第269話 昇竜杯(9)
◆ 前書き ◆
こんにちは、西浦真魚です。
沢山のコミック購入報告ありがとうございます!
とても嬉しく拝見しています!
昇竜杯のポイントですが、そこまでに獲得された合計点がアナウンスされています。
ポイントは、一人につき1ポイントで、傾斜は有りません。
分かりにくいと自分でも思いましたので、「合計」○ポイントと表記する修正を入れました、
┏︎○︎ペコッ
◆◆
「あらら。ユグリア王国は袋叩きね。別に裏で結託している訳ではないと思うわよ? 悪く思わないでね」
カタリーナが遠慮がちにそう言うと、厳しい目でモニターを睨みつけていたムジカは小さく首を振った。
「……分かっています。各国選手の会話、立ち位置、行動等に不自然な点はありません。弱り目を叩かれるのは当然ですし、ルールの範囲で行動するのであれば、仮に誰と誰が組んでいても文句を言うつもりはありません」
元来、団体戦のバトルロイヤル方式で争われる昇竜杯の二日目は、裏で結託とまでは言わないまでも、利害関係によって忖度が生まれやすい。
完全個人戦でスコアを争う初日と、日本でいうところの競輪的な軟結合が起きる二日目の結果をどう評価するかは、見る者次第だ。
国同士のしがらみを抜きにしても、名前が売れている者を喰らって名を上げようとは皆が考えるし、逆にそれを返り討ちにしてさらに名声を高める者もいる。
八か国各三人が出場している昇竜杯の団体戦は、優勝候補筆頭のロザムール帝国が急戦を志向した事もあり、早くも中盤戦から終盤戦に差し掛かっている。
各国の残りの人数と獲得したポイントの内訳は下記の通りだ。
ユグリア王国:合計5ポイント(残り3人)
ロザムール帝国:合計7ポイント(残り2人)
ステライト正教国:合計0ポイント(残り0人)
クコーラ都市連邦:合計0ポイント(残り0人)
ジュステリア:合計1ポイント(残り2人)
クヴァール共和国:合計0ポイント(残り1人)
ファットーラ王国:合計0ポイント(残り1人)
ベアレンツ群島国:合計0ポイント(残り2人)
ここまでのスコアから考えると、ポイント勝負になるとユグリア王国とロザムール帝国以外の国はすでに分が悪い。
その他の国が優勝を目指すためには、ユグリア王国とロザムール帝国が争っている内に、漁夫の利を狙って、すべての国を全滅させるしか方法がないだろう。
プリマが乱戦に戻ったことで、各国のアレンへの追撃はやや慎重になり、戦場はゆっくりと森の中を移動している。
アレンとプリマは砂煙に隠れながら辛くも追撃を逃れ、ドルとの合流地点を目指している。
指を鳴らしながら『ノーム!』などと叫び、都合よく砂煙を出したり消したりしているアレンを見て、カタリーナは失笑した。
「ふふっ。四大精霊が一柱、レ・ノームだなんて言うから何が起こるのかと思って期待したけど……どう見ても風を起こして砂埃を巻き上げているだけね。まぁそれだけの風を起こせるだけでも凄いけど……。ところであの臭い演技には、何の意味があるのかしら?」
これはカタリーナ以外の観客も皆似たような感想を持っているだろう。全員が生暖かい目でアレンを見ている。
ムジカはそのカタリーナの顔を見て、逆に苦笑した。
「……アレン・ロヴェーヌ君の考えている事は、誰にも分かりません。ですがこれだけは言えます。そのように彼を笑っていた人間は、後々一人残らず彼を笑えなくなりました。一人残らず、です」
「……へぇ? それは楽しみね」
カタリーナはムジカの忠告を鼻で笑った。
◆
試合は再び動き出す。
『ベアレンツ群島国:デショア退場。ユグリア王国合計6ポイント』
アナウンスが流れた瞬間、アレン達を中心にフィールドの一角に集結している選手達に衝撃が走る。
人の気配はおろか、魔法が発動される予兆も全く感じられないまま、いきなり地が爆ぜ、選手が退場になったからだ。
一部の国の選手は先刻に同じ光景を目にしているが、それでも信じられない想いでいる。
「……アリーチェ様……。今のは……」
「……信じたくは有りませんが……魔法が罠のように設置されていたように見えました。おそらくは先程合流した、ルドルフ・オースティンの仕業でしょう。彼が合流してから、やや方向を誘導しているような気配がありました」
「……やっかいですね。一旦引いて、立て直しますか?」
エクレアにそう問われ、アリーチェは首を振った。
「ここで引くのは愚の骨頂です。何度も言いますが、斥候としての能力がずば抜けて高いアレンさんを見失うと、始末におえなくなります。確かに罠魔法はやっかいですが……ここで引いたら負けです」
エクレアが頷くのを確認して、アリーチェは続けた。
「……見たところそれほど威力は高くはなさそうでした。魔力ガードを常時纏っていれば、残り時間くらいは凌げるでしょう。この先の沼地まで追い込めば、もう逃げる場所も隠れる場所も有りません。そこで決着をつけます」
◆
「……流石はアリーチェ姫ですね。こうして正攻法で追い詰められると、こちらとしても新たな工夫を入れる余地がありません。一番やられて嫌な展開です……。難しくなってきました」
プリマ先輩の意見に、先ほど合流したドルが相槌を打つ。
「ああ。俺の地爆を見ても怯まないし、流石にこれ以上は下がれない。かと言って、何もしなければ状況は悪くなるばかりだ。何か意表を付けるような、一発逆転の手はないか、アレン……?」
ドルが大して期待していなさそうな顔でこんな事を聞いてきたので、俺は頷いた。
「あるよ?」
「「あるのっ?」」
俺が着けているお面を透過するほどのドヤ顔でサムズアップすると、二人は口をぱくぱくとした。
「ただ、一発逆転とまではいかない。せいぜい皆が一瞬混乱して、隙を生み出すくらいだろう。その隙に反攻して、ポイントを取りながら
「……具体的にはどうするんだ?」
「詳しく説明する時間はない。見てのお楽しみだ、くっくっく」
俺がそう悪い顔でほくそ笑むと、ドルとプリマ先輩は二人仲良くがっくりと肩を落とした。
「…………隙をついて包囲の突破を狙うなら……狙いはあそこかな。ポイント差を考えると」
気を取り直したドルは、アリーチェさん達の後方で付かず離れずの距離を保っているジュステリアの選手二名を指差した。
当然アリーチェさん達もその存在には気がついているだろうが、俺たちを包囲して追い詰めるという利害が一致しているため、放置しているのだろう。
徐々に戦場に緊張感が漲ってくる。
決戦の時が近い事は、選手全員が感じているだろう。
自然と、各国の選手同士の距離が徐々に近くなってくる。
俺たちは素早く手順を話し合って、先に仕掛けた。
「もういいぞ、ノーム」
沼地に出たところで、指をパチリと鳴らし砂嵐を収める。
「決着を付けましょう、アリーチェさん!」
視界がクリアになった所で、そのように宣言する。
「望むところです」
アリーチェさんは不敵な、だが爽やかな笑顔で呼応した。
まずは魔力に余裕のあるプリマ先輩が、魔力を練るのに時間がかかるほどの特大の魔法を両手で構築し始める。
「……天に使えし猛き雷獣よ。蒼き
「ら、雷獣?? この距離で、そんな大技がいきなり当たるとでも……?」
アリーチェさんが困惑の声を漏らす。
「…………後ろはお任せください、アリーチェ様」
俺たちが動いたのを確認して、帝国の二人の後方にいるジュステリアの選手が魔法を発動する準備を始め、それを確認したエクレアさんが迎撃の態勢を取る。
その他の選手達も、いつでも仕掛けられるよう動き出し、局面が一気に忙しくなる。
皆が万全の態勢を整えたタイミングで、俺はあえて朗々とした声で詠唱を開始した。
「四大精霊が一柱、レ・ウンディーネ。母なる海よ。風の契約に基づき、慈悲なる雨の力を借り受ける。――
クリアになったはずの視界が、沼から溢れ出る霧によって一気に真っ白になる――
「「なっっっ!!!!!」」
◆
『四大精霊が一柱、レ・ウンディーネ。母なる海よ。風の契約に基づき、慈悲なる雨の力を借り受ける。――
アレンが詠唱を終えその手を沼にかざすと、真っ白な霧が噴出して瞬く間に魔光掲示板のモニターを覆った。
「「な……なにーーーー!!!!」
その余りに衝撃的な光景に、妙に目の肥えた事情通二人はしたり顔を引っ込めて、思わず席から立ち上がった。
『フォギーフォレスト』は、風で砂を舞上げていた『サンドストーム』とは見るものに与える衝撃度が全く異なる。
どう見ても……どう見ても水の性質変化を使っているようにしか見えない。
だがアレンがなんの性質変化の才能も待ち合わせていない事は、選手データを計測した大会事務局によって保証されている。
つまり、
ムジカはチラリとカタリーナを横目で見た。
先程までイタい子供を見るような目でアレンを見て笑っていたカタリーナが、険しい目でモニターを睨みつけてるのを見て、ムジカはくすりと笑った。
◆ 後書き ◆
いつもありがとうございます!
くすりと笑う田辺先生のムジカをぜひ漫画で見たい!
ここまでたどり着くのはめちゃくちゃ先ですが……笑
コミカライズの応援をなにとぞ! 宜しくお願いします!
昨日宣伝を忘れましたが、カドコミでコミック発売記念の短編漫画が公開されています!
書籍一巻のおまけSSを漫画化していただいたものです(^ ^)
こちらは無料公開されていますので、よろしければご覧になって下さい(´v`)
この後書きの下にあるコミカライズの宣伝の絵をタップしたらカドコミに飛べます!
宜しくお願いいたします┏︎○︎ペコッ
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