第22話 薔薇姫の迷い
日没までには帰ると言って、家を出ました。
しかし、予定とは往々にして、狂うものらしいです。
どうやら、急ぎのお仕事のようですね。
入ってしまった以上、遂行するのがお仕事です。
愛用の
問題があるとしたら、着ている服が汚れてしまうと面倒なことでしょうか。
スカートは濃い紺色なので返り血が目立ちにくいですが、ブラウスが淡い黄色だから困りました。
もしも、返り血が飛んだら、シルさんに何と言えばいいのでしょう。
私が怪我したと勘違いしたら、どうしましょう。
ダメですね。
返り血を浴びないでお仕事を終える。
これしか、手がありません。
ですが、『黎明の聖女』と呼ばれることになったのは返り血を浴びたせいでした。
普段、あのような初歩的なミスを犯さないのですが……。
心を消し、感情を抑え、
寸分
これで失敗したことはありません。
返り血を浴びるようなヘマもしません。
大丈夫。
私はやれます!
「
誰とはなく、呟いてしまいました。
最近、どうにも心が乱れていけません。
でも、不快には感じないのが不思議です……。
今回の
自由共和国議員であり、旧リューリク公国伯爵コンスタンチン・モロゾフ。
穏健・高潔と人柄も優れた和平派の主要人物の一人。
ところがこのモロゾフ卿。
あろうことか、西に機密情報を流し、恒久的な和平交渉という名分の下、同志に不利な条約締結を画策しているというのです。
これを看過することは出来ない。
『速やかに処理をするように』というのが、
あまりにも急すぎるのは
これを
パラティーノには
それは夜の闇があってこそ、なのですが……。
上はそこまでは考えてはくれないものですね。
困ったものです。
出てきたところを
しかし、日が出ていて、まだ人の目が多いのが厄介です。
やはり、
気が進みませんが、客の振りをして、レストランに入ります。
幸か不幸か、ドレスコードが必要な店ではありません。
私の服でも浮いたりはしないので怪しまれないように
私には切り札の
この異能を使えば、多少の距離があろうとも何の障害にもなりません。
会話を完全に聞き取ることまでは出来ませんが、ある程度、聞き取ることも出来るんです。
「姫君が……生きて……」
「……我々は彼女を……無事に……確保……」
断片的な会話ではいまいち、内容が把握出来ません。
確かなのはこの国に王女がいないこと。
周辺にも王女に該当する身分の持ち主はいません。
モロゾフ卿は西側に情報を流しているという話だったはず。
そのようには思えない内容です。
おかしいと感じました。
モロゾフ卿と同じ席に着いている中年の女性は特に何の変哲もない貴婦人にしか見えません。
ただ、この国の貴族で該当する顔が、思い浮かびません。
東にも該当者はいない以上、西の工作員と考えて、間違いないでしょう。
私はどうするべきでしょうか?
なぜかは分からないが迷っている自分自身に戸惑いを感じています……。
これまで
何の疑問も抱かない。
ただ、感情を消して、
それがシルさんやティナと関わるようになってから、迷いが生じ始めています。
「自分のこの目で見て、耳で聞いた方が確かですよ」と教えてくれた時のシルさんの笑顔が
それにおかしい……。
私ではない者からの明らかな殺意を感じました。
モロゾフ卿を狙っている!?
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