老恩師を見舞いて
与方藤士朗
第1話 総合病院の喫茶へ
岡山駅西口から徒歩圏内のS会総合病院。
ここに今、老いた元小学校教師が入院中。
その病室に、教え子が二人、やってきた。
時は、1985(昭和60)年4月X日。
この日は日曜日。心地よい晴れた春の日。
本エピソードは、そのとき起きた出来事。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
二人の中年男性が病院の受付を通って、病棟のナースセンターまでやってきた。
「東さん、面会の方が来られましたよ」
若い看護婦(現在の看護師)の声が、病室内にこだました。
「どなたかな?」
「男性がお二人、教え子の方々です」
見舞いに来たのは、その看護婦よりはいささか年長の男性2名。
一人は30代の半ばに至ろうとする校長時代の教え子。
もう一人はもうすぐ50代になろうという紳士で、終戦直後の教員時代、担任を務めていた時の教え子。
もちろん、彼らの通っていた小学校はまったく別である。
この二人がかつて同じ会社にいることを元教師が知ったのは、この二人が同じ会社に勤め、ともに東京に赴任していた頃。
それからすでに10年以上の歳月が流れている。
若い教え子は現在、この老教師が定年後園長を務めた養護施設よつ葉園で、現在も事務員として勤めている。年長の教え子のほうは、その会社をすでに退職して自らの会社を興し、現在社長業にいそしんでいる。
「おお、古村さんに岡本さんかな。お久しぶりじゃのう。まあ、よう来てくれた。せっかくでもあるから、下の喫茶で話そうではないか」
「先生、大丈夫ですか? 無理なさらなくても」
年長の教え子が、少し遠慮がちにたしなめた。
しかし、他の入院患者の迷惑になりかねないことも考慮されたのか、病棟の許可も下りたので(というよりも、むしろそうすることを勧められた)、入院中の老教師と教え子たちは、喫茶店に向かうことになった。
病院内の食堂の喫茶で、恩師は珈琲を所望した。
教え子たちも、それに倣った。
やがて、珈琲が運ばれてきた。
水の入ったグラスは、すでに来ている。
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