第32話 彼女と近付いた
シルさんに勧められるまま、色々な服を次々と試着して、お喋りをしていてパミュさんのことをすっかり、忘れるなんて。
私は何と、愚かなのでしょう。
母親失格ですね。
こんなことではシルさんにパートナーとして認めてもらえません。
パミュさんからも母親と呼んでもらえません。
お仕事に支障が出てしまいます!
「僕はあちらのフロアを探してきます。アリーさんは……」
「私はお手洗いを探します。パミュさんがなぜか、モジモジとしていたので、もしかしたら、どこかの女性用トイレに行ったのかもしれません」
「その可能性もありますね。お願いします」
「はい!」
これは汚名を返上するチャンスです。
パミュさんを見つけられたら、お二人からの評価がグッと上がるかもしれません。
いえ、違います!
純粋にパミュさんが心配なだけで……。
「あら?」
あの独特な髪の煌きは間違いありません。
パミュさんを見つけました。
でも、一人ではありません。
丸々と肥え太ったとても、立派な体をお持ちの男の人がパミュさんの腕を掴んでいます。
辛うじて、拾えた声は「嫁」という単語。
今にも泣きだしそうなパミュさんの怯えた表情。
パミュさんが結婚!?
ダメです! 母は許しませんよ! 父も許しませんから!
いけません……。
つい頭の中で思いが暴走して、勝手にシルさんの気持ちまで代弁していました。
私はまだ、母親と認められてもいないのに……。
「…………」
「い、い、痛い。痛いでござるよ」
気が付いたら、男の手首を思い切り、締め上げていました。
ミシミシと鳴る骨の砕けていく
壊したり、殺すのではなく、パミュさんを助けるのが目的なのでこれくらいでいいでしょうか。
骨も完全には砕いてません。
あくまで折れるかもしれませんくらいで留めたのはパミュさんの目があったから、辛うじて思いとどまっただけ。
男は「お、覚えてやがれでござるよ~」と捨て台詞を残して、逃げて行った。
あの顔、どこかで見た記憶が……どうにもいけません。
まだ、病み上がりで頭の調子がよくないのかしら?
これくらいでよしとしておきましょう。
止めを刺す訳にはいきませんよね?
人目もありますし、適度が一番。
そうです。
目立ってはいけません。
今は家族サービスの時間ですもの。
そう考えて、パミュさんを見ると今にも泣きだしそうです。
あれ? どうしたのでしょう?
「パミュさん。大丈夫でしたか?」
その時、身体が自然に動きました。
怯えて震えているパミュさんの身体を抱き締めて、その背中を撫でていることに自分自身が驚いてるのですから。
誰かに優しく抱き締められた記憶が見えた。
温かくて、安心して。
だから、今、こうして私はパミュさんを抱き締めている?
「ママ……パミュ、こわかた」
「もう大丈夫ですよ。安心してください」
誰かにしてもらったのと同じようにこうしているとパミュさんの体温と心臓の鼓動が感じられて、不思議な気分。
何だか、私の心まで温かくなってくるような感覚は今までに一度も経験したことがありません。
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