小説 セレスホテルの闇

かんから

SNS上で起きた騒動

 僕と彼は、この騒動を初めから観察し続けていた。ネット上ではこれを”羽生の宿騒動” とか言うらしいが、とあるフィギュアスケートの引退選手が八戸で12月にアイスショーを開くということであったが、その際に八戸の某ホテル……ここではセレスホテルと名前を付けようか?そのセレスホテルが客室の値段を9万円と付け大騒ぎになったのである。




 彼にとってこの出来事は、復讐を果たしたという快感を伴う出来事。それで僕に歓喜のメールを送ってきた。僕は彼に『一旦落ち着け』と取りなしたものの、やはり僕にとっても社会正義なるものの達成を見たような気もするし、冷静だったはずの思考の中には若干の快感はあったかもしれない。それは否定しないのだが、一方でその刃が向けた先にあるものは……己の破滅なのかもしれない。












 普段であれば、こんなに高値を付けても騒ぎにはならないと思うし注目すらされない。それを言えば青森ねぶた祭のホテル料金の方が遥かに高く売られている。じゃあなんで世間を巻き込むほどの騒動に発展したのか。ご存知の方もおられるであろうが、これは安値で売られていた当時の予約をキャンセルして、改めて高値で売りなおしたからだというもの。でもこの説はセレスホテル公式で否定された。結果としてキャンセルが発生したのは他のホテルだったのだという。




 しかしながら高い値段を付けていたこと自体は事実だった。いくらダイナミックプライシングとはいっても、あの値段を付けてしまうと……多くの方々が驚いてしまうのは当然。その中核をなすのが熱心なフィギュアファンとなれば相当な勢いになるのは尚なおのこと。でも誰もがこの時点では、こんな騒動になるとは想像していなかった訳だ。これもまた “某” と名前をぼかすが、一番の要因は……とあるSNSの某巨大インフルエンサーがキャンセルの件と値段設定の件を混ぜてツイートしたことによって、セレスホテルのサーバーダウンまで引き起こすに至ったからだった。












 もしかするとホテル側はこの件で訴訟に踏み切るかもしれない。でもここで疑問に思ってほしいことが一つ。なぜセレスホテルは、某巨大インフルエンサーがツイートする瞬間まで9万円以上もの価格帯を維持し続けていたのか?もちろんその値段で売ってしまいたいからに他ならないのだが、この一連の騒動を最初から眺めていても知る由のない根本的な原因は他にあった。




 ほう、本社の指示だから?あったかもしれないが、一気に予約の入っていく様子を見て料金をすぐさま変えるような対応は……それぞれのホテルにしか出来ないはず。それとも最近よく聞くAIってやつなのか??これに関して確かめる術を持たないが、もちろんあくまで人によって作られたものなのだから人為的に設定を変えることは可能だろう。








 根本的な原因。なぜ多くのヘイトを集めてまで、その価格帯を維持し続けたのか?もちろんSNSの状況をホテル側も知っていたのにも関わらず。




 その答えを知るためには、過去に戻り2019年。しかも八戸ではなく青森にまで遡らなければならない。そしてそれは僕と彼がこれまで努めてきたことだ。

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