怪獣のマーチ
秋乃晃
序
2009年11月3日午後3時。
不思議なことが起こった。
大地がぱっくりと割れて、亀裂からにょきっとティラノサウルスと思しき恐竜のような生き物の頭部が生えてくる。赤褐色のソレにくっついているのはエメラルドのようなつぶらな瞳。ぎょろりと煌めかせている。次に前足が出てきた。断崖絶壁にその爪を引っ掛ける。頭部の大きさと比較しても、その前足は肉体を支えるためには作られていないだろう。
少女は二階の自室の窓から見下ろした庭に爬虫類みたいな頭が生えているのを見て「なんじゃ、ありゃ」と呟いた。しかし心当たりはある。学習机の引き出しから、一冊のノートを取り出した。授業中にちょこちょこと先生の目を盗んで描いていたイラストに瓜二つだ。上手く描けているので気に入っていて、十年ぐらい前にその当時の首相がその小学校の卒業生だからってやってきた時に見せびらかした思い出もある。彼からは「よく描けていてすごいぞ!」と褒められた。とっても嬉しかったから、他の教科書やらノートやらは捨ててしまってもこのノートだけは捨てずに残してあるのだ。
「名前、ギャオーっていうのはどうかな!」
目が合う。這い出てきたギャオーは、その全身を青空の下に露わにした。鼻先で窓をぱりんと壊して、その口を大きく開くと、座っていた椅子ごと少女を丸呑みにする。
ぬめぬめとじめっとした喉を通り過ぎれば、少女は怪獣の体内にいた。わけもわからぬまま自らの人生のおしまいを覚悟して、まぶたを閉じていた少女だったが、椅子に座ったまま謎の空間で呼吸している。コックピットのようでもあった。パソコンのキーボードのようなものが目の前にある。
桃色の壁は膨らんだり縮んだりしている。触れたらぷにぷにとして、頬の内側の感触に似ていた。手のひらが湿る。
「なんだかわからないけど、すんごくワクワクしてきた!」
周りからは楽天的と蔑まれる少女だが、今はその性格が功を奏した。この不思議な状況下でも、パニックに陥らない。慌てふためくことなく、むしろ満面の笑みだった。指をポキポキと鳴らしてから「発進!」とエンターキーを叩く。その声に合わせて、ぐわんと縦に揺れた。
「行くよ、ギャオー!」
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