第20話 生まれる絆

(三人称視点)


 男は西のエージェント剣聖であるナイト・ストーカー。

 女は東のエージェント暗殺者であるカーズニ処刑

 互いの正体を知らず、偽りの夫婦となった二人の前にさらなる嵐を呼ぶ人物が現れた。


 「それでは行ってきますね。日が落ちるまでには多分、帰れると思います」と言い残し、冒険者ギルドでの通常業務が待っているアウローラはまだ、片付けが終わらない我が家を離れる。


 残された形になったシルヴィオ少女パミュの間に何とも言えない微妙な空気が流れていた。


「それで……君は一体、何者かな?」

(あの状況での機転。只者ではない。何者だ? ナイト・ストーカーの情報網にも引っかからないとは……)

「パミュは……」

(工作員ナイト・ストーカー! 何ソレ、カッコいい! パミュ、ワクワクする)


 何とも言えない沈黙の時間が二人の間に訪れる。


かんぺきなるじんぞうにんげんパーフェクト・ホムンクルス! りゃくして、パリュムパルム

(ホムンクルスだと? そうか。この屋敷を立てたのは錬金術師パラケ・ルッスース。彼は人造人間ホムンクルスの研究をしていたが……それが完成していたということなのか。しかし、待てよ)

(パパ! スゴイ。さすが、工作員!)

「それはおかしくないか。略したら、ではない。だ」

「ガーン」


 明らかにショックを受けたのか、大きな目を潤ませ、今にも堤防が決壊し、涙が溢れそうなパミュにさすがのシルヴィオもたじろいだ。


「すまない。つい……ね。君を泣かせたい訳ではなかったんだ」

(困ったな。小さい子を相手にする場合はあのマニュアル通りにするべきか。プランの変更も仕方なしだな)

「しってる。もんだいな

(パパ! マニュアル人間!?)


 再び、沈黙が場を支配する。

 互いに相手の出方が読めないせいで、口を開くのに躊躇ためらいがあるのだ。


「一つ、提案があるのだが……」

(良く分からない子だ。感情が豊かで表情もコロコロと変わるのに何を考えているのか、読みにくい。賢いのか、鈍いのかも読みづらい。だが、この子をうまく使えば、アリーさんの警戒心や疑念を減らせる可能性が高い。ここは利用するべきか)

「パミュ、やる」

「まだ、何も言ってないが?」

「やるます!」

「いや、だから、言ってないんだが……」

「やるますやるますやるます。ママにいう。うそはいくない」

「…………」

(どういうことだ? 俺がアリーさんに付いているをこの子が知っているというのか? いや、それはありえないな。では何を言っているんだ?)

「パミュはパパとママのこ」

(ママ怖い。パルムのこと、ちゃんと言えば平気)

「君が人造人間ホムンクルスであることを伝えた方がいいと言うのかい?」

「うん」

「しかし、それでは……」

(確かにその方が合理的ではある。この子の見た目は俺とアリーさんの身体的特徴を取り入れたものと考えて、恐らく間違いない。そう打ち明けた方がアリーさんに余計な負担をかけないはずだ。だが、それでいいのか? この子は人間だ。人として、明るい道を歩くべきではないか? 俺は誰もが明るく、笑って暮らせる平和な世界を作りたい。だから、ナイト・ストーカーになったんだ。それで本当にいいのか?)

「だいじょうぶ。パミュつよい」

(パパ、スゴイ! 何だか、よく分からないけどスゴイ! カッコいい!)


 少女パミュは難しく、考えることを放棄した。

 しかし、何の考えも無しにどこか、自信に満ち溢れたパミュの顔にはまるで悟りを開いた賢者のような表情が浮かんでいる。


 それはシルヴィオを誤解させるのに十分過ぎるものだった。


「パミュ……君という子は。分かった。だが、君はまだ子供なんだ」

(何という目をしているんだ。こんな幼い子がまるでこの世の深淵を覗いてきたような目をするとは……。やはり、駄目だ。この子に背負わせてはいけない!)

「僕に任せてくれ」


 シルヴィオの手が自然に伸ばされ、パミュの頭を撫でていた。

 そこにいたのは感情を捨てた完璧なナイト・ストーカーではない。

 平和な世界を願い、一人の少女の幸せを願う若者の姿がそこにあった。


「パミュ、わかった」

(父もこうしてくれた。パパのも悪くない)


 シルヴィオ少女パミュの間に微かな絆が生まれた瞬間である。

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