第7話 同じことを早晩繰り返させないために・・・
志望動機 幼い頃から、喫茶店で働くことが夢でした。飲食店で接客することを通じて、お客さんに喜んでいただけるウエイトレスになりたいです。・・・
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「気にならんと言って見逃してやりたいところでは、ある。じゃが、そうはいかんな」
キッパリと申し渡した老紳士は、その問題となりそうなところを指摘した。
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「志望動機の欄。まさにここ。幼い頃からの夢であったことは、ようわかった。わしも、あの子の話にもう少し耳を傾けてやっていれば良かったかもしれんが、せっかく2年間も本屋で働いて、そこで得たものが何なのかも書かれておらんではないか。何かを読み取れるような要素さえ、見受けられん。あの子は、自分のこれまでの人生を全否定したがっておるような雰囲気が、わしにはこの文から読取れるな」
老園長の懸念と同じものを、若い大学生もまた、感じ取ったようである。
「そうねぇ。ぼくもそれを感じ取った。まあ、兄二人の事件があった直後でもあるから、何て言うのかな、変身願望というか、そんなものが強烈に見え隠れしているように思えてならない。それで確かに、一時的には満足できるかもしれないが、それに慣れて、やがて飽きが来たとき、どういう形で出るだろうか・・・」
「しかし何じゃ、哲郎。その「変身願望」というのは。妙な説得力のある言葉じゃのう。頭のええ若い人のお言葉にはついていけんわ(苦笑)。それはまあええとして、あの娘さんの、今の本屋の仕事では、哲郎の述べておる「変身願望」とやらは、満たされない、ということか?」
その趣旨を、哲郎青年が詳しく解説してみせる。
「そう。だからこそ、一見幼そうな表現の中に、彼女は今、強烈な願望に全身を委ねているってこと。そうすることで何とか自分を維持しているというところかな。だけど、喫茶店に限らず飲食店全般に言えることと思われるが、そういう店に勤める、あるいはそういう店を自ら運営していく上での「リスク」が、彼女にはまったく見えてないね。これは典型的な「隣の芝生は何とやら」の世界だよ」
「全くのう。この「窓ガラス」なる喫茶店が、清美にとっての「青い芝生」かいな。それではて、どうしたものじゃろうか?」
「とりあえず、清美さんが冷静に判断できる状況を、ぼくらで作ってやることだね。それで、心から納得できるように持って行くことが肝要であると思料します。そうでなければ、いずれまた早晩、同じことを繰り返しかねませんから」
ここで、マスターの娘がようやく意見を述べる。
「私も、大宮君の述べた方向で、岡山清美さんを説得すべきではないかと。先生、どうでしょうか」
厨房から彼らの話を聞いていたマスターが、当面の仕事を終えてやってきた。
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