悪夢

アキちゃんズ!

黒いやつ

白い部屋だ。

壁、天井が共に白、ベッドや椅子も白。

ぶら下がった電球に照らされてベッドの中に眠る、これまた白の人が体を起こした。隈の酷い男だ。大きな欠伸をすると、それを合図とばかりにノックが為される。

「は、はい」

三度なった軽い衝突音に、男は驚きながらも間抜けな声で返事をした。ベッドの上にある仮設机、その上にある紙を端へとまとめて片付ける。

「失礼するよ――君」

入ってきた男は髪こそは黒いものの、服は白い男。白衣というやつで、ポケットにはペンやメモ帳が見えていた。男は机の上を見ると、ふっと笑い、話しかけてくる。

「また君は小説を書いていたのかね? 嫌というわけじゃないなら見せてくれないかな」

「小説は観てもいいですけど、その代わり……」

「追加の紙と鉛筆ね、わかってるよ。今外にある。話が終わったら持ってこよう。話というのは君のことだ。ここにきた理由に自覚はないのは前に聞いたのだけど、今改めてどうだろうか。今日までこれほど安静に過ごせているのだから何かしら思い出せたのかな?」

「いいえ、なにも」

「そうか」

男は少し残念そうに呟くと、一度部屋の外へと紙と鉛筆を持って再び中へ、それから有った紙と手に持っていた紙を入れ替えると頭を下げて外へ出ていった。

本当に何も知らない。知っていることがあるとすればここのご飯は味が薄いことと、記憶が突然欠けることだ。

記憶が欠けるというのは今こうやって小説を書いている最中に、何の拍子もなく本当の意味で突然に――。



































――テン、テン、テン……。

ぶら下がっている電球が点滅している音だ。その音は普段は聞き馴染みのある、特段意識することのない為何も思わない音なのだが、いかんせんこの部屋は静かなもので僅かなその音ですら騒音に聞こえてしまう。

あれ、そういえばいつからこの点滅が始まっていたのだろうか。寝ていたのだろうか、それともいつもの記憶が欠けるあの現象だろうか。

小説は順調に進んでいる。何枚も文字で埋め尽くされているのを見ると自分の集中力に驚いてしまう。この記憶が欠けるのを集中力と言うのは流石に違うとは思うが。

だけど、今書いているこの紙。この紙の裏はどうやら文字じゃないらしい。透けて見えるのが文字ではなく何やら絵だ。

自分はその絵が何か気になって紙を摘ん。

「見るな見るな見るな見るな見るな」

手が震えた、トリハダが立った。

寒気もしたし、頭痛も起こり始めた。

紙を置いた。

見ろよ。

……。

紙を持った。

裏面にして、震えを誤魔化す様に勢いよく机に叩きつけた。

裏面には、

黒い何かだ。何かはわからない、だけど見てはいけない横に立っている。見るな見るな見るな。目の端にずっと映っている。バケモノだ。何か言っている気がする。聞きたくない聞きたくない。見るな見るな見るな。

目の端から動いた、何か言っている、見るな見るな見るな。歯軋りが勝手に、震えが、息が荒い、見るな見るな見るな。

唾を飲んだ。耳を塞いだ。目は瞑れない。なぜ? なぜなぜなぜなぜなぜ? 見るな見るな見るな。わかってる見たくない見たくない見たくない。

黒いのが消えた。どこに、どうやって、いつの間に、あれ、紙に何書いてたっけ。

時計だ。黒の汚い円の中に数字が――。





耳鳴りだ。うるさい、黙れ。

耳を塞いでるから余計にうるさい、黒いのがいなくなったんだからもう離す、うるさいのは嫌だ。

視界がゲームのバグの様にズレて歪んで機械音。うるさい。

耳を指で押さえて聞こえなくした。なのに無理矢理外されてそれで。



「おまえ、夢で見てるな」



黒い黒い黒いやつ、目の前に――。

耳鳴り。

たべら

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