反逆者として王国で処刑された隠れ最強騎士〜蘇った真の実力者は帝国ルートで英雄となる〜【書籍化&コミカライズ企画進行中】

相模優斗『隠れ最強騎士』OVL文庫

1章

第1話 記憶に残り続ける敵国の皇女




「被告、アルディア=グレーツ。貴殿は、国家反逆の容疑がかけられている。異論はあるか?」



 ──ああ、これはもう死ぬんだろうな。



 レシュフェルト王国の裁判所内には、酷く冷たい空気が流れていた。


 今静かに呼ばれた名前。



 ──アルディア=グレーツとは、俺のことである。



 国家反逆の容疑をかけられた俺は、裁判という名の一方的な断罪の場面に遭遇している。

 異論反論なんてものは、はなから認められていない。

 反逆の罪はほぼ確定。


 あとは、俺がその罪状に頷くだけで処罰が決定するのだ。


「…………」


「アルディア=グレーツ。何も喋らないということは、反逆罪を認める……ということで良いのだな?」


 ──馬鹿なことを。何を喋ったところで、この裁判所内にいる誰かしらがそれを遮って、主張なんて許されないくせに。


 でもまあ、反逆罪……完全に間違っているわけじゃないか。

 レシュフェルト王国は、つい数ヶ月前まで他国との戦争をおこなっていた。

 ヴァルカン帝国。

 レシュフェルト王国との戦争に敗戦するまでは、この世界で最も大きな国であった。


 ……今では、見る影もない。

 レシュフェルト王国との共同戦線を張っていた各国がヴァルカン帝国領をそれぞれ分割で統治し、かの大国、ヴァルカン帝国は滅亡した。

 そんな今は亡き帝国の皇女。

 俺はその人に助けられたことがあった。



 ヴァルカン帝国の皇女。

 ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフ。



 雪のように白い髪と常に前を向く強い眼差しが印象的な女性だった。

 しかし、残念ながら、彼女は既にこの世にはいない。


 レシュフェルト王国内にて、斬首刑でその短い生を終えたのだ。

 敗戦国の皇女ではあったが、彼女は最後まで気高く、凛々しい表情であった。

 死が目前に迫っても、逃げも隠れもしない。

 最期の最期まで、何一つとして諦めていなかった。


 ──彼女には一秒でも長く生きていて欲しかった。


 俺は戦時中に何度かヴァルトルーネ皇女と遭遇した。

 敵国同士、殺し合う運命を互いに持ち、偶然にも彼女の姿を視界に捉えることができた。

 最初は殺してやろうと思い、剣を振ろうとしたのだが……。


『う、ぐっ……』


 ヴァルトルーネ皇女の目の前へ辿り着いた時には、帝国軍の兵士から受けた攻撃によって傷だらけの半ば死にかけている状態だった。


 当然、俺の剣は彼女に届かなかった。


 帝国側の討つべき存在が目と鼻の先に存在しているのに、身体は満足に動かせない。

 あと少しだったのに……志半ばで力尽きるのか。そんなことを思いながら、力無く俺は地に伏した。


 ──けれども、


『しっかりして。今、治癒魔法をかけるから』


 敵軍の兵士に過ぎない俺へ、彼女は手を差し伸べてくれた。

 なぜなのだろうか。

 理由を聞くと、


『過去の恩を返しているだけ。他意はない』


 それだけ告げ、俺の治療を終えると彼女はその場を立ち去った。

 俺と彼女の接点なんてなかったはずだ。

 いや、完全になかったわけじゃないのだろうな。

 王国と帝国の関係性がまだ悪くなっていなかった頃、王都にある士官学校でほんの数分だけ言葉を交わした。

 ただ、本当にそれだけであった。


 彼女に恩を売った覚えはない──。



 だから、俺の方が彼女に借りを作ったように強く思った。


『また会ったわね。どうする、今度は殺し合いでもするの?』


 戦地を転々としていると、度々ヴァルトルーネ皇女と顔を合わせることがあった。

 彼女は己に護衛なんて付けていない。

 高い身体能力と魔力、軍の指揮能力を活かして、最前線で戦っていた。とても、皇女様のすることとは思えないが、生半可な兵士では、彼女に傷一つ付けることすらできない。


 それだけヴァルトルーネ皇女率いる皇軍は圧倒的に強く、各地で王国軍を次々に打ち負かしていた。


『いや、殺し合わない。……命の恩人に剣を向けるような品のないことはやらない』


『優しいのね……昔から、全然変わってない』


 昔からか──俺は、そこまでヴァルトルーネ皇女と親しくした記憶がない。


『別に普通だろ。俺は特別優しいわけじゃない』


 そう告げるが、彼女は首を横に振った。

 そして、ずっと俺の側で見てきたかのように微笑む。


『貴方は優しいわ。学園にいた頃、貴方と話したのは、卒業間際の一瞬だけだった。けれど、貴方が日頃積み重ねてきたものを私は確かに知っている……そんな貴方だから、助けたのよ』




 彼女のその言葉は俺の頭の中にずっと残っている。


 この身が絶えようとも、決して消えることはない。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あとがき


『隠れ最強騎士』をお読みいただきありがとうございます。

本作はなろう発の書籍化、コミカライズ作品です。

カクヨムでも同様に更新していこうと思いますので、今後とも応援のほどよろしくお願い致します。


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