第32話 探し人の行方



 ヴァルカン帝国の首都、アルダンの街中。


 俺はヴァルトルーネ皇女とは別行動を取ることになった。

というのも、俺はヴァルトルーネ皇女からの指示で人探しを行っているからである。


「ここら辺、か……」


 ヴァルカン帝国の首都であるアルダンは目覚ましい発展を遂げている都市である一方、貧富の差も顕著に表れている。

 その証拠に、城壁の外側には、チラホラある小汚いボロ屋が並んでいた。



 平民であっても、城壁の内側と外側と住む場所によって生活水準はかなり変わる。

 内側にいる市民は比較的裕福。

 対して、外側に暮らす人々は治安の悪そうな無法地帯と思えるくらいに手入れの行き届いていないスラム街で日常を送っている。


「なんというか、コントラストが凄まじいな……」


 街灯も少なく、薄暗い。

 


 さて、どうして俺がこんなスラム街を歩いているかと言われれば、先程も説明した通り人探しをしているからである。

 ヴァルトルーネ皇女はお情けで誰かを助けようとはしない。

 彼女が人を助ける時、それなりの理由がある。

 だから、ヴァルトルーネ皇女の探し人も彼女にとって意味のある人物であることはこの指令を受けた段階で察していた。




『アルディア。ファディという名の男性を探してください。平民ながら、魔法が使えます。彼は領域制圧能力がとても高い、加えて諜報任務にも向いている。必ず私たちの仲間に引き入れたい人です……。彼はアルダンの城壁外側にあるスラム街に住んでいます。アルディア、私の代わりにお願い』




 ヴァルトルーネ皇女から伝えられた情報はかなり大雑把なものであった。

 実際、ファディという男は未だ見つからない。

 顔の特徴とか年齢とか分かればもう少し楽に探せるんだろうけど……。



「すみません、ファディという人を知りませんか? ここら辺に住んでるって聞いたんですけど」


「ファディ? 知らねぇなぁ。この区画にはいないと思うぞ」


「そうですか。ありがとうございます」


 かなり探したが手がかりは掴めない。

 ファディという男を知っている人がそもそも存在しないのだ。

 もう夜も遅い。どうしたものかと考え込んでいたら、


「ちょっとお兄〜さん?」


 背後から肩を叩かれた。

 何事かと振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

 年齢的には10代くらい。

 細身だが肉付きもそこそこ。

 顔色も周囲の環境から考えるといい方である。


 赤髪で顔の彫りがはっきりした優しそうな雰囲気。

 しかし、その優しげな空気感とは裏腹に違和感が存在していた。

 言葉では言い表せないが、何かがズレているような感覚。


 ──不自然さ、なのか?


 ちょっとだけ警戒。

 しかし、その青年はグイッと顔を近付けてくる。


「ファディって人を探してるんですか?」


「ええ。はい、そうですが……」


 青年は興味深そうに尋ねてくる。

 そして、何故なのかというような顔でこちらをじっと見てきた。


「ファディに何か用事?」


「貴方はファディさんをご存知なんですか?」


「まあね。それで、お兄さんはどうしてファディを探してるの?」


 聞かれて俺は答えるか戸惑った。

 ヴァルトルーネ皇女から探せと命じられたとはあまり言いたくない。

 事が大きくなる可能性が高いからだ。

 加えて、ヴァルトルーネ皇女がファディを仲間に引き入れようとしている。

 ……このことから分かるように彼はレシュフェルト王国との戦いにおいての戦力として重用されることだろう。


 ファディに戦争の人員になれなんてことを素直に教えたくはない。でも、詳しく説明しないとこの青年はファディの居場所を教えてくれるか分からない。


 考え抜き、絞り出した答えは、


「実は、皇室の命で優秀な人をスカウトするように言われていてね。ファディさんのことは、風の便りで凄い人だと聞いたんだ」



 極限まで流した答えだが、嘘ではない。

 皇室(ヴァルトルーネ皇女)の命令は本当だし。

 優秀な人たちをスカウトするのは俺とヴァルトルーネ皇女の間で取り決めていたことだ。

 風の便り……というのも、

 ヴァルトルーネ皇女から又聞きしたものであるから、それも誤りじゃない。


「へー、そうなんだ」


「だから、ファディさんがどこにいるのか教えて欲しいんだけど……」


 そう言った俺に、青年は笑顔のままある情報を伝えてきた。

 俺の知らない話。

 けど、ヴァルトルーネ皇女はこのことを知っていたと思う。



「でも、お兄さん。ファディの悪行とかは知ってるの? 彼は暗殺稼業で生計成り立たせてるヤバい人なんだよ」


 彼の顔色の変化を確認しつつ、俺はスッと背を正した。


 

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