第3話 ウエイトレスの女子大生による、状況報告

 ウエイトレス姿の女子大生が、珈琲と水の入ったカップとグラスを3人前運んできた。彼女は男性客2人にサーブした後、彼女自身の場にも自らカップとグラスをサーブし、一言断って、自らも、同級生の男子学生の横に座った。

 それぞれ珈琲をすすって少し落ち着いたところで、マスターの娘が話し始めた。


 実はですね、今日の2時頃、岡山清美さんが、うちに面接に来られる予定です。

 確か彼女は、市立商業高校の定時制課程に通いながら、下川書房って本屋さんでお仕事されていますよね。先週のほら、あの子のお兄さんたちが、太郎さんと三郎君、私も三郎君は知っていますけど、あの人たちがそれぞれ同時に、別の場所で、不慮の事故に巻き込まれてしまいましたよね。あの事件の後、たまたまうちの前をふらりと通ったときに、先生と大宮君がさっき見ていたあの求人広告を見まして、うちで働きたいって、突如入って来られました。

 何でも、早くお金をためて自分で店を持ちたいと言い出しましてね。

 ちょうどその日も日曜でして、お客もそんなにいませんでしたので、履歴書をここで書いてもらいました。聞くと、よつ葉園を中学卒業と同時に出られて、下川書房さんに住込みさせてもらいながら、本屋の店番と配達をしていると言っていました。

 私は清美さんとは直接面識はなかったですが、先日大学で大宮君に会って彼女のことを尋ねたら知っているとのことで、そちらでも事情をお聞きしました。

 本人は、本屋の仕事というのにそろそろ飽きてきたのか、自分の店を持つなら喫茶店のような飲食店がいいとか、そんなことを考えていたようです。

 何でも、ほら、私が今着ているような洋服を着て、お客さんにサービスするのが楽しそうだと。それに引換え本屋というのは、そういう楽しみがあまりないし、お客さんとの会話も、正直ついていけないことも多くてしんどいと。

 この件につきましては、父も母も同意見でして、これは森川先生に、彼女をどうしたらいいか相談してからでないと雇えないということになりました。ですので、どうか、森川先生と、それから、清美さんを知っている大宮君に相談したうえで、彼女も交えて、何とか、いい方向になるようにしてやらねばなるまいと、そんな話になっています。下川書房さんには、彼女は特にまだ話はしていないようです。

 とりあえず、この件はマスターが雇ってもいいと判断するまでは、下川さんにはお話ししないようにと伝えていますので。

 森川先生と大宮君にはお手数おかけいたしますが、どうか、お願いします。


 陽子さんはそう言って、森川園長と大宮青年に頭を下げた。

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