第13話 あの日の出来事
父上はさっさと一人がけのソファーに座ってしまった。
僕はシヴァと一緒にその向かい側へと腰掛ける。アーサーはグィネヴィアと共に父上の横へと移動する。
メイドさんがお茶と共に軽食を用意してくれた。それを見ると急にお腹が空いてきてくぅと小さな音を立てた。
「ジェレミー。夕食前だからあまり食べ過ぎないようにな」
父上に淡々と告げられて僕が身を固くするとすかさずアーサーがフォローをしてくれた。
「育ち盛りだからな。遠慮せずに食べろよ」
父上と一緒だとアーサーの方が気遣いがあると感じられるなんて思ってもみなかったな。
「私はあの日、ジュリアの行動に異変を感じて亜空間エリアに飛び込んだんだ。おかげで周りの音や声しか聞こえなくなったがね」
アーサーが亜空間エリアに飛び込むと僕の母上はエレインを連れて馬車で外出をしたそうだ。
「バトラーが止めたんだがほんの少し気晴らしの為に出かけると言ったので強くは出れなかったようだ。エレインが一緒だからと許したんだろうが、まさかエレインが裏切るとは思わなかったようだな」
そうして馬車は街の中を走り、何処かのカフェの前で停まったそうだ。
「若い娘達に人気のカフェでね。人通りも多かった。ジュリアはその店に入ると見せかけてその横の路地に入っていった。エレインはジュリアと別れて店に入ったようだから、彼女がその後どうしたかは知らない」
母上は路地を抜けてその先に停まっていた馬車に乗り込んだそうだ。
「その馬車で待っていたのがランスロットだよ。ジュリアに向かって歯の浮くような台詞を言っていたな。ああ、今思い出しても寒気がする」
そう言ってアーサーは体を震わせるが、傍から見るとペーパーナイフがちょっと揺れてるだけにしか見えない。
「二人が乗った馬車は王都の門を抜けて郊外へと走り出した。あの門で誰が乗っているか厳しくチェックされたら二人が王都を出ることはなかったのにな」
アーサーの言葉に父上は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それに関しては私も後悔している。夜になってジュリアの行方がわからないと知った時には既に遅かったからな」
「ランスロットはとんでもない奴だったよ。王都を出て次の街に着くと馬車は足がつくからと馬を調達した。それにジュリアと二人乗りで走り出したんだ」
ちょっと待って!
母上ってお腹に僕がいたんだよね。そんな状態で乗馬なんて大丈夫なのか?
「ジュリアは最初は躊躇っていたがランスロットに言いくるめられて馬に乗せられた。初めはゆっくり走らせていたが、街を抜けた途端全速力で馬を走らせたんだ」
いくら二人乗りでスピードが出にくいとは言っても乗馬が妊婦の体にいい訳が無い。すぐに母上は体調に異変を生じたそうだ。
「ランスロットはその次の街で適当な空き家を借りてジュリアを医者に見せた。おそらく流産を狙っていたんだろう。幸い無事にジェレミーは産まれたがそのままジュリアは寝込んでしまった」
母上の手前、ランスロットは僕が産まれた事を喜んでいたが、母上が眠ると色々と悪態を付いていたそうだ。アーサーはこっそりと亜空間エリアから出てランスロットと母上の様子を見ていたという。
乳母を雇いしばらくは僕を育てていたが、ある日母上が寝ている時に僕を籠に押し込めだした。そこでアーサーはその籠の中に忍び込んで僕に付いて来たそうだ。
「そこでジュリアと別れてしまったから、あの二人がどうなったかはわからない。ジェレミーが生まれた以上、私が守るのはジェレミーでジュリアではないからな」
忍び込む際に母上がメモ書きしていた僕の名前と誕生日を書いた紙を一緒に持って来てくれたそうだ。
それが無かったら今頃僕は別の名前を付けられていた可能性があるよね。その点はアーサーに感謝しないとね。
そして僕はランスロットの手によって孤児院の前に捨てられたという訳だ。
アーサーが話し終わった途端、父上はダンッとテーブルを叩いた。きつく唇を噛み締め鬼のような形相をしている。
「ランスロットの奴め! 私の妻と子供に何という仕打ちを! おまけに貴族の子供を孤児院に捨てるだと! 貴族の子供は神殿に連れて行く事になっているはずなのに! 見つけたらこの手で息の根を止めてやる!」
父上の言葉からするとランスロットは未だに見つかっていないようだ。それに貴族の子供は孤児院でなく神殿に行く事になっているなんて知らなかったな。
「ジュリアが帰って来ないと言う知らせを受けて秘密裏にあちこちを探させた。するとカフェの路地裏に倒れているエレインが見つかった。エレインが言うには不審な男達に囲まれて路地裏に連れ込まれたと言うが、そんな人物を目撃した者はいなかった。エレインは私に擦り寄ってきて許しを請おうとしたが、あんな女の色仕掛など私に効くはずがない。即刻投獄して後に処刑した」
エレインさんのしたことは許される事ではないと思うけど、ちょっとは同情してしまうな。
「そうか。エレインは処刑されたのか。それでジュリアはどうなったんだ?」
アーサーの問い掛けに父上は何も言わずに口を噤んだ。
まさか、まだこの屋敷に戻っていないのだろうか?
「ジュリアの事は明日話そう。ジェレミーも疲れているだろう。夕食が済んだらゆっくりと休むがいい」
そう言って父上はメイドを呼ぶと僕を風呂に入れる様に指示を出し、夕食の準備をさせた。
僕はメイドに連れられて湯浴みをさせられ、真新しい豪華な服に着替えさせられた。
今迄全て自分でやっていた事を他人の手でされる事に戸惑いつつも身を任せた。
父上と会話のない夕食を終えて部屋に案内された。
もともと僕の部屋になるはずだった所のようだ。部屋の中にシヴァの寝床も新たに用意されてシヴァはご満悦だった。
アーサーはあの後グィネヴィアにベッタリで姿を見ていない。それに屋敷の中はアーサーは自由に出入り出来るので、無理に側にいなくてもいいらしい。
部屋に入るとベッドに直行した。
うわぁ、物凄いフカフカだ。
前に泊まった宿屋なんて比較にならないくらいに柔らかな布団の感触にちょっと横になるつもりだったのが、気付けば朝まで熟睡していた。
それにしても、布団もかけずに寝ていたのに朝起きたらしっかり布団がかけられていた。
この布団をかけてくれたのはもしかしたら父上なのだろうか。
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