幼馴染と別れたい!

平等望

プロローグ 幼馴染の俺たちは…

 幼馴染。それは友達や親友とは違う特別な関係。


互いの過去や本性など知りに知り尽くした関係であり、人によっては家族にも遠からずな関係と呼称する人も少なくはないだろう。


男同士や女同士の幼馴染が多い中、異性の幼馴染も存在する。


俺、豊川勇人(とよかわはやと)と長久手舞(ながくてまい)は異性の幼馴染だ。


幼稚園に入る前から家が隣同士であったため、よくお互いの家で遊んでいた俺達は

もうすぐ高校二年生になる今、知り合ってから15年の月日が経とうとしていた。


幼稚園、小学校、中学校、高校とすべて同じところに通っていた俺達は正に『幼馴染』と呼称するのに相応しいだろう。実際俺も舞も互いを紹介するときは幼馴染と紹介するくらいだしな。


 互いに恋人ができない俺達は小さいころからの名残でいつも一緒に学校へと通っていた。


そうなれば学校中でそれなりの噂が立ち中学校、高校ともに俺たちの関係は噂といじりの温床となっていた。


高校生活最初の一年間では俺と舞が同じクラスなのもあって、毎朝口笛や茶化しを受けて学校が始まるという生活を送っていた。


そんな生活が続いていた高校一年生の最後登校日に俺は舞を校舎裏へと呼び出していた。


たくさんのギャラリーがもはや隠れているのかも怪しいレベルで桜が咲く木の下で向かい合う俺と舞を凝視していた。


この雰囲気で行うことと言えばもはや一つしかない。


俺は覚悟を決めて、心の中に何度も書いたその言葉を口に出す。


「ずっと好きだった。俺と付き合ってくれ!」


熱くなった顔を舞のほうから決して離さず俺は強く、大きく舞に告白をする。


「!?…うん。こちらこそよろしくね!」


満面の笑顔で顔を真っ赤にしながら舞が返事をすると、周りのギャラリーたちが一斉に喚きだして男は俺、女は舞のもとへと駆け寄る。


「やったな勇人!」

「やっとくっついたな!」

「ここまで長かった!」

「おめでとう舞ちゃん」

「よかったね舞ちゃん」


祝福の言葉と祝祭の口笛が鳴り響く中心にたった今から恋人になった俺たちが居る。


小さいころからの仲でずっと一緒にいた俺たちがようやく結ばれた瞬間。


それは何処から見ても青春のハッピーエンドに他ならないだろう。


青春の理想のような関係と幕切れ。


もしこれが物語なら恐らくここでエンドロールが流れていることだろう。


…だけど俺にはとある一つ、大きな問題があった。


実は俺、豊川勇人は幼馴染である舞のことを…


『人生で一度も好きになったことがない』



 放課後、幼馴染の勇人に呼び出されて校舎裏に行くと勇人が桜の木の下でいつもに増して真面目な表情で待っていて、そして沢山の人たちが私と勇人を覗き見していた。


こんな状況でされることと言えば一つしかない。


「ずっと好きだった。俺と付き合ってくれ!」


案の定、私は幼馴染である勇人に告白された。


「!?…うん。こちらこそよろしくね!」


答えると一斉に生徒たちが私たちに駆け寄ってくる。


15年近い付き合いの幼馴染に告白されるなんて正に皆の理想。


そんなありふれた理想が今、現実で起こっている。


…でも、私にはそんな陳腐な理想通りにいかないとある重大な問題を抱えていた。


実は私、長久手舞は幼馴染である勇人のことを…


『人生で一度も好きになったことがことがない』



『『こうして俺(私)は好きでもない幼馴染と付き合うことになってしまった…』』

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