第17話 元ヤンにアプローチする(2)





顔をひきつらせながら通過するカップルたちの声が、わからないくらい魅入っていた。


でもすぐに、我に返る。


瑞希お兄ちゃんが、視界から消えたことで元に戻った。





「はっ!?いけない!こうしてる場合じゃない!」





ガラスから離れると、呼吸を整えて考える。




「お店に入ったら、なんて言って声かけよう・・・・!?」




来ちゃいました!はありふれてる。



会いに来ました!もありふれてる。



違和感ない言葉を探す。




(やっぱり、コーヒー専門店だからな~)





「・・・・瑞希お兄ちゃんのコーヒーを飲みに来――――――」


「だから、飲まないって言ってるじゃない!?」



(はい?)





セリフを考えていたら、邪魔された。




「あんた達の要求は飲まない!もう、いい加減にして!」


(な、なに!?)




声のした方を見れば、若い男女が固まっていた。




(全部で5人いるけど、女の子は1人・・・)




その輪の中心にいるのが、たった1人の女子。


嫌な予感がした。


そしてその直感は的中した。




「離してって!」


「いいから、来いよ!」


「セイヤ君に、恥かかせやがって!」




そう言いながら、女の子を寄ってたかって引っ張っている。




(あ・・・ヤバい?)




喧嘩にしては、一方的すぎる。


なによりも、相手の男達のガラが悪い。


腕からタトゥーが見えている。


髪の色も、毛根に優しくない色だと思った。




「やだ!やだよ、やーだ!」




(ちょっとあれ・・・誘拐だって騒がれても、否定できないんじゃない・・・!?)




そう断言していいぐらい、女の子が暴れている。





「やめてっ!やだ!誰か!」





助けを求めるように言った女の子と目が合う。





「「あ・・・」」


(助けてって言われる!?)




そんな私に彼女は――――――――――




「誰か助けて!」



スイングアイ。




「え!?無視された!?」




しっかり目があったのに、スルーされた。


見て見ぬふりをして、私以外の他人に助けを求めた。




〔★凛は地味にダメージを受けた★〕






(ちょ、ひどくない!?あきらかに私と目があっていたのに、シカトするとか・・・・!?)





「助けて!ねぇ、そこのお兄さん達助けてよ!」




傷つく私の前で、女の子はある集団に声をかける。


なにか格闘技でもしてそうな数人の男子グループだ。




「え?俺ら?」


「お願いっ!助けて下さい・・・・!」


「「「うっ!」」」




可愛い女の子からの訴えに、男達は赤くなってから言った。




「おい、やめろっ!」


「嫌がってるだろう!」


「離せよ!」




よほど腕に自信があるか、良いところを見せたいと思っているのだろう。


タトゥーの集団に、ひるむことなく近寄って言った。


これに、女の子を連れ去ろうとしていた男達が答える。





「やめとけ。オメーらじゃ、手におねぇーぞ?」


「大勢で、1人をどうこうしよってのが、おかしいだろう!?」


「そりゃあつまり、俺らとやり合うってことかよ?」


「だったらなんだ!?もう部活動は引退して、ケンカになったぐらいじゃ不祥事にはー」



「これ見て、まだ文句言えんのかよ!?」




そう言って、男の1人が腕を捲し上げる。


例えるなら、時代劇の遠山の金さん。





〔☆良い子のためのワンポイント解説☆〕

遠山の金さん:実在した江戸時代のお奉行様を主人公にしたお話で、主役の金さんが、自分の腕の桜吹雪の刺青を見せて悪者をお仕置きするというストーリーだよん♪




「これが目に入らねぇーか!?」



「はぁ?・・・・あっ!?それ!?」


「うっ!?それってまさかー!?」


「あんたら、『あの』・・・・!?」




私の方からは、ハッキリと見えなかったけど、タトゥーを見せたのだと思う。


その腕を見せた途端、高校生の顔色が変わる。





「よぉ、俺らに文句あるのか?」


「そ・・・そういうわけじゃ・・・!」


「喧嘩でもしたいのか?俺らとしたいのかよ?」


「ち、違う!ただ、女の子をいじめるのは良くないと――――――」



「いじめてねぇーよ!!」





腕を見せた側が、大声出したと思ったら、かなり近い距離で高校生の1人をニラむ。





「オメーら、いじめでもしてるように見えたのか?」


「い、いや・・・喧嘩は良くないと・・・!」




いやいや。


(どう見ても、ケンカじゃないじゃん?)




どんどん小さくなっていく高校生たちの声と威勢。


周りも、遠巻きでこの現場から離れていく。





「ケ、ケンカじゃないなら、いいです。行こうぜ。」


「あ、ああ。電車遅れるし!」


「さよならー」



「え!?ちょっとー!?」



(弱っ!)




戸惑う少女を残し、頼もしい体格の彼らは立ち去った。





(というか・・・逃げた?)





〔★見捨てたとも言う★〕




目の前で起きた納得できない現象。


そう思ったのは私だけじゃなかった。




「な、なによそれ!?それでも男なの!?あんた達―!」




助けられなかった少女が、一番納得できていない。




「オラ!諦めてこいよ!」


「往生際が、悪いんだよボケ!」



「やめてよ!いやぁー!」





可愛い子が叫ぶ。


だけど、誰も近寄らない。


止めない。


助けない。





「ねぇ、あれ可哀想じゃない?」


「ダメよ、かかわったら。4股か5股して男にばれたんじゃない?」


「危なそうだよねー誰かが助けるでしょう?」




冷たい声が通り過ぎていく。




(そりゃあ、なんでもめてるか理由は知らないよ・・・わからないよ・・・だけど・・・)




そんな言い方ないんじゃない?






「離してよぉ~誰か、誰か助けてよぉ!私、何も悪いことしてないのに・・・・!」




冷たい声を遮って、少女の悲鳴がした。






「助けてっ!!」





(泣いてる・・・・)




ボロボロと、頬を染めて泣いていた。


それが私の中で決め手となった。






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