ?」
「ちょっと待ってね……あれ? なんだか神社に戻ってきてるよ。あ、向こうから歩いて来た」
愛佳が指差す方向を見ると、晴翔がその身長には不釣り合いな剣を抱えながらトボトボとこちらに歩いてくるのが見えた。愛佳が晴翔の元に駆けつけて叱りつける。
「もう! 急に過去に飛んで仕方ないわね。さあ、問題が起きない内に帰るわよ!」
「いや、それは出来なくなったんだ。この草薙の剣、女神のママからパパに渡してだって」
そう言って俺に剣を差し出す晴翔。受け取って数センチだけ抜いて刃を確認すると、なんだか凄まじいプレッシャーを感じる。まさか文字通りの神器なのか? いや、それよりだ。
「春香はどうしたんだ? お前が連れて行ったままで心配なんだが」
「ママは祭壇に張り付いてる。僕がそこの二人を神社に入れるために封印を緩めたせいで二体の邪神が一度復活しちゃって、再封印の維持で手が離せないんだ」
なんだかとんでもないフレーズが聞こえた気がするが、ここは邪神の封印なんてしていたのか。それでメリアーナやアリシアが弾かれるような結界が張ってあったんだな。
「何やってんの、晴翔! 私もママの手伝いに行ってくる!」
「待って! 実は二体ともほんの一部だけ遠い世界線に逃げてしまって、その草薙の剣でパパと一緒に討伐してこいって言われたんだ。僕、荒事は嫌いなのに……」
ガックリした様子の晴翔とは対照的に愛佳は目を輝かせて、右手を天に掲げると雄叫びをあげた。
「ええ!? そんな嘘でしょ! パパと一緒にそんな面白そうな旅行に出掛けられるなんてラッキー!」
小躍りし始めた愛佳に親父やベアトのようなノリを感じて俺は思わずツッコミを入れる。
「おいおい。邪神の討伐はどう考えても旅行じゃないだろ。そんなピクニックにでも行くような感覚でいたら不味くないか?」
「大丈夫だよ! ひいおばあちゃんたちに免許皆伝をもらったくらい、私も晴翔も強いから安心して!」
「ん? 晴翔は戦いは嫌いだって言ってなかったか?」
素朴な疑問に晴翔は渋い表情を浮かべて、ベアトとリースが行ったというスパルタ教育について語り始めた。
「未来のパパだって、ひいおばあちゃんたちの訓練は度が過ぎているって言ってたよ。僕と愛佳はともかく、常人だったら数百年くらい修行しないと一本も取れないんじゃないかな……」
「なにぃ!? あの二人から一本取れるのか。そんなに強いなら、俺、要らなくないか?」
「僕らは邪神の転移を封じるのに集中しないといけないから、その間にパパがその神剣でブスッと幽体を貫いてよ」
まさかのゴーストバスターか。というか、やっぱり神剣だったか。俺はなくさないように草薙の剣をディメンション・ボックスに仕舞い込むと、メリアーナとアリシアに帰国を促した。
「というわけで、俺は邪神討伐をする羽目になった。二人は国に……」
「帰るわけがありませんわ! お供についていきます!」
「私もです! サージェリオンの奥義をお見せしましょう!」
しかし二人とも聞くわけもなく、結局五人で邪神討伐の旅に出ることになった。
◇
晴翔と愛佳により異世界転移した先は、以前に春香が転移した果ての世界ほどではないが遠く離れた座標に存在していた。空中を飛来する乗り物が行き来するメトロポリスは非常に未来的な都市だ。
自分で来ようと思ったら千回くらい異世界転移しないと来られないかもしれないが、一年以内には来れるだろうから俺は将来的な逃避先として座標を記録しておく。
「とりあえず、元、機械文明の管理神の方が大人しそうだったから、最初はこっちの世界にしたよ」
「ん? ちょっと待ってくれ。元、機械文明の管理神ってどういうことだ?」
「なんだか、機械文明の管理神と魔法文明の管理神がそれぞれマッドサイエンティストのように競って文明を発展させたから、宇宙破壊兵器や宇宙崩壊魔法が生まれる元になったらしいよ。封印される直前に、芸術は爆発だって言ってた」
嫌な神様だな。そいつらのせいで平和な生活が崩れたと思うと、是非とも草薙の剣をその胸にブッ刺してやりたい。
「それで、ターゲットはどこにいるの? さっさと倒しにいきましょうよ!」
「愛佳は自分でサーチできるだろ。なんで僕にだけやらせるのさ」
「だって、そういうのは晴翔の方が得意じゃない」
そう言って鼻歌を歌う愛佳にため息をつく晴翔を見て、俺は少し同情してしまう。
「なんだか尻に敷かれているな」
「パパが愛佳を甘やかすからいけないんだよ!」
「……そりゃあ、悪かったな」
まだ育ててもいないのに躾をとやかく言われるとは思わなかったが少しは気をつけよう。だが……。
そこで俺は思考を止めて愛佳のことをジッと見る。
「なあに? パパ」
「いや、なんでもない」
これだけ春香に似て可愛いと、甘やかすなと言われても無理だろう。頑張れ! 晴翔。負けるな! 晴翔。君の奮闘が人類の未来を切り開くだろう。
そうしてテレビ番組のモノローグのようなことを考えていると、晴翔が不機嫌そうな声音でツッコミを入れてきた。
「……あのね、僕が神格を持っているって忘れてない? 何が頑張れだよ。パパは未来のパパと本当に変わらないね!」
「あー! なんで言っちゃうのよ! 折角、パパが可愛いって言ってくれてたのにィ!」
嘘だろ。まさか女神様と同じで考えていることが筒抜けとは思わなかった。まあ、人間正直が一番だ。この際、開き直ることにしよう。
「ところで、科学文明の管理神をしていたならナノマシンとか操られたりする可能性はないか?」
「晴翔が転移を防いで私がそのあたりの防御をするから大丈夫だよ。でも、攻撃は防がれちゃうかもね」
「ふーん。じゃあ、魔法主体の攻撃を組まないとダメなのか」
俺はどっちでも対応できるからいいけど、メリアーナとアリシアは事前に示し合わせておいた方がいいだろうな。
「よし。じゃあ、今回はアリシアは防御主体でメリアーナは攻撃主体にしよう。魔法文明の管理神を相手にする時は入れ替えだ」
「「わかりました」」
メリアーナとアリシアが揃って返事をする。最初の頃の険悪な雰囲気を考えたら考えられないくらい息が合っている。そういえば、攫われた時の礼を言ってなかったな。
「今更だけど、二人とも統合派の手から助けてくれてありがとな」
「いえ。実行犯を泳がせてアキト殿を囮に使うような真似をしておいて、礼を言われる資格はありません」
「そうですわ。下手をすればアキト様の貞操の危機でしたのに」
「それはベアトとリースの指示だったんだろ。仕方ないさ。それに、結果的には二人の目論見通り組織を一網打尽にしたのだし……」
(加えて言うなら、それでリソース枯渇ルートは避けられたんだしな)
俺は心の中でそう言って、その証である晴翔と愛佳を見る。この二人が存在していると言うことは、未来のリソース不足は回避できるのだろう。
あとは破滅ルートを避けるために、危険分子である邪神を倒して不干渉を維持できればそれで平和な未来が築けるはずだ。平和的な統合という道もあるだろうけど、それが簡単にできたら統合派たちも苦労しなかったことだろう。
そんなことを考えながら晴翔の先導に従って歩を進めるうちに、巨大な超高層ビルの前に辿り着いていた。
「ここの最上階に居るみたい」
晴翔が指し示す先を魔法による視力強化で望遠し、ナノマシンにより特殊な映像処理を施してビルの中を覗いてみると、赤い幽体がこちらを見ていた。途中の階には人の気配はなく、異様に空間が捻じ曲がっていたりおかしなエネルギー反応が感じられたりする。恐らく、様々な罠を張り巡らせているのだろう。
そう判断した俺は、体内の演算リソースの大半を目の前の超高層ビルの解析を振り向けたのだった。
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