第21話 大賢者、誘拐される
俺とメリスちゃんは一体となって雪だるまを作っていた。
小さな雪玉をごろごろ、ごろごろ転がしてだんだん大きくしていく。
さらさらした粉雪だから、きれいに丸くなって気分がいいな。
べた雪だとゴツゴツした仕上がりになるんだよね。
メリスちゃんの腰のあたりまで雪玉が成長してくると、さすがに重たくなってくる。
そろそろ頭用の雪玉づくりに移ろうか?
「もっとおっきくしたーい!」
「そっかあ。じゃあもう少しだけがんばろっか」
「……シロも、手伝う」
「ありがとー!」
銀髪の少女が参戦したことで、雪玉づくりがはかどる。
メリスの胸くらいの高さになった胴体に頭部を載せたら素体の完成だ。
「でも、お手々もお顔もないよ?」
「……枝、拾う」
「わかったー!」
銀髪の少女とともに、近くで雪をかぶっていた低木の枝を折る。
黒竜山脈ではしばしば強風が吹き荒れるため、樹木は折れないよう地を這うように成長するのだ。
雪だるまの胴体に枝の腕を差し、丸い石ころでお目々をつけたらひとまず完成だ。
さて、鼻と口がないのが少々さびしいが――
「セージ、食事の準備ができたぞ。メリス君を連れて戻って……おい、その娘は何だ?」
「一緒に雪だるまさんを作ったんだよっ」
「見事な出来栄えだろ? あっ、そうだ。あの映魔機ってやつで撮ってくれよ」
「うむ、たしかに見事だ。きれいな球形に仕上がっている。王都に降る雪ではこうはならんな。映魔機を持ってこよう……って、そうじゃない! その一緒に遊んでいる娘は誰だと聞いているんだ!」
改めて問われ、俺とメリスは首を傾げた。
きぐるみモードだから完全に一体の動きだ。心が通じ合っていることを感じるぜ。
「お前は何者だ? このあたりに人族は住んでいないはずだ」
「……はじめ、まして」
キョトンとしている俺とメリスを放置して、ミストが銀髪の少女を問いただしている。
そういえば、この子は誰なんだろう?
「……シロ」
「シロ? それが名前か?」
少女が細い首をこくりと曲げてうなずいた。かわいい。
メリスより、ちょっとお姉さんくらいの年頃かな。金髪のメリスと、銀髪のこの子を脳内で並べてみる。年の近い姉妹ってかんじで微笑ましいな。いや、金髪と銀髪で姉妹設定はさすがに無理があるか。銀髪のこの子は近所に住んでる年上の女の子だ。末っ子で、ずっと妹が欲しかったからメリスがかわいくて仕方がないんだな。しょっちゅう遊びに誘いに来て、ちょくちょくお姉さん風を吹かせるんだ。おじさんとおばさんもそれを微笑ましく見守っていて――
「何が目的だ? なぜ近づいてきた? 種族は何だ? 雪妖か? 油断させて取り殺そうとでもいうのなら、容赦はしないぞ」
「……匂い、したから」
「匂いとは何だ? 人族の肉の匂いか?」
いかん、ミストが激詰めモードだ。
シロちゃんが萎縮してしまっている。かわいそかわいい。
「あー、ミスト。俺もこの娘のことはわからんが、危険な魔物ではないと思うぞ」
「なぜそう言える?」
「ええと、危ない魔物は旧き盟約がどうたらで狩られちゃうんだよね」
「実際、この山では何人もの冒険者が命を落としているんだぞ」
「うーん、それは単純に遭難したんじゃないか? それか、欲をかいてやばいやつにちょっかいかけたか」
「やばいやつとは何だ?」
「えっと、それは……」
俺が言い淀んでいると、空から山を震わせるような声が降ってきた。
【シロよ。夕飯の支度ができたぞ。帰ってくるのである】
頭上から暴風が打ちつけられ、雪が激しく散る。
見上げると、青空を塗りつぶさんばかりの巨体が羽ばたいていた。
勇ましい恐竜のような頭に、鋭い爪を持つ短い前肢。人間程度は易々と踏みつぶせる太くたくましい後肢。巨体を空に浮かべる雄大な翼。そして、全身を覆う黒曜石の如くきらめく鱗。
「ドラゴン……だと? これほど、巨大な……」
ミストがぽかんと口を開けて空を見上げている。
おお、これは珍しい表情だ。映魔機を常備したくなるな。とりあえず俺の魂のマイ・アカシックレコードに刻みつけておこう。
【……うん、帰る】
今度は少女の身体が、見上げるような大きさの、白銀の鱗を持つドラゴンに変じた。
そして突然の浮遊感。肩を掴まれている。
メリス・イン・きぐるみモード俺は、白銀のドラゴンに宙吊りにされていた。なるほど、少女の正体は人化したドラゴンだったようだ。
【……セージ、来る。一緒、食べる】
「メリスもおなかすいたー」
【……メリスも、食べる】
「やったー!」
俺とメリスは、ドラゴンに誘拐された。
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