第12話 公爵家
執事は側にいたメイドに貸馬車への対応を任せると僕に向かって手を差し出してきた。
どう対応していいかわからない僕にシヴァが降りる様に鼻で僕の体を押し出す。
僕がおずおずと執事さんの手を取ると、馬車を降りる様にエスコートされる。
うへぇ。
女の子でもないのにエスコートってアリなの? と思ったがこの場合は僕が子供だから降りるのを手助けしてくれただけだろう。そこまで小さい子供じゃないと思うんだけどね。
僕とシヴァが馬車を降りると「こちらへどうぞ」と玄関へと案内された。
玄関の扉が開くとそこにはズラリと使用人が並んで僕達を出迎えてくれた。
これってよくドラマや漫画で見るシーンだな。まさか自分が体験するとは思ってもみなかったな。
シヴァってば何処まで術をかけたんだ?
お辞儀をして並ぶ使用人達の間を通って屋敷の中に足を踏み入れるとそこはまるでお城の様に豪華絢爛な造りだった。
足元の絨毯もフカフカで、こんな汚い靴で歩くのが申し訳なくなってくる。
執事の後に付いて歩いていくと、ある扉の前で立ち止まった。
執事が扉をノックすると、「入れ」と返事が返ってきた。もしかしてこの声の持ち主が僕の父親だろうか。
心臓が痛いくらいにドキドキする中、扉が開かれ奥の執務机に向かっている人物が目に入ってきた。
「何だ、バトラー? 何の…」
その人が言い終わる前に僕の懐からアーサーが飛び出して、その人の元へと飛んでいった。
「アルフレッド! 会いたかったよ!」
「アーサー?! お前、今迄何をやってたんだ! 何故こんなに戻るのが遅くなった!」
僕とシヴァが部屋の中に入ると執事は扉を閉めて出ていってしまった。
「仕方がないだろう。ジェレミーがようやく数日前に魔法が覚醒したんだからな。私だってここまで遅くなるとは思ってもいなかったよ」
アーサーの反論にその人はようやく僕がいる事に気が付いたようだ。
突き刺すような冷たいブルーの瞳で僕を見据える。
「…あの子が、そうなのか?」
その視線にいたたまれなくなり、後ろに下がろうとするとシヴァが鼻で僕の体を前に押しやった。
「お前の息子、ジェレミーだよ」
アーサーに告げられ、その人は立ち上がると僕に向かって歩いてきた。
その人が近付くにつれ、非常に背の高い人物だとわかった。
目の前に来て上から見おろされて、ますます僕は萎縮してしまう。
アーサーがスーッと近付いて来ると、その人に向かってバシッと叩いた。
「目線を合わせてやれよ、アルフレッド。まったく気が利かないな。そんなんだからジュリアに逃げられるんだよ」
アーサーの暴挙にムッとした顔をしながらもその人は腰を下ろして僕に目線を合わせてくれた。
こうして間近で見ると、物凄いハンサムだとわかる。きっと今でもモテるんじゃないのかな。
「…ジェレミーか? ようやく帰って来たな」
真っ直ぐに僕を見つめる目が潤んでいるように見える。その目を見ていて僕はほんの少し理解した。
きっとこの人は感情を表すのが下手なんだろう。だから僕の母親はストレートに思いを寄せてくれたランスロットに惹かれたのだろうと。
「…お父さん?」
今迄言ったことのない言葉を絞り出すように口にすると「父上と呼びなさい」と訂正される。
あ~、ダメだ、こりゃ。
せめて抱きしめてから訂正するとか、他にやりようがあると思うんだけどね。
「アルフレッド! そんな事だから…」
アーサーがお説教をしようとした時、部屋の左側にあるドアがガタガタと音を立てだした。
何事だ? と思っていると父上がスッと手を上げた。
「入って来い」
するとドアが開いて一本のペーパーナイフが勢いよく飛び込んで来た。
「アーサー! 酷いわ! 何年私を待たせるのよ! 他に女なんて作ったりしていないでしょうね」
「グィネヴィア! 会いたかったよ!」
アーサーがそのペーパーナイフの側に寄って行って、バツの形を作るように二本がクロスした。
するとペーパーナイフからアーサーの人型ともう一人女性の人型が浮かび上がる。
向こう側が透けて見える幽霊のような状態だ。
二人は抱き合い、見つめ合うと唇を…
「おっと! 子供が見るもんじゃないな」
シヴァが僕の目の前に顔を出した。
そりゃまぁ、他人のキスシーンなんてそんなに見せられたくはないけどね。
ようやくシヴァが僕の目の前から顔を退けるとアーサー達はまだ抱き合っていた。
まぁ、10年も離れていたんだから仕方がないけどね。
「アーサー。グィネヴィアとの語らいは後にして、ジュリアに付いてこの家を離れてからの事を話してくれないか?」
父上はアーサーに告げるとシヴァに向き直った。
「あなたはもしやひいお祖父様の従魔だった方ですか?」
父上のひいお祖父様って事は僕のひいひいお祖父様?
「何だ、エリオットを知っているのか?」
「直接は存じ上げませんが、お祖父様から少し聞いた事があります。銀色の毛並みの綺麗な従魔がいたと。今度はジェレミーの従魔になられたのですね。どうか息子をよろしくお願いします」
それから父上はベルを鳴らしてメイドを呼ぶとお茶の準備をさせて、僕達はソファーへと移動した。
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