第22話 危機一髪の救出劇
マリーは黙り込んだ俺を見ると、先ほど淹れた紅茶を飲むよう勧めながら説明を続けた。
「アキト様や私のようなハーフの存在は非常に低確率ながら今までも存在していましたが、公には公表されず特定管理区域での居住を義務付けられてきました」
「そうなのか? 親父やお袋を追ってきた連中は俺を見るなり奇跡だと叫んで確保しようと争っていたぞ」
「それはアキト様が皇家の血を引くお方だからです。私とアキト様では、保有する魔力量やナノマシンの適合性も段違いで、ハーフが生まれる確率は能力の高さに反比例するのです」
一時期は高い能力を維持しつつハーフの出生率を上げる研究もされたそうだが、遠い昔に不干渉条約が締結された際、その研究は破棄されたそうだ。今では相互不干渉の原則から、新たなハーフが生まれることはほとんどないという。
「じゃあ、なんでマリーみたいな子がいるんだよ」
「……条約で縛ったあとも、互いの文明の融和という理想を掲げる者や愛し合っていた者たちが秘密裏に交流を続けていたのです。アキト様のご両親も、そうではないですか」
いや、親父やお袋はお忍びの旅先でたまたま出会って一目惚れしたという若気の至りらしいんだが、この際それはどうでもいい。
「あー、それを知ったのはつい最近でな。それと俺を拉致することが、どう繋がるんだ?」
「それはもちろん、アキト様を旗頭に統一国家を樹立して、両文明の融和と新人類への進化という理想に向けて邁進するためです!」
「いや……それはちょっと」
親父かお袋どちらかの国に連れて行かれるのと大差ないというか、反乱軍のトップになれと言われた気がするんだが気のせいだろうか。
「マリーがいる組織がどれくらいか知らないが、銀河を統べるような二つの勢力相手に反旗を翻したところで無駄じゃないか?」
「確かに現段階では無理でしょうが、皇家の血を引くアキト様の子孫が数多く生まれれば不可能ではありません」
身を乗り出してくるマリーに押されつつ、先ほど能力の高さに反比例して出生率が落ちるようなことを聞いたことを思い出して尋ねてみた。
「いや、でもハーフの子は生まれにくいんだろ?」
「ええ。ですが、片親がハーフなら話は別ですし、ハーフ同士であれば形質は百パーセント遺伝します」
そう言って更に身を寄せてくるマリーに身の危険を感じて席を立ったところ、眩暈がして俺はその場にしゃがみ込んだ。
「ふふふ、ようやく効いてきましたね」
「これは……お前、何かおかしなものを紅茶に入れたな」
マリーは弱った俺をその場に組み伏せて、互いの服のボタンを外しながら答えた。
「貴族が子作りに使う強力な媚薬で、嫌がる子息や生娘もイチコロです。健康には影響しませんからご安心ください」
「安心できるかァ! やめろ、俺はまだそういう経験は……!」
「あら。アキト様の初めての相手を務めることができて光栄ですわ。天井を見ている間に終わりますから、そのまま大人しくしていてくださいませ」
「ああぁ! すまん、春香ぁー!」
そうして身を寄せるマリーの体臭にどうしようもなく反応してしまう体に絶望感を抱きながら春香の名前を呼んだとき、爆音と共に部屋の扉が吹き飛んだ。
扉の方に目を向けると、そこには見慣れた二人が立っている。
「助けにきたよ! アキトお兄ちゃん!」
「危機一髪でしたね。大丈夫ですか、アキトお兄様」
「くっ、どうしてここが! ジェイドやバーナードはどうしました!」
ベアトとリースの方を向いて問い詰めるマリーに答えを返したのは、その隙に転移して俺を助け起こしたメリアーナとアリシアだった。
「その二人も含めて建物にいた統合派はすべて捕らえましたわ」
「アキト殿を囮に使うなど反対でしたが、泳がせた甲斐がありましたね」
そう言って瞬速の当て身でマリーを気絶させ捕縛する二人。ずっと姿を見せないと思っていたら、そんなことをしていたのか。
俺はモヤつく思いを抱えながら、なんとか起き上がろうとすると、扉の方向から声が聞こえてきた。
「アキくん! 大丈夫!?」
扉の向こうから姿を現した春香が、苦しげな表情をして身を起こす俺を見て抱き起こした。肌けられた俺の上半身に春香の胸の感触が伝わり、どうしようもなく下半身に血が集まってしまう。
「春香……か。離れてくれ、色々不味い事になっているんだ」
「そんな! どこか怪我しているの?」
そう言って全身をくまなく調べ始めた春香が、下半身のある一点の膨らみに気がつき頬を赤く染めた。
「えっと……そこが苦しいの? 撫でたら元に戻るかな」
上目がちに見つめてくる表情がやばい。というか春香に撫でられて元に戻る野郎なんか存在しないぜ!
「いや……普通に、離れてくれ。しばらくしたらおさまる……から!」
俺は理性を振り絞って春香を遠ざけた。貴族の子作り用だかなんだか知らないが、なかなか中和できない。ナノマシンですぐに効果が切れてしまったら行為に及べないってか。まったくとんでもないものを作りやがる。
そう
「お兄様が苦しんでいらっしゃるようです。メリアーナお姉様、その胸で奉仕してあげてください」
「アリシアお姉ちゃんもだよ! 媚薬を盛られているみたいだけど、髪を巻いて二、三発出してあげればスッキリするはずだよ!」
「いやいやいや! 二人とも何言ってんの! そんなこと口に出してはいけません!」
まったく、両文明の性教育はどうなっているんだ! 十二歳くらいの二人に、そんな特殊プレイを今日のオヤツ感覚でオーダーされたらたまったもんじゃないぜ!
「おかしいですね。イリーナ様の資料によると、アキトお兄様が好きな事トップテンに入っていますのに」
「そんなことまで書いてあるのかよ! いい加減にしてくれ、お袋ォ!」
いつぞやメリアーナが手にしていたマル秘ノートを見るリースに戦慄を覚えながら、俺は転移できる事を思い出しその場から春香の手をとってデルタ世界に逃避した。
◇
「はあはあ……まったく、とんでもない目にあった」
「大丈夫なの? よかったら浄化の術をかけようか」
「いや、もう大体中和できた。心配かけたな」
俺は改修した魔王城を見回しながら、連れ去れらる直前の事を思い出していた。あのように極小の転移ゲートから麻酔を撃ち込まれる事を考えると、今後は常時バリアや結界を展開しておこうと反省していた。
「ねえ、アキくん。あそこにいた人たちはどうしてアキくんを誘拐したの?」
「魔法と科学、二つの国を統合して、俺みたいに両方の力が使える人間の国を作ろうとしていたらしい」
俺はメイガス銀河とサージェリオン銀河の不干渉条約や、マリーに聞いたその後の統合派の動きや狙いについて話して聞かせた。
「えぇー! それじゃあアキくんはあのままだと、特殊な子孫を増やすためにずっと閉じ込められていたってこと?」
「そうなる……かな?」
日本で生まれ育った俺には想像もつかないが、魔法と科学の両方の力を振るえる人間を増やそうと思ったら、強いハーフを種馬のように扱うのが効率的なのだろう。正直、ぞっとしない話だ。
こうなったら、やはりあの計画を実行に移すしかないだろう。
「春香、異世界転移魔法を覚えてくれないか」
「ええ!? あんなの無理だよ」
「いいから聞いてくれ。俺が転移できる世界間距離を十としたら、春香は簡単に億単位の座標間を移動できる。つまり、春香なら誰も追いつけない世界まで逃げ切れるということだ」
ハッキリ言って文字通り神頼みで褒められた方法ではないが、そうでもしないと親父とお袋の国の関係者から逃れる術はないだろう。俺が何十、何百と転移を繰り返す手も考えられるが、転移の痕跡をトレースされたら同じ方法で追いつかれる。
「うん。わかったよ、アキく……」
「すまんが、それは容認することはできんな」
「ええ。尊様が天元世界を長く離れるのは約定違反です」
聞き覚えのある声に振り返ると、想像した姿とはまるで別人の成熟した女性が二人、冷徹な表情を浮かべて佇んでいた。
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