第8話 彼と約束した
「僕と結婚しませんか?」
ジュラメントさんの損しない得しかないという提案はとんでもないものでした。
想定外すぎます!
これまで
出会ったのは今日。
正味、行動を共にしたのは数時間といったところ?
好意とまでは言わないけど、好感が持てる人だとは思っていました。
それは嘘ではありません。
でも、いきなり結婚はないです。
ないと思うんです……。
「あ、あの……」
思わず声を荒げようとしたら、唇が彼の指で止められました。
顔がいいと得ですよね?
怒るのよりも何だか、許せてしまうんだから。
「ああ。違います。変な勘違いをさせるような言い方をして、すみません。僕と夫婦になりませんか? ああ。いや、これも違いますかね。僕と契約結婚をしませんかということです。つまり、偽装結婚とでも言うと分かりやすいでしょうか」
私の唇に指を副えたまま、ジュラメントさんはとても爽やかな笑顔を見せると呟き声でさらに衝撃的な言葉を告げました。
偽装結婚?
偽りの夫婦にならないかということなんですか?
頭の理解が追い付かないのですが。
この人は気配りも出来るし、仕事も出来るみたいです。
おまけに顔までもいい!
完璧人間のように見えるけど、もしかして、かなりお間抜けな方でいらっしゃるのでしょうか?
ジュラメントさんから詳しい話をうかがうとどこも同じような状況にあり、商人ギルドも冒険者ギルドと同じようなものということです。
独身者では肩身が狭い思いをするのはどこも一緒なんですね。
商人は何よりも信用を重んじる風潮があるので冒険者よりも大変なんだとか。
独身だと変な色眼鏡で見られるなんて、冒険者ギルドで同僚に嫌味を言われるのより、ずっと辛いかもしれません。
「いいですよ。偽装なんですよね? でも、一つだけ聞いてもいいでしょうか? 何で私を選んだんですか?」
「それは……」
ジュラメントさんは一呼吸おいてから……
「アウローラさんが魅力的だからですよ」
「う、嬉しいです。お願いします」
絶対、嘘! とは思っています。
思っているのだけど……。
でも、ジュラメントさんに手を握られて、そんな台詞を言われたら、断るという選択肢は無かったのです。
だって、私にとっても決して、悪い話ではないから。
結婚することで得られるメリットは大きいです。
まず、独身だからということで変に私生活を勘繰られることがなくなります。
これは大きいのです。
お仕事がある以上、変な憶測を呼ぶ行動は避けたいですから。
虫除け。
言い方はかなり、アレですが、まさにそれしかないのです。
表向きではあっても夫という存在がいるのといないのでかなり違います。
社会的信用があれば、お仕事はしやすいでしょう。
言い訳は色々と考えてみましたが……。
純粋にジュラメントさんという人間に興味を抱いているのが、もっとも大きな理由です。
これは否定が出来ません。
無意識に作っている心の壁をまるでなかったように距離を詰めてこれるのはなぜでしょうか?
不思議なことに嫌悪感がまるでないんです。
魔法でも使っているのかしら?
恋の魔法なんて、聞いたことはありません。
ましてや、私は恋をしている訳では……ないですよね?
単純な知的好奇心によるもので心臓がドキドキとうるさいのはきっと、気のせいなんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます