第14話 合格発表とその裏側(2)
周りで興味深げに聞いていた者たちも、次々にベットし、アレンの配属クラスをネタに、瞬く間に賭けが成立した。
仕事が出来る魔法技師エミーが、誰が何に賭けたかを即座に記録した。
賭けの1番人気はAクラスだが、
1クラス20人で、100名合格なので、クラスはEまである。
だが、アレンの魔力量と実技試験の結果から、学科が足切りギリギリの500位であったとしても、すでにC以上は確定している。
それぞれの
「…まぁその後の事は、ここにいる奴らなら、映像見れば大体わかんだろ。
いきなり大味に切り掛かってきたが、これは最初から俺の出方を見るための誘い。
俺が、そんだけ動けるならこんくれーなら怪我しねぇだろう、と繰り出した横薙ぎは得物離してスカされた。
体が流れたところに反対側から顔面へカウンター気味の回し蹴りだ。
初撃とこの3手目の回し蹴りを見ても、奴はゴドルフェン翁特製のクソ動きづれぇ土で、全力に近いレベルで身体強化魔法を使っているのは、朝のランニングと合わせて考えてもまず間違いねぇ。
普通に受付まで歩いてる間に、調整終わってたんだろ」
「2つ質問をいいですか?」
ゴリマッチョの優しいけつあご、ダンテが手を上げた。
「確かに鋭い回し蹴りだと思うのですが、王国騎士団第三軍団の軍団長、『
「ん?あぁ、この映像の位置からじゃ分かりにくいか?
まぁ舐めてたのもあるがな……
あのガキはわざと正眼よりも右側に木刀を置いて、弾き飛ばされる木刀の方向を調整してやがった。
飛んで行く得物が、ぼけっと突っ立ている受験生に当たらないか、俺が一瞬確認するように、視線を誘導するのが狙いだろうな。
そこへ死角から蹴りがきたから、反応が遅れた」
「ふ〜む。なるほど。それで二つ目の疑問も解けました。
いくら格上から隙を生むためとはいえ、いきなり武器を手放すのはどうなんだろうと思っていましたが…
それに見合うだけのリターンを計算していた訳ですね。
しかも即座に近くの受験生から武器を調達している」
「それがあのガキの性格の悪いところだ。
今思えば不自然なほど、周りの受験生に意識を向けている様子を見せなかった。
だが状況によっては、戦術に組み込むつもりで手札に数えてやがったのさ。
根性腐ってると思わねーか?」
「…根性は分かりませんが、確かにゴドルフェン翁が言うように、バカではないようですね…」
「…では皆さん、そろそろ採点に…」
そうムジカが切り出したところへ、
「…ところで、ゴドルフェン翁はこの後のデューさんの試験映像を見ましたか?」
ジャスティンがニヤニヤと付け加えた。
「ん?まだ見とらんが…何ぞ面白い奴が他にも出てきたのかの?」
何名かは見たのだろう、気まずそうに視線を逸らした。
「デューさんの所、この後1人も受験生が来なかったんですよ!1人も!
私のところからはよく見えなかったけど、学生に一本取られて、よっぽど恐い顔で突っ立ってたんでしょ!
あっはっはっは」
空気を読めないパッチが盛大に笑うと、デューが額に青筋を立てた。
「12歳のガキに、本気で怒るわけがねーだろ!」
すかさずジャスティンが補足する。
「そうですね、確かに彼が帰った後は、どちらかと言うと機嫌が良く見えましたよ。
例の獰猛な笑みで、次の骨のある受験生を待ち望んでいるような、そんな顔で立っていました。
でも誰も来ないものだから、どんどん寂しげな顔に変わっていって…」
ジャスティンが煽ると、できる魔法技師のエミーが、即座に映像を切り替えた。
そこには受付のすぐ近くで、寂しげに1人で突っ立っている、デューの後ろ姿が映し出されていた。
「あっはっはっ!エミーちゃん、このアングル最高!」
再びパッチが笑う。
何名かは釣られて吹き出した。
「映してんじゃねぇ!
全く、どいつもこいつも人の顔色窺って試験官選びやがって!
最初の方に、真っ直ぐ俺のところに来た奴らはまともだったが、他は碌なのいなかったぞ?
レベル落ちてんじゃねーのか?!」
「ふぉっふぉっふぉっ。まぁ皆笑ってやるな。
あんな
多少
…まぁ受験生にはもう少し気概をもって欲しいがの!」
ゴドルフェンが空気を締め、皆が笑顔を消した所で、
ムジカが解散を促した。
「さぁ、今度こそ皆さん採点に戻ってください!
例年より大幅に遅れています!時間がありません!」
だが、皆が仕事に戻ろうと動き出した時、魔法技師のエミーが小さな声で呟いた。
「あ…デューの所に受験生が来なかった理由。
さっき、たまたま見たかも…」
皆が足を止めた。
再びカチャカチャと魔道具を操作するエミー。
『受付の近くの無精髭の試験官は、二日酔いで機嫌が悪いから、近づかない方がいいよ!』
そこには、いい笑顔で、可愛らしい女の子にこっそりアドバイスを送るアレンがいた。
「その女の子は『足切り芝生』で知り合ったらしい、友達2人に、その事を教えてあげてた。
多分その後は、鼠算式に受験生に広まった」
エミーは補足した。
「あんのガキぃぃ!何適当な事広めてやがんだ!
警備担当の俺が試験前日に酒なんざ飲んでる余裕がある訳ねぇだろうが!
徹夜続きを押して、てめぇらガキどもの試験までやったのにぃぃぃ!」
デューは前言を翻して、12歳のガキに切れた。
出来る魔法技師のエミーが、再びデューの寂しげな、寂しげな後ろ姿を映し出す。
パッチは一瞬我慢した。
だが肝心のゴドルフェンが噴き出したので、全員が揃って爆笑したのであった。
「ぶわぁはっはっは」
「ひーくるしー」
「『一瀉千里』の、でゅーの、あの後ろ姿っ」
『ありがとうございます!私の名前は、アレン・ロヴェーヌです!』
エミーの指が冴える。
「……取ってつけた様に、爽やかぶってんじゃねぇぞぉぉぉ!」
デューは、先程の賭けのベットを、Aクラスから
◆
深夜ー
遅々として進まない実技の採点作業を、皆で取り返していたところ、学科担当の、とある男がフロアに入室してきた。
「学科試験の結果出ましたよ〜」
その瞬間、皆の目が一斉に男に向く。
尋常ではない気配だ。
「ふむ。アレン・ロヴェーヌの結果はどうじゃったかのう?」
現役時代は不撓不屈の戦士として畏れられていたこの老人も、現場を退いてからはすっかり落ち着き、今では『仏のゴドルフェン』と呼ばれているこの好好爺が、にこにこと笑いながら聞いた。
だが、その体からは、往時を彷彿とさせる裂帛の気合が立ち昇っていた。
この数時間で、ジャスティンとエミーが何度も煽った結果、
「ア、アレン・ロヴェーヌですか??
えっとその子は、、、あぁ、ー」
その報告に、誰もが愕然とした。
◆
午前10時半。
喜悲こもごもの受験生の間を縫って、俺は母上と合格者の一覧が張り出された掲示板の前に立った。
自信はある。
大丈夫だと自分に言い聞かせてはいるが、前世であれだけ努力しても、首都にあるあの『最高学府』へは手が届かなかった俺だ。
嫌な予感は拭えない。
俺は、Eクラス合格者の欄から、祈るような気持ちで自分の名前を探し始めた。
と、そこへ母上があっさりといった。
「アレン。ありましたよ?あそこです」
母上が指差す方を慌てて確認すると、次のように書かれていた。
ーーーーーーーーー
アレン・ロヴェーヌ
魔力量(C)
騎士コース実技試験(S)
学科試験(A)
配属クラス(A!)
騎士コース総合順位(4/50)
ーーーーーーーー
確か魔力量のCは、合格者の中で、40〜60位の間を意味する筈だ。これはわかる。
俺もそんなもんだろうと思っていた。
学科試験のAについては、学科試験が全体で2〜20位の間であった事を意味する。
これはやや出来過ぎな気もするが、自分の努力が身を結んだ結果であり、誇らしい気持ちだ。
だが実技試験(S)とは?
Sが付いている者は、各項目に1人しかいない。
つまり受験者の中でトップの評価を意味する。
…えぇ〜?
俺は、あの無精髭を生やしていた2日酔いの警備員のおじさんに試験してもらったのだ。
俺は何かの間違いだろうかと疑問に思ったが、さらに気になる項目があったので、そちらに気を取られた。
配属クラス(A!)
……そんなクラスあったっけ?
思わず隣の母上を見た。
母上は難しい顔で掲示板を睨んでいた。
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