第250話 帝都到着
◆ 前書き ◆
長らく更新遅れてすみません!
仕事の都合で海外の田舎町に出張しているのですが、時差ボケと腹痛で、戦闘力2の筆者は体調が崩壊しております(›´A`‹ )
水が茶色い……。
もう少し滞在する予定ですので、もしかしたら次も一度更新を飛ばすかもしれません……!
気長にお待ちいただけますと幸いです┏︎○︎ペコッ
皆様、異世界を旅する際は胃腸薬をお忘れなく!
◆◆
「うーん……妙だね、アレン」
帝都のガイドブックを眺めながら、きゃっきゃきゃっきゃと一緒に観光計画を立てていたジャスティン先輩は、不意に深刻そうな顔で呟いた。
「いきなりどうしたんですか、先輩。何か気になる事でも?」
不思議に思ってそう質問すると、先輩は真面目な顔で頷いた。
「何って……せっかくアレンと一緒なのに、全然何も起こる気配がないよ? 買ってきてもらった水に毒物が混入された気配もないし、客室が襲撃されるでもない」
……この人……やけにそわそわしてるとは思っていたが、事件が起きるのを待ってたのか……。
俺の事を何だと思ってるんだ、全く。
そりゃアクシデント上等の気ままな旅は好きだし、あえて行き当たりばったりで行動している部分もあるが、こう立て続けに命の危機に陥ると流石にうんざりだ。
当たり前だが、俺は別に命の危機など求めていない。
求めてるのは、もっとマイルドなアクシデントだ。
急な雨に降られて駆け込んだ
聞いてるのか神!
「このままじゃ何も起きずに帝都に着いちゃうよ? そうだ! ドアに貼り紙でもしておこうか、『ユグリア王国の彗星、アレン・ロヴェーヌ見参。重要極秘任務中につき、サインは一人二枚まで――』」
ジャスティン先輩が悪い顔でバカな貼り紙を製作し始めたので、俺はその貼り紙を破り捨てた。
「冗談言ってないで、到着前に睡眠をとりましょう。しっかり(観光の)計画も練った事だし、体調を整えて、万全の態勢で帝都に入りましょう」
「いやいや、アレンに万全の準備なんて似合わないよ! ほら、もっと車内を意味もなくウロウロして! この車両は貴族専用で、一般車両とは内部で連結されてないみたいだよ。向こうの車両へ強引に遊びに行かなくてもいいの?」
またこの人は……俺の好奇心を的確に刺激して煽ってくるな……。
列車の中でうろつくくらいで流石に事件など起きようもないとは思うが、最近の俺の運の無さからすると絶対無いとも言い切れない。
「……流石に暫くの間、揉め事はごめんですよ」
ジャスティン先輩に煽られて、俺は到着まで部屋から出ないと固く誓って眠りについた。
◆
列車は予定通り丸一日走行し、明朝に帝都オリンパスへと到着した。
「本当に何事もなく着いちゃった……。しかも睡眠までばっちり……こんなはずじゃ……」
ぶつぶつと独り言を口にしているジャスティン先輩を無視して、さっさと列車を降りる。
帝都の中心にある駅は、その辺に置かれているベンチ一つ取っても職人が手作りしていると思われる豪奢な造りだった。
だがその豪奢さには似つかわしくないほど人の姿はまばらで、どこかもの寂しい雰囲気を醸し出している。
そうした意味では、常に人でごった返している王都のルーンレリア中央駅とは百八十度雰囲気が異なる。
もっとも、この静謐で澄んだ空気をもの寂しいと感じるのは、俺が根っからの庶民派だからだろう。
ガイドブックによると、この駅は帝国貴族とそれに準ずる国外の要人が利用する駅との事なので、ほとんどの乗客は一つ手前の帝都外縁にある駅で下車したものと思われる。
うーん……綺麗は綺麗なんだけど。
「……どうかした? 何だか浮かない顔をしてるけど」
そんな違和感に首を捻っていると、ジャスティン先輩が心配そうに聞いてきた。
「いえ……何でもありません」
何とも説明しづらい引っ掛かりを心に感じながら駅舎の外へと出る。
するとそこには、ムジカ先生が待っていた。
体外魔法研究部の顧問であり、学園副理事長でもあるムジカ先生は、今回昇竜杯に出場する生徒達の引率責任者だ。
その後ろにはドル、二年代表のマーティン先輩、そして三年代表のプリマ先輩を伴っている。
「遅刻ですよ、監督。お仕事なら仕方ないですが、連絡くらい入れてください! あと事あるごとに行方不明になったって噂を飛ばすのも止めて下さい! 心配するじゃないですか!」
真っ先に駆け寄ってきて、腰に手を当ててぷりぷりと怒りながら、そう声をかけてきたのはプリマ先輩だ。
この人は先日の『始まりの儀』で、卒業生主席を意味する
本来であれば、始まりの儀のすぐ後に昇竜杯は開催されるのだが、今年はヘルロウキャストの魔物災害の関係で予定が後ろにずれ込んでいる。
「お久しぶりです、プリマ先輩。いやぁ、風の吹くまま気の向くままに、ひらひらと飛ばされているうちにですね………………ごめんなさい、気をつけます」
口元を膨らませて睨んでくるプリマ先輩に、俺はすぐさま降参した。
背の低い人なので睨んでいても自然と上目遣いになり全く迫力はないのだが、のらりくらりと誤魔化していても逃してくれないので、さっさと謝るに限る。
次に二年のマーティン先輩が近づいてきた。
魔法士はマラソン選手のような痩せ型が多いのだが、この人はその中でも輪をかけて痩せている。
魔法研には創部直後に加入したのだが、特化型を目指すと言って坂道部には加入していない。
初めは気難しい雰囲気の人だと思ったが、打ち解けるとよく喋ってくれるようになった。
確かな
「やぁアレン、来てくれて嬉しいよ。昨夜出場者達が会する晩餐会があったんだけど、監督のアレンは来ないのかって皆に聞かれて大変だった。ちょうど会の途中にミンスから向かってるって帝国経由で連絡が入ったから、皆すごく喜んでたよ。きっと帝都にいる間中、面会希望者が絶えないんじゃないかな。忙しくなりそうだね」
「あ、マーティン先輩、お疲れ様です。……面会ですか」
他国の優秀な若手魔法士との意見交換は望むところだが、せっかく練り上げた観光計画に支障が出そうだな。
一人受けたらその他も受けざるを得ないし。
などと考えていると、マーティン先輩は可笑しそうにこう付け足した。
「ふふっ、狙い通りなのかな? 皆、精霊について詳しく知りたいみたいだよ? 例の輸送任務を契機に、その存在が強く疑われているらしい。四大精霊の眷属である中精霊の種類だとか、アレンがノリで喋ってるとしか思えない内容に、尾鰭がついた形で広まってた。中には『最新の研究成果』だなんて、したり顔でいい加減な噂話をかき集めたノートを見せてくる子もいてね……。いったいあの情報を集めるのにいくらお金を使ったのやら……。詳しくはアレンにしか分からないってはぐらかしておいたからから、後は宜しく」
わ、笑えない……。
もちろんその場のノリで適当に喋っているだけであり、その辺の設定はまだ俺の中でもふわふわなのだ。
説明などしようもない。むしろ教えを乞いたいくらいだ。
……これは面会謝絶確定だな。
などと考えていると、我らが鬼の副長ドルが爽やかな笑顔を浮かべ、片手を上げながら話しかけてきた。
「よーアレン、久しぶりだな。聞いてるぞ、またやらかしたみたいだな。ま、元気そうで何よりだ」
上げられたその手をパチンと叩き、そのまま握り潰さんばかりに固い握手を交わす。
「ふん、聞いてると言われても、心当たりが有りすぎてどれの事かさっぱり分からんな。それと……爆発しろドル!」
「「…………」」
◆
「こ、こほん。長旅お疲れ様です、アレン・ロヴェーヌ君。今日はホスト国である帝国の案内で、出場者はオリンパス市内を巡る予定なのですが……監督の貴方も誘いを受けています。同行されますか?」
ムジカ先生にそう尋ねられ、俺は即座に首を横に振った。
「いえ、私は騎士団員として入国していますので、ジャスティン先輩と共に行動します。昇竜杯の応援には行きますので」
衆目監視の中、どうせ精霊の情報収集を偉い大人に頼まれているに決まっている選手たちと逃げ場のない観光など、何の罰ゲームだという話だ。
そもそも今回の主役は出場者の皆なのだから、俺が目立ちすぎるのは良くないだろう。
全くもって目立ちたいわけでもないしな。
「分かりました。……あなたは各国から相当注目されています。くれぐれも自重をお願いします。彼の事を頼みましたよ」
ムジカ先生は非常〜に心配そうな表情を浮かべ、ジャスティン先輩に念を押した。
「任せてください副理事長。ここは帝国で、僕らは王国騎士団員だ。流石のアレンも今回は大人しくするつもりみたいですよ?」
ジャスティン先輩が、まるで普通の優等生のような真面目な顔で頷くと、先生は硬い表情を少しだけ緩めた。
いつかはアウトロー路線へと考えている俺ではあるが、悪さを始める前から問題児認定だけが爆進しているのは納得がいかない……。
「ところで、我々は迎賓館にいる陛下に報告へ行く必要があるのですが、もしかしてあちらの方々がご案内してくれる予定なのですか?」
先輩がムジカ先生の斜め後方に停められたオープンタイプの馬車を指さすと、先生は振り返りながら頷いた。
「ええ。帝国第四皇女であるアリーチェ殿下です。くれぐれも! 自重を願い致します」
そう言ってムジカ先生が目をやった先には、さらりとした銀髪で大層美しく気品に満ちたお姫様と、少し癖のあるオレンジの髪で、八重歯がチャーミングなお姉さんが立っていた。
◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
私が瀕死になっている間に、田辺先生のコミカライズ第4話が公開されております!
すっかり告知が遅くなってしまいましたが、未読の方はぜひチェックをお願いいたします┏︎○︎ペコッ
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