03 街歩き

イズミは計算力を買われて、書類の数字の部分を確認する仕事を始めた。


午前中は書類仕事。午後は乗馬をやったり、図書館に通ったりした。


イズミは夢と同じように魔法が使えるようになっていたが内緒にしていた。


王宮の生活の窮屈さや恐ろしさは前世でよく知っている、この世界の事情がわかり次第出て行くつもりだ。


できれば他の国で治癒士としてのんびり暮らしたい。この世界の事情次第だが・・・


使える魔法も増えた。髪と目の色を変えられるようになり、空間収納ができるようになった。


残念ながら攻撃魔法が発現してない。剣と体術で最低限身を守れそうだが、自信がない。


今、練習しているのは物を動かすことだ。そしてどうせ動かすなら縫いぐるみや人形を動かしたい。


城をでたら広場などで見せて投げ銭で生活してもいいと思いついたのだ。



「買い物に行きたいってことですか?人形か縫いぐるみを買いたいってことですか?」とジョーが笑いながら言った。


「街を見学したいとずっと思っていたんだ」


「そうですか?」


「街に行きたいのか?」と後ろから声が降ってきた。


イズミとジョーは飛び上がって


「帰ってきたのなら声をかけてくださいよ」


「いや、声を掛けたぞ、二人共話に夢中で聞いてなかったぞ」


ジョーとイズミは顔を見合わせて首をかしげた。


「早く行きたいだろ、明日連れていこう」


「え?アレンが?」とイズミが驚くと


「いやか?」


「いや、仕事が忙しいかなと」


「イズミにかこつけて俺もさぼるさ」


「お願いします。それとまだ給料がでてないので前借り出来ますか?」


「わかった心配するな」



翌日、アレンと連れ立ってイズミは出かけた。イズミはアレンに言われてフードを深くかぶっていた。


町並みは夢で見ていた町並みと似ている。イズミの前世の記憶はかなり戻っているがおぼろげで夢か現かと・・・今でもふと自分は夢のなかにいるのではないかと思うことがあった。


街を歩いていると冒険者ギルドを見つけた。夢と同じマークだった。


冒険者ギルドを見るイズミをみて


「イズミ、城から出たいのか?」


「最初からそのつもりだって知ってるでしょ。アレンもいるけど神子じゃないぼくが長くいられるところじゃないし」


「そうか・・・・城をでたいのか・・・・異世界人の知識を提供してもらえたらと思っているが・・・・」


「そういった面は自信がないな。まだ学生だったし・・・・」


「学生?」


「成人前で教育の途中だってこと」


「なるほどな・・・・よく考えないといけないな。先ずは買い物だな」


「ぜひぜひ」


「わかった。まずは人形とか縫いぐるみだったな」とアレンが笑った。




「すごい、こんなにたくさんあるのか」


アレンは店主にすすめられた椅子に腰掛けてお茶を出されたりしている。


「ゆっくり見ていいぞ」


「うん」


縫いぐるみはイズミが日本で知っているものによく似ている、どちらかというと日本よりアメリカ、ヨーロッパに近いかもしれない、日本の可愛さというより子供を安心させるって感じがする。人形もお姉さんって感じだった。これは魔女の衣装を作って動かしたら受けそうだ。


イズミは縫いぐるみにこっそり魔力を通して右手をちょっとだけ動かしてみた。魔力がよく乗るのとそうでもないのがあって面白い。


いろいろ迷ったけどクリーム色のうさぎさんにした。それを抱えてお店の人に見せると支払いはアレンがしてくれた、届けるというのにアレンが鷹揚にうなづいた。


後はアレンに連れられてある店にはいったが外見からなんの店かわからなかった。

あちこち採寸されて洋服をつくるとわかったが、


「アレン、僕にはこんな服」と言いかけたところで


「必要になるから・・・・城の生活の中ではな・・・・後で説明する」


採寸が終わったあとイズミがお茶とお菓子を食べて待っている間、アレンが細かく打ち合わせをした。


最後に魔道具の店に行った。珍しそうにみているイズミをアレンが見守っていた。




「腹が減っただろう。いいところに案内する」


「うん、腹ペコだ。どんな店かな」



レストランを見てイズミが


「この格好でいいの?ここってドレスコードありそうだけど」


「個室を頼んだから、安心しろ」



案内された部屋は二人で使うには広すぎるような気がするが、アレンが普通にしているのでイズミは黙っていた。だがついあたりをキョロキョロしてしまった。


「ここで話したことは外に漏れない。と言ってもピンと来ないな?まぁ王族だった者の習性だと思って欲しい」


「わかった」


「神子のワタヌキだが、イズミは向こうで知り合いだったのか?」


「全然、知らないやつだ」


「お前の態度でそう思っていたが、ワタヌキはお前に敵意を持っている」


「あぁ。そうか。実は召喚の時、足元に魔法陣が展開したとき、僕はそれから降りようとしたんだが、誰かが・・・状況からいうとワタヌキだな・・・・そいつが僕を後ろから押しつぶすようにしたんだ。上から押さえつけられて動けず、うずくまっていたらこっちに来ていた。あいつ・・・どさくさまぎれに僕を蹴ったしな」


「ちょっと動きが不自然だったのはそういうことがあったのか?」


「でもあいつは召喚のときが初対面だからな」


「ワタヌキは知っているって様子で、イズミのことを・・・まぁ結論から言うと怖いから城から追い出してくれと言っている」


「そんなら関わりたくないから、城からでますよ。神子に嫌われるとか僕の立場やばいでしょ」


「そうだな、関わらないのが・・・新鮮な考えだ。関わらないって・・・・話し合うとか戦うとかでなく、関わらない」


「でしょ、でしょ」


「だが、ひとつだけ頼まれてくれ」


「いい話じゃなさそう」


「悪い話だ」


とアレンは悪戯っぽく笑った。


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