第12話 これ次第で、彼は大きくも小さくもなるで。
「お水、いれましょうか?」
女性店員が、水の入ったステンレス製のポットを持ってきた。3人とも所望したので、彼女はそれぞれのグラスに水を入れ、一例して去っていった。
「ただ、なんです?」
今度は、若い方の教え子でもあり、職場の部下でもあった古村氏が尋ねる。
彼の弁に、老恩師は静かに、しかし、確信を込めて思うところを語った。
彼のかねて述べておる「社会性」というか、「実務能力」、「社交性」。
これらは大槻和男たる人間には欠かせぬものじゃが、もちろん、よつ葉園を運営していく上で大いなる武器となろう。
大槻の息子さんらや、3年前よつ葉園を退所して、今や高校生となった米河清治。あの子らには、大槻君の手法や思考は、大いに役立つであろう。
じゃが、それだけであのよつ葉園にいる子らがすべて、社会に出て上手くやっていける力を身につけられるとは、わしは、思っておらん。
そりゃそうじゃ。
米河清治や大槻の息子らのような能力のある児童が、あのよつ葉園にいるか?
実は、いないわけでは、ない。あのZ君という、米河君と同学年の子じゃ。
彼にはもちろん、大槻の手法は通用しよう。
というより、あの少年に関する限り、あの男の手法以外の、他の職員の言動や手法などが通用するとは、わしも、ゆめゆめ思えんのじゃ。
本来ならここまで来れば、大槻自ら担当と称して出張ってでも、何とかせなあかんレベルの子よ。じゃがそこは、彼もしたたかなようで、それでは自分が直接やりますとは、やらん。もちろんそれが保身による逃げの一手であるとは言わないが、ここまで来ておれば、彼自身が出向いてでもやらねばならんところまで、あの少年は来ておるわけじゃよ。どうやら聞くところによれば、そのZ少年の担当を短大の二部を出たとある保母にさせておるようじゃが・・・、そんな程度の手法で、Z相手の仕事が成功するわけも、ないじゃろう、なぁ・・・。
さてそこのあたりを、あの男、いかに気づきいかに対処できるか、だ。
それによって、大槻和男という男は、大きくも小さくもなるで・・・。
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