第60話 体外魔法研究部(1)
ゴドルフェンの課題をクリアしてから、ひと月ほど経過したとある放課後。
「よぉアレン!
珍しいな、こっちに顔を出すなんて」
部長のアルがいい笑顔で近づいてきた。
俺は、思いつきで立ち上げた体外魔法研究部にほぼ顔を出していなかった。
天に選ばれし彼らが使う、体外魔法というものが眩しすぎて、とても見ていられなかったからだ。
しかし久しぶりに顔を出したら、選ばれし才能を持つ方々は、結構な人数に増えているな…
◆
創部初日。
アレンが『りんごの家』に加入し、探索者活動を開始したばかりの頃。
アル、ライオ、ジュエ、ドル、そして俺の5人で体外魔法研究部はスタートを切った。
場所は王立学園の魔法訓練施設だ。
サッカースタジアムのように広々とした施設で、天井は無いが、周りは強固そうな壁に覆われている。
1年Aクラスで魔法士コースで魔法士を専攻しているのは、アル、ジュエ、そしてドルの3人だけだ。
この世界で性質変化、すなわち魔力を介して炎や水を生み出す才能のあるものは、おおよそ10人に1人。
その貴重な才能を拾い上げるため、相対評価の実技については、魔法士だけ別に試験して、基本的な武芸に加えて対外魔法にも得点がつけられる。
要は総合点にゲタを履かせ、特別な才能を持つ魔法士は受かりやすくするわけだが、王立学園入試の魔力量および学力試験の
自然、どれほど実技を甘めにつけても、1学年100人中、魔法士の数は25人程度に落ち着いてしまう。
一方で、1学年の魔法士おおよそ25人中、Dクラスに半分ほどが編成され、残りはDに近いクラスほど割合が多くなる。
騎士コース志望のクラスメイトと、同じ実技授業について行く事が可能か否かが、実技の得点のゲタに考慮されるので、魔法士としての訓練もある彼らは、上のクラスほどその数は絞られる事になるからだ。
年によってはAクラスに魔法士はゼロ、なんてことは珍しくもなく、そういう意味で魔法士がライオを含めて4人もいる今年のAクラスが、粒揃いと評判になるのも頷ける所だろう。
ところで、初日の練習前に、言い出しっぺの俺が、性質変化の才能が全くない、と告白した時、皆は唖然とした。
「一体何を考えている?
才能に恵まれた身体強化に特化して鍛えているだけで、実は性質変化も可能、という事かと思いきや…
アレンが、普段の授業であれほど魔法理論に造詣が深い理由が、腑に落ちたと考えたのだがな…
アレンにとっては体外魔法研究などどう考えても時間の無駄だろう。
相変わらず意味がわからん奴だな」
俺にとっては、魔法がある世界で魔法の研究をするのはごく当たり前の事だが、普通に考えたら、無駄に見えるだろうな。
「ライオ。
人生には必要のない無駄と、必要な無駄があると俺は考えている。
例え自分に才能が無かろうと、体外魔法という無限の可能性を、クラスメイトと研究する場を学園に設ける事は、俺にとっては必要なことだ。
塾だの家庭教師だの、結果がコミットされた修練だけに目を向けていると、望んだ成果は得られても、意外な発見はない。
合理的な手段では辿り着けない場所は、いくらでもある」
俺はこんな風に、前世でノーベル賞を受賞した学者が言っていた事をアレンジし、分かったような分からないような事をいって、強引に話を纏めた。
「…まぁいい。
研鑽の場が増えるというのは望むところだし、アレン以外には、別にデメリットは何もないからな。
だが、今は入学直後で家の方も少しばたついていてな。
朝の坂道部副部長の件もあるし、毎日の参加は無理だ。
時間が取れるようになるまでは、出られる範囲での参加、という事で、了承してもらう」
ライオがそう言うと、おずおずとジュエも手を上げた。
「私も、入学直後で少しだけ忙しくて…
当面は、ライオさんと同じように任意参加としていただけると助かります」
こいつら上級貴族には、俺ら庶民に半分片足を突っ込んだ、貧乏貴族には分からない苦労というものもあるのだろう。
「ああ。
それで構わない。
元々鍛錬が目的ではなく、研究が目的の部活動だからな。
特定の共通研究テーマでもない限り、毎日顔を突き合わせる意味は薄い。
開催日は部長に一任だ。
で、アルにドル。
どっちが部長をするんだ?」
俺がアルとドルに目を向けると、2人は驚いた。
「ちょっと待ってくれ。
アレンが部長をするんじゃないのか?
なんで俺たち2人なんだ?」
「はっはっは。
才能ゼロの俺が、部を率いられる訳がないだろう。
創部した関係で、やむを得ず名ばかり監督は引き受けたが…
方針は部長に任せる。
ライオとジュエが忙しい以上、必然的に2人のうちどちらか、ということになるだろう?
で、どっちが部長でどっちが副部長をやるんだ?」
俺は2人が部長と副部長をやる事は確定事項として2人に詰め寄った。
こういう事は、押したもの勝ちだ。
ちなみに、顧問はムジカ先生にお願いした。
あの妙齢の先生は、どうやら副理事長というとても偉い人みたいだが、創部の相談に行った時、ダメもとで顧問をお願いしたら快く引き受けてくれた。
どうやらムジカ先生は魔法士らしく、活動に興味がある様だ。
「……俺は副部長をやるよ。
3人兄弟の真ん中で、子供の頃から要領よく周りの人間の顔色を窺って、バランスを取るのが体に染み付いているからな。
部長は生来の人望がありそうなアルが適任だ」
アルがまごついているうちに、素早く形勢を読み、即断したドルは、副部長に立候補する事で部長をアルに押し付けた。
卒なく器用に何でもこなす、実にドルらしい一手だ。
「な!
ずるいぞドル!
そんな事を言ったら俺だって上に3人の姉がー」
アルは何事かを言おうとしたが、ここでアルの言い分を聞いていたら、泥試合に発展して貴重な時間が無駄になると思った俺は、アルの言葉を強引に遮った。
俺は、早くみんなの魔法が見たくてウズウズしているんだ。
「なるほど!
ドルの組織論は実に興味深いな。
俺はどちらが部長をしても、それぞれに組織として最適な解はあるとは思うが…
確かに人望のある、真っ直ぐな気質が災いして、どこかとぼけたトップが組織を率いる、という形も組織を魅力的にするだろう」
「いや、俺は別にとぼけてなんかー」
「だがドル。
トップが気質的に緩い場合、No.2であるドルは必然的に引き締め役をやる必要があるぞ。
魅力的で緩いだけの組織は必ず瓦解する。
と、歴史が言っている。
ドルはこの体外魔法研究部の活動を通じて、強い組織を作り上げる術を身につけてはどうだ?
キモは、人を厳しく鍛えるのではなく、組織を厳しく鍛え上げる事だ…
鉄の掟を設けろ!
そう、お前は今日から『鬼の副長、ルドルフ・オースティン』だ!」
俺は前世、幕末に保安組織として京都で名を馳せた、とある団体を思い出しながら悪ノリした。
別に詳しくも何ともないが、確かこんな雰囲気だ。
「い、いや、何で副部長じゃなくて副長なんだ?
話聞いてたか?
俺は皆の顔色を窺いながら全体のバランスをー」
「俺の趣味だ!
できる!自分の殻を破れ!
最初で最後の監督命令だ!
ところで、皆はどんな魔法が使えるんだ?」
尚も何か言おうとしているアルとドルとの問答を打ち切って、俺は強引に話題を変えた。
ライオが火の属性魔法を使える事は、模擬戦から把握しているが、他の奴らがどんな才能を持っているのか、俺は全く知らない。
「俺の場合は火属性の魔法だな」
「えっ?
ライオって1番メジャーな火属性だけなの?
何の才能もない凡愚の俺がいうのも何だが、意外と普通なんだな」
火属性の魔法は、その辺を歩いている人15人に声をかけたら、1人は親和性のある人に当たる最もメジャーな属性だ。
このチート野郎の事だ。
7色の性質変化を使いこなす
この俺のセリフを聞いて、困ったやつを見る目でアルがいってきた。
「…性質変化の数や種類も重要じゃないとは言わないが…
絶対的な魔力量と、それを十全にコントロールするセンス、知能。
それこそがライオの
どこかの魔力操作オバケは、入試であっさり超えて行ったからな」
誰がオバケだ、失礼な。
「まぁ、見せたほうが早いんじゃないか?
アレン。
俺も火属性は持っているからちょっと見てろ。
ライオいいか?」
ドルのセリフを聞いて、ライオはニヤリと笑った。
「ふっ。
了解だ、副長」
そのセリフを聞いて、ジュエは吹き出し、ドルは頭を抱え、俺は満足した。
ライオとドルは、並んで掌を前に突き出した。
みるみるうちに、掌に現れた火球が膨れ上がっていく。
その膨れ上がる速度には大差ないが、大きさには差があった。
ドルの火球は直径30cmほどで拡大が止まったが、ライオの方がどんどんデカくなる。
ライオの火球が直径1メートル近くまで膨れ上がった所で、同時に前方に射出された。
ドンドーン!
火球は、的が描かれている強固そうな壁に激突した。
「ひゃー!かっこいー!」
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