第39話 恩人たちのために(リツィアレイテ視点)




「リツィアレイテ将軍っ! 本軍から進軍せよとの通告がありました」


 伝令の兵からの指示が入った。

 ついになのね。

 特設新鋭軍の初出撃。


 決して失敗は許されないわ。


「総員、予定通り敵軍の退路を塞ぎなさい。補給線を奪われないように細心の注意を払いつつ、遊撃によって敵将を討ち取りなさい!」


 私の指揮する左翼側の軍は、主に本軍が実力を発揮できるようにアシストをすること。余計な奮戦を相手にさせないために、戦場を撹乱する役割がある。

 そのために、騎竜兵たちの活躍がこの戦いの鍵を握るのだ。


「ミア、索敵は地上の者たちに任せて貴女の隊は市街地上空に位置取りなさい」


「は〜い。わっかりました〜。んじゃ、スティアーノ、あとよろしくね!」


「はっ、ちょっ……はぁ……何で俺が。おい、お前ら、さっさと行って全部炙り出すぞ!」


 軽々しい口調のミアはのほほんとした顔でその他騎竜兵たちを率いる。

 態度が砕け過ぎていて、少し心配ではあるが、実力は保証できる。

 牽制は彼女に任せて問題ないでしょう。

 そして、索敵を引き継いだのは、スティアーノ率いる歩兵隊。

 森林の中に潜んでいる敵との相性が特に良いというわけではないけれど、注意を引いてくれればそれで十分ね。


「スティアーノ、任せましたよ」


「はい、リツィアレイテ将軍」


 それぞれが動き出し、戦況の加速が始まった。

 私は補給線の分断を維持する隊の見回りを行う。


「いいですか。敵兵が多くとも、落ち着いて対処するのです。情報共有はこまめに行っているので、負荷の大きい場所には増援が必ず駆け付けます。前線を上げるのも重要ですが、出来るだけ死人が出ない立ち回りを心がけなさい」


 兵たちは一同頷き、再度動き出す。

 私も、すぐに他の場所の様子を見回ろう。

 そう思い、騎竜に跨ったところで、再び伝令の兵士がこちらに駆けてきた。

 息が上がっているのを見るに、相当急いだようである。


「何事ですか?」


「リツィアレイテ将軍。それが、アルディア卿からの伝言を預かっております」


「伝言?」


「はい、伝言です!」


 アルディア=グレーツ。

 私をヴァルトルーネ皇女殿下と引き合わせてくれた恩人。

 そして、ヴァルトルーネ皇女殿下の専属騎士でもある。

 立ち振る舞いがとても綺麗で、最初は貴族の方かと思っていたけど、後にレシュフェルト王国の平民であると知って本当に驚いた。


 そんな彼からの伝言。

 私は頷き、話の続きを促す。


「伝言の内容は?」


「はい、では読み上げます。リツィアレイテ将軍へ──貴女と共に戦えて光栄です。必ず勝利を掴みましょう。…………とのことです!」


 緊急の内容ではなかった。

 けれども、彼がこんな風に私を鼓舞してくれたことが驚きであり、とても嬉しかった。短い言葉だけど、私に期待を込めての一言。

 私がヴァルトルーネ皇女殿下と初めて会った時も、彼は私のことを高く評価してくれた。


『リツィアレイテさんは指揮官に相応しい人物であると個人的には思います』


 彼がそう言ってくれた時のことを思い出す。

 自然と頬が緩んだ。


「リ、リツィアレイテ将軍?」


「んんっ、なんでもないわ」


 ──いけないわ。こんな時に彼の言葉を思い出して喜んでいるだなんて。気を引き締めていかなきゃ。


 伝令の兵に対して私は、


「ありがとう。伝言は確かに受け取りました。彼によろしく伝えてください」


 そうクールに振る舞った。

 内心は飛び上がり、喜びを大々的に表したかったが、一軍の将として、そのような軽率な行動は出来ない。


 ──この戦いが終わったら、彼を誘って飲みにでも行こうかしら?


 そんな先のことを考えつつ、私は気合を入れ直し、騎竜と共に飛び立った。

 ここまで期待されている以上、絶対に大きな戦果を上げなければ!


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